とらんす☆みっしょん

矢的春泥

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えくそだす!

第22話 穴・ミッション

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 聖ジョルジオ女学園の紹介動画作成のための対策会議が開かれた。
 と言ってもいつもの面子が教室を一つ借りて話すだけだけど。
 議長は園原芳愛よしあさん。ヨシアさんのお父さんの会社のグループ会社が製作するので順当な線だ。
 以下、佐藤夜羽よはねさん、鈴木依葉根よはねさん、高橋余波音よはねさん、僕こと後藤伊吹いぶき
 今回は居ないがアドバイザーとして三田村真理亜先輩も参加することになっている。
 大まかな話を決めてからメンバーも増やしていく予定だ。
 机をコの字に並べて、ヨシアさんがお誕生席に座り、その右側に僕、高橋さん、左側に佐藤さん、鈴木さんが座った。
 最初はざっくばらんにどんな内容にするかを話し合い、出てきた案をたたき台として制作会社へ持っていくのだ。
 全部制作会社に丸投げすることもできるが、それだと他の学校と同じようなありきたりの内容のものしかできないだろうとの判断だ。
 会議を始めてしばらくすると「待たせたわね!」と二人の生徒が入ってきた。
 赤いスカーフなので三年生だ。
「誰?」
 小声でヨシアさんに訊ねた。
「生徒会長の伊賀いが井汲いくみさんよ。
 後ろにいるのは米原まいばら幸恵さちえさん」
「生徒会長って呼んだの?」
 ヨシアさんは首を振った。
「あの、どういったご用件でしょう?」
「学園の紹介動画を作るって聞いたのでやってきたわ。
 学園のことなら生徒会も一枚噛まないとね」
 いったい、どこから聞きつけてきたのだろう?
「分かりました。ではお座りください。まだ始めたばかりです」
 生徒会長の伊賀さんの取り巻き(?)の米原さんは無言で机を鈴木さんの横に並べて座った。
 伊賀さんのほうは、つかつかと僕の方へやってきた。
「代わってくれるかしら?」
「えっ、どうして? 向こうの方が空いているのに」
「あら? 生徒会長である私に末席に座れとでもいうの?」
「……分かりました」
 順番なんて考えずに座っていたのに後から来てそんなことを言うのか。
 事を荒立ててもしょうがないし、正直、席はどこでもいいので高橋さんの横に机を並べて座った。
 そして、その日の会議では動画の撮影に使う場所を探そうということになった。
 平日は学園のあちこちを見て回り、今度の日曜日に学園の隣の裏山に散策することになった。
 学園の紹介動画で学園外の場所を映すのはどうかと思ったが、伊賀さんの強い一存で決まってしまった。

