星空(仮)の下で謎解きを

木材あかり

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プラネタリウムは密室(仮)ですか?

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――最後はこの曲でお別れしましょう――

その言葉と直後の大音量にはっとします。いけません、寝落ちしていました。今流れているのは、このプラネタリウム番組最後の曲です。そろそろ退出しなくては。

私は音を立てないように椅子から離れ出口扉へと向かいます。真上のドームには真っ暗な宇宙空間を航行する映像が映し出されています。そしてエンドロール。

「以上をもちまして、『惑星ほしが奏でる交響曲シンフォニー』の投映を終了いたします」

プラネタリアンの方が言い終わるが早いか、扉を押し開けドームの外に出ました。先ほどまで眠っていたからか、その明るさに目がくらみます。が、すぐに順応しました。窓の外には、雨が降りそうな曇り空。梅雨入り前の6月半ばの空です。

おっといけません。出口で突っ立っていたのではお客さんが出てこられないです。

私は脇に避け出てくるお客さんを見送ります。目の前を通り過ぎていく、おひとり様、ご家族、カップル、おひとり様、団体の方々……。つい癖で人数を数えてしまいます。27まで数えたところでプラネタリアンの方が扉に手をかけます。「ありがとうございました」の声とともに迫ってきた扉が目の前で閉じられました。


あれ、出てきた人は27・・人?中にいたのは28・・人ではありませんでした?


入場時、入口近くでプラネタリウムに入る人を数えていました。総観覧者は28人だったはずです。仕事柄、数えるのには自信があります。確かに28人でした。ではあと1人はどこへ?プラネタリアンの方が扉を閉めたのですから中にはもういないはずです。

私は少しパニックです。なんだか話しかけられた気がしましたがおざなりに返すばかり。

そんな中、先輩の言葉を思い出しました。


――このプラネタリウムには本当の名探偵がいるからね。どんな疑問もなんでも御座れ。何か困ったことがあったらその『星空探偵』に相談してみるといいよ!――


『星空探偵』というのはこの科学館で投映しているプラネタリウム番組の主人公です。劇中では質問箱に寄せられた星や宇宙に関するいろんな疑問を調査、解決してくれます。実際にこの科学館には質問箱が設置されていて、集められた疑問に答えを出してくれるそうです。無論、頑張っている回答しているのはプラネタリアンの方々のようですが。普段クールな先輩がこのときだけは少しはしゃいでいたのが印象的でした。

プラネタリウムから人が消えた・・・・・・・・・・・・・・」というのはそれはとても探偵向けの案件ではないでしょうか。もし本物の名探偵の方がいるのなら、きっとこの事件を解決してくれるでしょう。

私は決心しその場を後にしました。
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