5 / 31
じぇねしす!
第5話 お風呂・ミッション
しおりを挟む
ぐぅとお腹が鳴いた。女の子の身体もお腹が鳴くんだ。
「お腹すいたわね」
ヨシアさんは時計を確認して「お風呂に行きましょうか」と言った。
「えっ、おっ、お風呂……。ボ、僕は一人でいいよ」
「でも、お風呂の場所とか覚えていないでしょ?」
確かにそうだ。一人でたどり着けるかどうか。
「そ、そうだね。一緒に行こうか。ていうか連れて行って」
着替えの下着を用意する。
タンスから取り出したパンツを広げてみる。女の子のパンツだ。意外と小さい。これを僕が穿いていいのだろうか。
それ以前に女の子と一緒にお風呂に入ってもいいものだろうか。
この身体自体もイブキさんのものだし。勝手に見ることになるかも。イブキさんに確認しておいたほうがいいのかも。
そういえば、入れ替わってから一度も相手と連絡を取っていないぞ。
「あのー、質問です」
「はい?」
「僕ってスマホって持ってましたっけ?」
「スマホもケータイも持っていないわ。
この学校はケータイ禁止だからみんな持っていないことになっているわ。
隠し持っている子もいるみたいだけど」
「じゃあ、公衆電話とかって」
「寮に一台あるわ。どこにかけるの?」
「いや、ちょっと」
かけるとしたら自分のスマホにだ。
でも、自分の電話番号が思い出せない。
スマホはもっぱらアプリの使用だけで、電話としての機能をほとんど使っていないし、使っても電話帳からかける。そもそも自分に電話するなんてこともないので覚えていない。
公衆電話行ったところでかけられない。
向こうから電話をかけてくるだろうか?
イブキさんがこの寮の電話番号を覚えているとは思えない。
女子寮に男から電話があったなんてことなったらどんな噂が広がるか。
きっとそんなリスクを冒してまで電話するとは思えない。
入れ替わり先のイブキさんと連絡を取るのは諦めよう。
お風呂につくと入り口は一つ。男湯、女湯に分かれていない。女子しかいないので当たり前だ。
脱衣所に入ると佐藤さん、鈴木さん、高橋さんが脱いでいるところだった。
もう一人背の低い子がいる。三ヨハネのうちの誰かのルームメイトだろうか。
ショートカットでおでこが広く、身体の割りに胸が大きい。
「「「お先に」」」
真っ裸になった三ヨハネ+一人は脱衣所を離れ浴室へと入っていった。
「あのもう一人の子は?」
「佐藤さんのルームメイトで池田杏奈さん。
口より先に手が出る子よ」
「そんなふうには見えなかったけど」
ヨシアさんはクスクスと笑っている。
そんなヨシアさんも部屋着を脱ぎだした。
パンツも穿いていない女の子がすぐ隣に。
タオルを胸から垂らし股間を隠すヨシアさんが「さあ、入りましょ」僕の前を歩いていく。
身体の前面は隠しているけど、お尻は丸見え。頭隠して尻隠さずとはこのことだ。
やばい! 静まれ自分!