 ――日曜日。三ヨハネは別の用事があるとのことで、日曜礼拝が終わったあとに出かけてしまった。
 裏山の散策のメンバーは伊賀さん、米原さん、ヨシアさん、僕の四人だけ。
「お弁当も人数分持ってきたし、さぁ出発よ!」
 伊賀さんは楽しそうにしていた。
 結局、ピクニックがしたかっただけじゃないのか?
 米原さんはやたらと大きな荷物を背負っている。四人分のお弁当が入っているのかな?
「と、その前に」
 米原さんが大きな荷物の中からペットボトルのスポーツドリンクを取り出して全員に配った。
「山を舐めてはいけないわ。喉が渇いたと感じた時にはもう遅いわ。バテる前にこまめにチビチビと水分補給をしてね」
 さすが生徒会長。気が利くね。
 僕はゴクゴクとスポーツドリンクを飲んだ。
 この裏山は学園の所有地ということになっている。
 特に何に使うというわけでなくそのまま放置されている。
 林道のような道があるが、長く手入れされていないので荒れ果てている。
 裏山への入口には関係者以外立入禁止と書いてある。
「生徒だから関係者ね」
 まぁ、生徒会長がそういうなら仕方がないか……。
 鎖を乗り越え入っていく。
 伊賀さんを先頭にしばらく行くと、大きな木が出てきた。
「大きな木ね。撮影につかえそうじゃない?」
 伊賀さんがしげしげと大木を眺めている。
「ほら、この枝ぶりとか。人を吊るしても大丈夫そう」
「ちょ、ちょっと。何でそんな物騒な話を……」
「イスカリオテのユダが自殺するときに使えそうじゃない?」
「いやいや、だから、何でそんな人が死ぬ方向に持っていくの」
「しかし、人とか来そうにないからここで死んでも発見までかなり掛かるかもね」
「シャレにならないし」
 さらに進んでいくと、ズルっという音と共に先頭を歩いていた伊賀さんの姿が消えた。
 すぐに米原さんが伊賀さんの手を掴んだ。
 どうやら穴に落ちたらしい。
 慌てて僕らも米原さんの身体を掴んで引っ張る。
 でも、ズルズルと穴に引き寄せられ、四人とも落ちてしまった。
「痛ったーい」
「みんな大丈夫?」
「ちょっと身体が痛いけど、大丈夫」
「……………」
「ちょっと重たいわよ。降りなさいよ」
 とりあえずみんな大きな怪我はしていないようだ。
 僕らが落ちたのは大きな穴。
 登ろうとしてもズルズル滑って登れない。
 他に道はないようだし。
「助けを呼んだ方がよさそうね? 誰かスマホ持ってる?」
「僕は持ってない」
「校則に違反するようなものを生徒会長である私が持っているとでも?」
「…………」
 米原さんは首を振った。相変わらず喋らない。
「うーん、困った。偶然人が来るとは思えないし……」
「とりあえず、お昼にしましょう」
 伊賀さんがあっけらかんとしている。
 米原さんが黙々と荷物からお弁当を出している。
「うう、いったい誰のせいでこんなことになっていると思っているんだ」
「嫌ならいいのよ。私たちだけで食べるから。
 ほら、美味しそうなフライドチキン」
 スパイシーな香りを嗅ぐとお腹がグゥと鳴いた。
「身体は正直ね。
 ほら、欲しいなら欲しいって言ってごらんなさい」
「うう……。ください」
「はい、あーん」
 いったい何をしているんだろう……。
 弁当を食べ終わると、米原さんが荷物から何やらバーナーのようなものを出した。
 ガスコンロを付け、湯を沸かし始めた。
 終始無言で作業をしている。
「もうすぐコーヒーができるからね」
 伊賀さんは何もしていないのに、あたかも自分が用意しているかのような態度だ。
 でもそれはそれとして、渡されたコーヒーのなんていい香りのことか。
 大自然の中で飲むコーヒーがこんなに美味しいなんて。
 ふぅ、満足。
 って、落ち着いている場合か?
 穴から抜け出さないと。
「あのー……」
 ヨシアさんが申し訳なさそうに手を挙げた。
「私、お手洗いに行きたくなっちゃって……」
「そう言えば僕も……」
 トイレに行くには穴から抜け出さなくてはならない。
 抜け出せないとしたら……。
「あっちの方でしてきたら。見ないようにしてるから」
 僕が言い出せなかったことを伊賀さんがあっさり言ってしまった。
 仕方がないなるべく離れたところで一人ずつ野ションをすることに。
「ヨシアさん先どうぞ」
 ヨシアさんが顔を赤らめてうなずいた。
 僕らは背を向けてオシッコをしているところを見ないようにした。
 ヨシアさんが戻ってきた。
 さっきまでの緊張した顔はすっかりほぐれて、何かを成し遂げた偉人のような顔になっていた。
 続いては僕。
 離れたところに行く。
 地面が濡れている。
 ここでヨシアさんがオシッコをしたのだな。
 僕もここで。
 しゃがみ込むとオシッコの匂いが鼻を突く。
 ヨシアさんのオシッコ目がけて僕もオシッコをする。
 ふぅ。
 肩の荷が下りたような安堵感。
 さて、トイレットペーパーっと。
 ない!
 そりゃそうだ。トイレじゃないんだから。
 しまった! ポケットティッシュはカバンの中だ。
 困った。どうしよう。
 さっきは意識してなかったけど、ヨシアさんが使ったと思われるティッシュも転がっていた。
 しまった! オシッコをする前に気が付いていれば用意できたのに。
 このままパンツを穿いてしまうか!?
「イブキさん! ひょっとしてティッシュ持って行っていない?」
 ヨシアさんが声をかけてくれた。
「じ、実は……」
「持って行ってあげるね」
 お尻丸出しのところをヨシアさんに見られてしまった。
 恥ずかしい。
 一緒にお風呂に入っている仲とはいえ、用を足しているところを見られるのはまた違っている。
「ふふ、イブキさんは私がいないとダメなんだから」
 また、ヨシアさんに助けられてしまった。
 引き続いて伊賀さんと米原さんもオシッコを済ませた。
「さて、これからどうしましょう? このままここに居ても助けが来るとは思えないし」
「僕らの帰りが遅くてヨハネさんたちが気づいて探しに来てくれるとか」
「それだと暗くなっちゃうから嫌だな」
「…………」
「仕方がない。助けを呼びましょうか。幸恵さん」
 米原さんは荷物の中から二つ折りのガラケーを取り出しプチプチと打ち始めた。
「えっ!? なに! ケータイあるの? さっき持っていないって」
「『スマホ』は持っていないわ。ケータイだもの」
 米原さんの代わりに伊賀さんが答えた。
 しばらくして伊賀さんの家から派遣されてきた黒服の男たちがやってきて僕は救助された。
「ありがとう。このことは学園には内緒にしてね」
「「了解!」」
 黒服の男たちは敬礼をして去っていった。
「えっとー、僕らも帰りましょう」
「まだ、紅茶とお菓子があるから、ティータイムを済ませてからにしましょう」
 米原さんが荷物を広げ始めた。
 こうして、裏山散策の一日は終わった。
 あれだけ苦労したのに、結局、学園紹介動画は学園内の施設だけにすることになった。
 いや、最初から分かっていたことだと思うけど。
「日曜日のピクニック楽しかったわね」
 廊下で伊賀さんとすれ違ったときにそう言われた。
 やっぱり伊賀さんの中ではピクニックだったらしい。
「また行きましょうね」
 米原さんがペコリと頭を下げて伊賀さんに付いて行った。
 まぁ、楽しかったからいいか。

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