とらんす☆みっしょん

矢的春泥

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じぇねしす!

第14話 BL・ミッション

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 その日は朝から風が強かった。
 寮から校舎へ向かう途中、それは起こった。
「きゃっ!」
 建物の切れ目から吹き込んだ風がスカートをふわりと捲れ上がらす。
 そういう状況を目撃するなら本望だが実際は違う。自分の身に起きた出来事なのだ。
 階段を上っていても下からは絶対覗き込めないような膝下まで長いスカート。
 でも、その瞬間はスカートに隠れた部分を白日の下に晒した。
 反射的にスカートを手で押さえた。
 まさか、自分が捲れるスカートを押さえる日が来るなんて。
 ヨシアさんと二人、スカートを押さえながら強い風の中を強行軍していった。

 四時限目が終わり、関先生が教室の空気を入れ替えるように指示をした。
 窓際の生徒が窓を開けた瞬間強い風が入ってきた。
 それで、甚目寺のヨハネさんこと高橋さんのシャーペンが机から落ちた。
 バサッ!
 高橋さんが落ちたシャーペンを拾おうとしたところカバンに手を引っかけて落としてしまい、中身の教科書をぶち撒けてしまった。
「それは何ですか?」
 関先生が肌色の多い表紙の薄い本を見つけた。
 それは男同士が絡み合った絵が描かれた同人誌だった。
「ええっと、その……」
 高橋さんはシドロモドロしている。
「なんて破廉恥な。これは没収し、焼却炉で燃やします」
「そ、そんな……」
 困っている高橋さんを見てヨシアさんが動いた。
「待ってください先生。それは可哀想です」
「ダメです。こんな破廉恥なものを神聖な学園に持ち込むなんて許されることではありません」
「高橋さん、あれはどういう内容の本なの?」
「あれは、ダビデ×ヨナタン本で……」
「旧約聖書のダビデ王とサウル王の息子のヨナタンね」
 ヨシアさんは一瞬で理解したようだ。
 つまり、キリスト教関係の同人誌というわけか。
 僕は机の中の美術の教科書を取り出し、女の人のヌードが描かれた絵を開いて見せた。
「先生! その本が破廉恥と言うならこの絵はどうなんですか?」
「それは芸術だからいいんです」
「じゃあ、どうしてその本が芸術でないと言えるんですか?」
「こんな漫画、破廉恥に決まっています」
 チラッと表紙を見た先生が僅かに紅潮するのを僕は見落とさなかった。
「見もしないで判断するなんて早計です。
 それは、聖書モチーフの漫画だそうです。
 表紙の二人はダビデとヨナタン」
「ダビデとヨナタン……」
 関先生はゴクリと唾を飲み込んだ。
 もう一押しだ。
「こうしましょう。先生はその中身を確認して芸術性がないと判断したら処分して、少しでも芸術性が認められたら返してもらうということで」
「分かりました。では確認します」
「あっ、ちょっと待ってください」
「何か?」
「先生が仰るように破廉恥な内容だった場合、他の生徒に悪影響があります。
 確認するのは一人のときにしませんか」
「分かりました。職員室で確認したうえで、処分を伝えます」
 関先生は薄い本を持って教室から出ていった。
「どうしよう……。この世の終わりだー」
「あんな対応でよかったの?」
「たぶん大丈夫。まあ失敗しても最初の決定通りなんだし、ダメもとということで」
 午後の授業が終わり、帰りのホームルーム。関先生が薄い本を持って教室へ入ってきた。
「高橋さん、一つ確認します」
「はい」
「どうしてこの本を学校へ持ってきたのですか?」
「土曜日に行う人形劇のために勉強をと……」
 関先生は少し考えて答えた。
「これはお返しします。
 処分は不問としますけど、むやみに教室で開かないように」
 やった、成功だ。
「それで、高橋さん。……この話、まだ続きがありそうなんだけど……」
「はい、あります! 今度持ってきます。一冊と言わず、二冊でも三冊でも」
 ふっ、転んだな。
「〝もし、だれかが、あなたをしいて一マイル行かせようとするなら、その人と共に二マイル行きなさい〟ということね」
 こうして事件は何事もなく解決した。
「なになに? どういうこと?」
「関先生も女子だったということだよ」
 BLが嫌いな女子はいないと聞いたことがあるけど本当だな。
 免疫が無さそうな関先生には効果抜群だったみたい。
 BLの洗礼を浴びて信念を曲げてしまった。
 BL恐るべし。
 願わくは、関先生が腐女子への道へ突き進んだりしませんように。
 アーメン。
 聖ジェルジオ女学園に新しい風が吹こうとしていた。

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