星空(仮)の下で謎解きを

木材あかり

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プラネタリウムは密室(仮)ですか?

☆☆

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「『星座の線を結んでもその動物に見えないのはなんでですか?』これもよく聞かれるねえ。『1928年に国際天文学連合が定めたのは星座の領域と名前だけです。その領域内の星ならどの星を結んでもその星座と言えます。一般的な星座線というのは肉眼で見える明るい星を昔の人ができるだけそう見えるように結んだ姿なのです。無論そのように見えない星座も多くありますが』っと」

そう書き込み、二つ折りだった質問用紙の皺を延ばしファイルに綴る。

昼ごはんを食べたあと、宇宙チームの中での俺の仕事『星空探偵』を始める。星空探偵と言うのは当館オリジナルのプラネタリウム番組『星空探偵の大冒険』に出てくる主人公の名前だ。物語の舞台はとある科学博物館。そこに設置してある質問箱に集められた星や宇宙の謎や疑問を、夜中の間に調査・解決していくというストーリーである。もちろんその科学館のモデルはここ県立科学博物館であり、実際に質問箱も設置してある。そして寄せられた質問に回答していく星空探偵を任されているのが俺、後藤実なのだ。

正直言ってこの業務は退屈だ。大半は子どもからの投書、そして聞かれる疑問はみんな同じようなもの。それ故回答はテンプレートになりそれを機械的に書き記していく作業である。

退屈だ。

もともと俺は疑問を解決するのが好きな性分だ。小さな頃からクイズが好きだったし、年ごろになれば推理小説も嗜んだ。その俺が星空探偵・・という響きに魅かれないはずがあるだろうか。いやない。しかし実状は子どもの疑問解決係。いや公共の施設、博物館としては正しいことなのだが。

「退屈だよなあ」

「なーに言ってるんですか。仕事してくださいよ。し・ご・と!」

いつの間にか準備室に潜り込んでいた腐れ縁にせっつかれる。

「堂々と紅茶すすってるお前にだけは言われたくないんだが」

「怠いのは糖分不足ですよ。はい先輩! お菓子です!」

「なんだ今日はバレンタインか?すまない小喧しい奴は苦手なんだ。出直してきてくれ」

「違いますしなんか勝手にフラれましたし小喧しいって何ですか!」

呆れたり落ち込んだり怒ったり、忙しい奴である。

こいつはアテンダントの家名。中高学生時代の一つ下の後輩。なんの因果か俺の一年後に職場に入ってきた腐れ縁である。プラネ準備室を私的利用するトラブルメーカー。カール主任の姪にあたる。

「さっきの昼休みにアテンダントの誕生会があってですねー」

家名曰く、毎月中旬ごろ、その月に誕生日を迎えるメンバーを祝う誕生会をアテンダント内で行うらしい。誕生会と言っても昼休憩の時間にプレゼントを渡したりお菓子を食べたりする程度なのだとか。だが今日の誕生会では主賓が一人にも関わらずお菓子を大量に買ってきたメンバーがいて余ったから持ってきたと家名談。

「おい、ヘビーオカシスト家名。みんなのお金で買ったお菓子はおいしいか?」

「へ?!あ、いやどうして私が、あえて大量に買ってきて余りをプラネ準備室に置いといてゆっくり楽しもうって思ってるのがバレたんですか!」

わざと自爆してるのか馬鹿なのか。馬鹿なんだろうな。思っていることがすぐ顔と口に出る。こういうときに言う台詞は――

「……マヌケは見つかったようだな」

「はうっ!」

お菓子泥棒は放っておいて質問用紙に向き直る。さーて仕事仕事。

「あの今月誕生日なのニージちゃんだけだったんですけど、お菓子好きそうだからたくさん買った来てそしたら余っちゃって。いやー目測を誤りましたねー。4月のは参加できなかったんで今回初参加だったのです。あ、ニージちゃんって今月から働き始めたわたしの後輩なんですけど。実は今年大学卒業したての23歳で私と同期なんです。聞いた話じゃ学生時代のあだ名が可愛くて――って聞いてます?」

言い訳捲し立てるスイーツ女子の言葉を聞き流しつつ、回答した質問用紙をファイルに綴っていく。さて次の質問はっと。



「もー聞いてくださいよー。はい、次の質問です」

名が手渡してきた質問用紙、丁寧に8つ折りされたそれを開くと。


ほう、これはまた……。

思わず口角が上がるのを自分でも感じる。久々の高揚感。



プラネタリウムは完全な密室ですか?
そこから人が消失することは可能ですか?
もし不可能なら私の数え間違いでしょうか。


Ⅱ 



「……先輩も大概わかりやすいですよね。どんな面白い質問が書いてあるんです?」

「ああ。こいつは面白くなってきそうだ」

広げた紙を家名に見せる。

形の整った綺麗な文字で不穏な文字。そして名前欄の記号。

「密室・消失と来たか。それに名前も、ローマ数字? こいつはいたずらか?」

じろりと前科者に目線を向ける。

「わたしじゃないですよ?!」

言わんとしていることを察したのか全力で首を振る。

「お前かどうかは置いといてだ。これ星、全っ然関係ないやん。何や起きたんかも何の意図があんのかもさっぱりわからんし。名前もなんやねん『Ⅱ』って。誰とも知れん奴の質問には答えられん」

「何故に関西弁やねん……。って、待って待って! もしかしたらその質問者、わたし見たかもしれません!」

家名の声で質問用紙を捨てようとしていた手を止める。

「多分ですけど。午前中のプラネタリウムが終わったくらいですかね。深刻そうな表情の女性が質問箱に投函しているのを見ました」

「質問用紙の回収は昼休み前。筆跡からして回収された中で大人が書いたと思われるのはこれ一枚だけ。ということはお前の言うその女性が質問者ということか」

「持つべきものは優秀な後輩でしょ。人相まだ覚えているんで、わたし探してきますね!」

言うが早いか扉に手を掛ける家名。その後ろ姿に軽く声をかける。

「ああ呼んできてくれ。その質問者――もといアテンダントの尼寺にいじエミをな」

プラネ準備室を飛び出しかけたドヤ顔が凍っていのはなかなかに面白かった。
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