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プラネタリウムは密室(仮)ですか?
☆☆☆☆
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「ただ単に、フルネームの文字をずらすだけ」
にいじえみ→じえみにい→ジェミニ
メモ用紙にそう書いてやる。
「言わずともわかっているだろうが、『ジェミニ』はふたご座のことだ。本名はばれたくないから、呼ばれ慣れているあだ名を記号として書いたんだろう」
「はーなるほど。質問者の正体は尼寺ちゃんでしたか」
大仰に頷き、納得した風な家名。だがまだ謎解きは続く。
「ついでにもう一つ気になったことがある。それは質問用紙そのもの。えらく綺麗に、八つ折りに畳まれていると思わないか。質問箱の投稿口はA5の質問用紙をそこまで折らなければいけないほど小さくはない。二つ折りで十分。せいぜい四つ折りだ。それに質問箱は子ども向けを想定していて、設置されている机は大人には小さい。その机で質問を書き、綺麗に八つ折りにするのは困難だと思われる」
「そうと言えなくもないですが」
何が言いたいのかわからないご様子。
「尼寺は事前に質問用紙を回収しておき、違う場所で記入してから質問箱に投函しに行く予定だった。館の倉庫には予備の質問用紙がたくさん眠っているからな。しかしここで予期していなかったことが起こる。誕生会だ。主賓である尼寺はアテンダント室に釘付けされる。しかし余り長い時間、質問用紙を持っていたくない。そこで小さく折りたたんだ質問用紙をこの場から持ち去り、投函してくれとある者に頼んだ。『このお菓子は私には多すぎる。誰か食べてくれるひとにお裾分けしたらどうでしょう』とでも言ってな」
「……」
「懲りずにまた事件を呼び込んだなあ、家名さんよう」
「は、ははは……」
目線を逸らしながら乾いた声で笑う共謀者。
「質問箱に投函する女性を見た、というのも虚言。おおかたお菓子に目が眩んだか、後輩に頼れる先輩をアピールしたかったんだろうよ」
「ま、待ってください!わたしが共謀したっていう証拠はあるんですか。証拠!それがないのならまだ――」
往生際の悪い家名の言葉を遮るようにノックの音が部屋に響く。どうぞと声を掛けた後、ドアの向こうにいたのは件の人物だった。
「失礼いたします。先ほど家名先輩に頼んで質問用紙を投函してもらいました、尼寺といいます。流石に状況を説明しないといけないと思い伺いました。今お時間大丈夫でしょうか」
俺の推理通り。やはり無表情のアテンダントがそこに立っていた。
「弁明は?」
隣の見ると、いつの間にやら珍客に向け先輩面を被った家名。変わり身早いなこいつ。
「こほん。ようこそ『星空探偵事務所』へ。あなたの疑問はこの星空探偵が星空の下で解決いたします!事件の全貌をお聞かせ願えますかマドモアゼル?」
左手を腹に当て腰を曲げる紳士然とした礼。堂に入った演技だが、お前誰やねん。あと星空探偵事務所ってなんやねん。言いかけたツッコミは飲み込んで、その演技に乗っかってやる。
「ご紹介に預かりました、私が星空探偵です。貴女のお力になりましょう」
無表情の端から驚きと不安が見え隠れする彼女に、やや演技っぽく手を差し出す。
趣味半分、業務半分の調査開始だ。
にいじえみ→じえみにい→ジェミニ
メモ用紙にそう書いてやる。
「言わずともわかっているだろうが、『ジェミニ』はふたご座のことだ。本名はばれたくないから、呼ばれ慣れているあだ名を記号として書いたんだろう」
「はーなるほど。質問者の正体は尼寺ちゃんでしたか」
大仰に頷き、納得した風な家名。だがまだ謎解きは続く。
「ついでにもう一つ気になったことがある。それは質問用紙そのもの。えらく綺麗に、八つ折りに畳まれていると思わないか。質問箱の投稿口はA5の質問用紙をそこまで折らなければいけないほど小さくはない。二つ折りで十分。せいぜい四つ折りだ。それに質問箱は子ども向けを想定していて、設置されている机は大人には小さい。その机で質問を書き、綺麗に八つ折りにするのは困難だと思われる」
「そうと言えなくもないですが」
何が言いたいのかわからないご様子。
「尼寺は事前に質問用紙を回収しておき、違う場所で記入してから質問箱に投函しに行く予定だった。館の倉庫には予備の質問用紙がたくさん眠っているからな。しかしここで予期していなかったことが起こる。誕生会だ。主賓である尼寺はアテンダント室に釘付けされる。しかし余り長い時間、質問用紙を持っていたくない。そこで小さく折りたたんだ質問用紙をこの場から持ち去り、投函してくれとある者に頼んだ。『このお菓子は私には多すぎる。誰か食べてくれるひとにお裾分けしたらどうでしょう』とでも言ってな」
「……」
「懲りずにまた事件を呼び込んだなあ、家名さんよう」
「は、ははは……」
目線を逸らしながら乾いた声で笑う共謀者。
「質問箱に投函する女性を見た、というのも虚言。おおかたお菓子に目が眩んだか、後輩に頼れる先輩をアピールしたかったんだろうよ」
「ま、待ってください!わたしが共謀したっていう証拠はあるんですか。証拠!それがないのならまだ――」
往生際の悪い家名の言葉を遮るようにノックの音が部屋に響く。どうぞと声を掛けた後、ドアの向こうにいたのは件の人物だった。
「失礼いたします。先ほど家名先輩に頼んで質問用紙を投函してもらいました、尼寺といいます。流石に状況を説明しないといけないと思い伺いました。今お時間大丈夫でしょうか」
俺の推理通り。やはり無表情のアテンダントがそこに立っていた。
「弁明は?」
隣の見ると、いつの間にやら珍客に向け先輩面を被った家名。変わり身早いなこいつ。
「こほん。ようこそ『星空探偵事務所』へ。あなたの疑問はこの星空探偵が星空の下で解決いたします!事件の全貌をお聞かせ願えますかマドモアゼル?」
左手を腹に当て腰を曲げる紳士然とした礼。堂に入った演技だが、お前誰やねん。あと星空探偵事務所ってなんやねん。言いかけたツッコミは飲み込んで、その演技に乗っかってやる。
「ご紹介に預かりました、私が星空探偵です。貴女のお力になりましょう」
無表情の端から驚きと不安が見え隠れする彼女に、やや演技っぽく手を差し出す。
趣味半分、業務半分の調査開始だ。
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