とらんす☆みっしょん

矢的春泥

文字の大きさ
上 下
20 / 31
えくそだす!

第20話 罪の女・ミッション

しおりを挟む
 寮へ戻ると門のところに車が停まっていた。
 車の外には園原そのはら芳愛よしあさんと、中年の女性、それと老人が一人。
 中年の女性と老人は車に乗って帰っていった。
「ヨシアさん!」
「あら、今お帰り?」
「今の人はヨシアさんの家族?」
「そう。父と母よ」
「えっ!? お父さん? てっきりおじいさんかと。って、あっゴメン」
「いいわ、年齢的にはおじいさんなんだし。今77歳」
 ということは、だいたい60歳のときの子供?
 定年近い年齢で子供ができるんだ。
 お母さんの方は若そうだから大丈夫なのか。
 色々混み合ってそうだから、あんまり深入りはしないようにしよう。
「それよりも聞いてよ、イブキさん」
「はい?」
「今度、聖ジェルジオ女学園のホームページに学園生活紹介用の動画を作るんだって。
 父の会社のグループ会社で制作するって」
 ヨシアさんのお父さんの会社って、社長か! しかもグループ会社もあるという。
「それでナビゲーター役の生徒を探してて、いい人いたら紹介してって。
 イブキさんナビゲーター役やってみる?」
「イヤイヤイヤ、僕なんかだと緊張してちゃんと喋れないよ。
 もっと然るべき人にやってもらったほうが……」
「然るべき人ねぇ。いい人いるかしら?」
「話は聞かせてもらった!」
 颯爽と登場したのは長い髪の女性。どこかで会ったことがあるような。
「三田村先輩! そうか放送部の三田村先輩なら適任ね」
「ふふふ、ナビゲーターいいね!
 この三田村みたむら真理亜まりあ、人にモノを教えるのが大の得意なのさ!」
「まあ頼もしい。お願いするわ」
「ふふふ、お任せあれ!」
 三田村先輩は左手で耳の辺りの髪を後ろへ振り払いドヤ顔をした。
 その時、首筋が露わにされた。
「ああーーっ!」
 思わず指を差して大声を上げてしまった。
 三田村先輩の首には吸血鬼に噛まれたかのような二つのホクロが!
 目の前に自分の手のひらを持っていき、三田村先輩の目を隠す。
 その唇は、やはりユーチューバー【ミダラなマリア】のものだった。
 正体不明の美少女ユーチューバーがこんなところにいるなんて。いや羽仮面をつけているから美少女かどうかは不明なんだけど。
 イブキさんが【ミダラなマリア】を見た時に知っている人だと思ったのは間違いではなかったんだ。
 三田村真理亜が【ミダラなマリア】って、ほとんどそのまんまじゃない。
 ネットリテラシーとか低すぎじゃない!?
 しかし待てよ。
 こうして僕にバレるということは、学園紹介動画になんか出ちゃったら即効特定されちゃうんじゃないか?
 そんなことになったら学園のイメージもダウンしちゃうんじゃないか?
 お堅いミッションスクールの紹介を、破廉恥な格好で下ネタを言う子がするなんて。
 三田村先輩は動画に出ない方がいいのでは?
「ちょ、ちょっとヨシアさん!
 その人がどんな人か分かってますか?」
「放送部の三田村先輩でしょ? いつもお世話になってるじゃない」
 ダメだ。ヨシアさんはユーチューバー姿の三田村先輩を知らない。
 それどころか、学園関係者もみんなネットなんか見ないだろうから、そのまま通っちゃう可能性大だ。
 ここで止めておかないと公開後に後悔する羽目になってしまう。
「三田村先輩、ちょっといいですか」
 僕は三田村先輩の頭を寄せて二人で内緒の話をした。
 両手を広げてクロスさせ影絵の蝶々を作り、羽仮面に見立てて自分の目の前に置いた。
「チャンネル登録よろしっくすないん」
 三田村先輩の顔から血の気が引いた。
「な、なんでそれを……」
「バレてないつもりでもバレバレなもんですよ。
 もし、素顔で学園紹介動画に出たらあっという間に個人を特定されますよ。
 三田村先輩のところには連日変な男が押し寄せて、あんなことやこんなことを。
 事態が大きくなって学園側が何事かと調べ始めたら、もう一つの顔のことが浮かび上がってきて。
 もし正体が学園にバレたりしたら……」
 三田村先輩がゴクリと唾を飲んだ。
「停学で済めばいいですけど」
 三田村先輩の脚が震えている。やっと自分のこととして認識したようだ。
「わ、私はどうしたら……」
「学園紹介動画に顔を出すのは辞めてください。
 せめて卒業するまではプライベートを一切ネットに上げないようにした方がいいと思います。
 学園に迷惑をかけない意味でも、三田村先輩に迷惑が及ばないようにするためにも」
「分かった。そうする」
 内緒話終了で再びヨシアさんへ。
「いやー悪い悪い! その日は先約があったことをすっかり忘れていたよ!
 自分から言い出しておいてあれだけどナビゲーター役は辞退するよ」
 動画撮影の日付なんて決まってないし。でも、ヨシアさんは納得したようだ。
「そう、残念ね。誰か他の人を探さなきゃ」
 こうして学園の危機は名もない一人の生徒の手によって未然に防がれた。
 まぁ僕のことだけどね。
 しかしこんな騒動の種を持ち込むなんて、三田村先輩も罪な女だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

処理中です...