星空(仮)の下で謎解きを

木材あかり

文字の大きさ
上 下
15 / 28
プラネタリウムは密室(仮)ですか?

☆☆☆☆☆

しおりを挟む
――という訳なのですが。何が起こったのかわかるでしょうか?」

尼寺は促されるままに椅子に座り、プラネタリウム番組の終了から退出するまでのことを話してくれた。

「なるほど、全貌はわかった。でもまず初めに、投映中に寝落ちしたらダメだろ」

これは先輩として言っておかないと。

「すみませんでした。つい緊張の糸が緩んでしまって」

「だめだよニージちゃん。眠るにしても有事のときに対応できるように浅い眠りを会得しなきゃ!」

素直に謝る尼寺に対し余計なことを教える家名。お前も寝てるのかよ。

「精進します。今度そのコツを教えてください」

「素直かよ。投映中寝ていると公言した家名は後でシメるとして、もう少し詳しく話を聞こうか。まず入場者は28人で確実なのか?」

え? わたし? 冗談ですよ! と狼狽える家名をよそに、尼寺は一考した後答える。

「はい。総観覧者28人でした。観覧券もしっかり28枚回収しました。完全数です」

頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる家名。

「えっと、完全数ってなんですか?」

聞き慣れない言葉だからな。少し説明してやる。

「自身を除く約数の和に等しくなる自然数のことだ。28の自分以外の約数は1,2,4,7,14。それらを全て足すと28になる。よくこんなの瞬時にわかったな」

「大学は数学科でしたから。それにさっきの回の客さんは、おひとり様が1組と4組、カップルが1組、親子連れが2組7名、団体が1組14名でしたから。ちょうど完全数だなと投映中に気が付きました」

「しかし退場した客を数えてみると27人しかいなかったと」

「はい。お客さんが全員退出してから扉を閉めると習いましたので、そこはしっかり数えていました」

「俺は客が全員いなくなったのに扉を閉めない尼寺を不審に思い様子を見にいった。プラネタリウムの中には隠れそうな場所はないから、見渡せば客がいるかどうかはすぐにわかる」

尼寺の記憶力を信じるなら投映開始から終了までに観覧客が一人消失したと。そんなことが果たして実際に起きるものなのか。

「先の投映中何か気になること、気になる客はいなかったか?」

「えっと……」

無表情に少し躊躇いが滲む。

「なんだ。なんでも言ってみろ」

「はい、いびきと寝言が大きなお客様がいました。黒いコートを羽織った男性で、寝言で『ごめんなさい』『許してくれ』なんて言っていました」

プラネタリウムで眠る客は多い。言い淀んだ割にはこの件には関わりのない情報のようだ。まあ初めてプラネタリウムの担当になった尼寺には変わったできごとだったんだろうが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

処理中です...