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私の名前(仮)は何でしょう
γ(ガンマ)
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質問箱に入っていた用紙をあらかた片づけたころ、プラネタリウム準備室のドアがノックされる。おじゃましまーすという大きな声と共に入ってきたのはアテンダントリーダーの早乙女さんであった。
「あ、早乙女さんちっす。もう次の投影の準備でしたか」
食後のコーヒーとお菓子を楽しみながら壁時計を確認する。投影準備には少し早いかなという時間である。
「まー早めにね~。って五藤君ちょっとだらけ過ぎじゃない?プラネタリウムでのクールな紳士っぷりはどこ行ったのかな?」
「スイマセン。プラネタリウムでお客さん相手に、どんな解説しようか、どんな声色で話そうか、とか熟考してたときの反動で気がめっちゃ緩むんっす。投影には間に合わせますんで」
「オンオフが激しいというか。お客さんには見せられないね~」
幻滅しちゃうかも、という言葉は聞き流す。
「そいで、早く来られた理由はなんですかい?」
「あーそうだった!津和井主任に、はいこれが来週のアテンダントのシフト表です」
手元もバインダーから外した紙を主任が会釈して受け取る。
そしてそして~と早乙女さんは俺に向き直る。
「次の投影後に新人アテンダントさんにプラネタリウムの中を案内します。まー館内のガイドツアーね。少しだけだからその次の投影には支障はないはずよ~」
4月も始まってだいぶ経った頃だ。そりゃあ新人も入るでしょう。宇宙チームには新人など入らないが。
「次の投影担当で今日の業務終わりなのにめんどくさい……。主任。変わりません?」
顔だけを向け問いかけてみるが、カール主任は頭を振る。
「私も忙しい身だからねえ。対応は君に任せるよ」
ま、そりゃそうだ。
その会話を聞いていた早乙女さんがふと思い出したかのように声をあげる。
「あとこれ。外の質問箱に入ってたよ」
四つ折りの紙を手渡される。
「せっかくさっきので回答し終わったと思ったのに……。面倒なことをしてくれますね」
じろりと軽く睨んでみるが素知らぬ風。
「今の仕事はプラネタリアンの補佐だからね」
「いや、補佐ってのはプラネタリウム内での話であって今は全く必要としていないですが……。まあいいです。まだ時間ありますし、とっとと回答終わらせましょう」
俺は渡された質問用紙に目を落とす。
What is my name ?
英でた頭で解き、独りで読め
は? 「私の名前は何」だと? そんなの名前欄を見れば分かるだろ。
質問用紙の名前欄に目を移す。
ηUMa βLeo γCnc δUMi
そこにあるのはギリシャ文字とアルファベットの羅列。
俺が無言になったのが気になったのか早乙女さんが顔を覗き込んでくる。
「なに邪悪な笑い方しちゃって。いつもの解説の時のキメ顔に戻って!」
「俺いつもキメ顔で解説してんすか?恥ずかし!じゃなくて、これ」
俺は奇妙な質問用紙を眼前に掲げる。
「なになに……わっといずまいねーむ?英語の名前……?」
「まったく暇な奴がいたものですね。質問箱に自分の名前を聞きにくるとは呆れる」
「と、言うわりには後藤君。なんだかわくわくしてない?その顔は初めて見るかも。ってこれって暗号じゃない!星空探偵への挑戦状!」
暗号だと?誰かの悪戯に決まってる。推理小説の読みすぎだ。探偵に挑戦?怪盗か己は。
そんなことを思いつつも、早乙女さんの言う通り俺は少し昂揚していた。今日は退屈せずに済みそうだ。
面白い。その挑戦受けて立とう。
「ま、業務の支障にならない程度に頑張りましょうかね」
気怠い台詞で本心を隠しひとりごちた。
さあ、星空探偵の捜査開始だ!
「あ、早乙女さんちっす。もう次の投影の準備でしたか」
食後のコーヒーとお菓子を楽しみながら壁時計を確認する。投影準備には少し早いかなという時間である。
「まー早めにね~。って五藤君ちょっとだらけ過ぎじゃない?プラネタリウムでのクールな紳士っぷりはどこ行ったのかな?」
「スイマセン。プラネタリウムでお客さん相手に、どんな解説しようか、どんな声色で話そうか、とか熟考してたときの反動で気がめっちゃ緩むんっす。投影には間に合わせますんで」
「オンオフが激しいというか。お客さんには見せられないね~」
幻滅しちゃうかも、という言葉は聞き流す。
「そいで、早く来られた理由はなんですかい?」
「あーそうだった!津和井主任に、はいこれが来週のアテンダントのシフト表です」
手元もバインダーから外した紙を主任が会釈して受け取る。
そしてそして~と早乙女さんは俺に向き直る。
「次の投影後に新人アテンダントさんにプラネタリウムの中を案内します。まー館内のガイドツアーね。少しだけだからその次の投影には支障はないはずよ~」
4月も始まってだいぶ経った頃だ。そりゃあ新人も入るでしょう。宇宙チームには新人など入らないが。
「次の投影担当で今日の業務終わりなのにめんどくさい……。主任。変わりません?」
顔だけを向け問いかけてみるが、カール主任は頭を振る。
「私も忙しい身だからねえ。対応は君に任せるよ」
ま、そりゃそうだ。
その会話を聞いていた早乙女さんがふと思い出したかのように声をあげる。
「あとこれ。外の質問箱に入ってたよ」
四つ折りの紙を手渡される。
「せっかくさっきので回答し終わったと思ったのに……。面倒なことをしてくれますね」
じろりと軽く睨んでみるが素知らぬ風。
「今の仕事はプラネタリアンの補佐だからね」
「いや、補佐ってのはプラネタリウム内での話であって今は全く必要としていないですが……。まあいいです。まだ時間ありますし、とっとと回答終わらせましょう」
俺は渡された質問用紙に目を落とす。
What is my name ?
英でた頭で解き、独りで読め
は? 「私の名前は何」だと? そんなの名前欄を見れば分かるだろ。
質問用紙の名前欄に目を移す。
ηUMa βLeo γCnc δUMi
そこにあるのはギリシャ文字とアルファベットの羅列。
俺が無言になったのが気になったのか早乙女さんが顔を覗き込んでくる。
「なに邪悪な笑い方しちゃって。いつもの解説の時のキメ顔に戻って!」
「俺いつもキメ顔で解説してんすか?恥ずかし!じゃなくて、これ」
俺は奇妙な質問用紙を眼前に掲げる。
「なになに……わっといずまいねーむ?英語の名前……?」
「まったく暇な奴がいたものですね。質問箱に自分の名前を聞きにくるとは呆れる」
「と、言うわりには後藤君。なんだかわくわくしてない?その顔は初めて見るかも。ってこれって暗号じゃない!星空探偵への挑戦状!」
暗号だと?誰かの悪戯に決まってる。推理小説の読みすぎだ。探偵に挑戦?怪盗か己は。
そんなことを思いつつも、早乙女さんの言う通り俺は少し昂揚していた。今日は退屈せずに済みそうだ。
面白い。その挑戦受けて立とう。
「ま、業務の支障にならない程度に頑張りましょうかね」
気怠い台詞で本心を隠しひとりごちた。
さあ、星空探偵の捜査開始だ!
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