あっ、そういえば、静まるも何も、荒れ狂う暴竜がいない身体だっけ。
女の子の身体はこういうとき便利だな。
浴室の中には大きな湯船。
女の子五人が浸かれる広さがある。あっ、自分も入れると六人か。
地上波の深夜アニメだったらディフェンスに定評のある湯気や謎の光で見えないところが、僕の前にブルーレイ収録版のクオリティで映し出されている。
湯船に入ると髪の毛がふわっと浮いて広がった。
「お風呂の入り方も忘れてしまったのね」
見ると、髪の長い鈴木さんや高橋さんはタオルで髪を巻き上げてお湯に浸からないようにしていた。
「ほら、こうするの」
ヨシアさんが僕の髪の毛をまとめてくれた。
「本当にイブキさんは私がいないとダメね」
ヨシアさんが色々教えてくれて助かる。
お風呂から出てからはみんなで夕食。
もうお腹ペコペコ。
「では頂きまーす」
と箸を持とうとしたら、みんなは手を合わせて目を瞑りお祈りを始めた。
慌てて僕も真似をする。
「「天にまします我らの父よ。
願わくは、御名をあがめさせ給え。
御国を来たらせ給え。
みこころの天になるごとく、地にもなさせたまえ。
我らの日用の糧を今日も与えたまえ。
我らに罪を犯す者を我らがゆるすごとく、我らの罪をもゆるしたまえ。
我らを試みにあわせず、悪より救い出したまえ。
国と力と栄とは、限りなく汝のものなればなり。
アーメン」」
こういうのは外国の映画で見るけど本当にやるんだ。
覚えておかないと。
食堂にはテレビが一台。
部屋にはテレビがないからここで見るしかないみたい。
流れているのはNHK。
ひょっとしてこの一週間はアニメを見ることができないのか……。
レコーダーに週間予約してあるからいいけど、ツライ一週間になりそうだ。
夕飯が終わったら夕拝の時間。
「夕拝は、生徒が順番に話をすることになってるの。
日常のなかで気づいたことや、聖書を読んで思ったことなんかを好きに話していいの」
一人の生徒が立って、あらかじめ話すことをまとめておいたであろうノートを見ながら話を始めた。
「マタイによる福音書第五章二十七節にこうあります」
さっき見ていた『マタイによる福音書』だ。
「〝『姦淫するな』と言われていたことは、あなたがたの聞いているところである。 しかし、わたしはあなたがたに言う。だれでも、情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである〟」
ドキッ!
姦淫とはエッチのことだ。キリスト教ではエッチなことは禁止されているのだろう。
実際に手を出さなくても、心で思っただけで禁忌に触れてしまうというのか。
そうしたら、さっきのお風呂での僕は……。
「〝もしあなたの右の目が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい。五体の一部を失っても、全身が地獄に投げ入れられない方が、あなたにとって益である〟とあります」
発表者が続ける。
「人間の心は弱いものです。あのダビデ王ですら人妻に対して情動を抑えられず罪を犯してしまいました。
まして私たち普通の人間ならなおさらです。
一番いいのは情欲を抱かせる対象を遠ざけることです。
それが、右の目を抜き出すということの意味だと私は思います。
でも、それでも人は誘惑に負けてしまうかもしれない。
もし、負けてしまったら?
そのときは祈りましょう。イエス様を信じ、自身の罪を悔い改めれば、きっと罪は許されます。
では、一緒に祈りましょう。
アーメン」
結論に繋がる論理はよく分からなかったけど、中身が男なのにお風呂で女子の裸を見てしまった罪悪感から僕は自然と手を合わせてお祈りをした。
心が少し軽くなった気がする。
これからは、女の子の裸を見るときは情欲を持たずに見るようにしよう。
それならいいよね?
僕は誰に許しを請うわけでもなく、心の中でつぶやいた。
「お腹すいたわね」
ヨシアさんは時計を確認して「お風呂に行きましょうか」と言った。
「えっ、おっ、お風呂……。ボ、僕は一人でいいよ」
「でも、お風呂の場所とか覚えていないでしょ?」
確かにそうだ。一人でたどり着けるかどうか。
「そ、そうだね。一緒に行こうか。ていうか連れて行って」
着替えの下着を用意する。
タンスから取り出したパンツを広げてみる。女の子のパンツだ。意外と小さい。これを僕が穿いていいのだろうか。
それ以前に女の子と一緒にお風呂に入ってもいいものだろうか。
この身体自体もイブキさんのものだし。勝手に見ることになるかも。イブキさんに確認しておいたほうがいいのかも。
そういえば、入れ替わってから一度も相手と連絡を取っていないぞ。
「あのー、質問です」
「はい?」
「僕ってスマホって持ってましたっけ?」
「スマホもケータイも持っていないわ。
この学校はケータイ禁止だからみんな持っていないことになっているわ。
隠し持っている子もいるみたいだけど」
「じゃあ、公衆電話とかって」
「寮に一台あるわ。どこにかけるの?」
「いや、ちょっと」
かけるとしたら自分のスマホにだ。
でも、自分の電話番号が思い出せない。
スマホはもっぱらアプリの使用だけで、電話としての機能をほとんど使っていないし、使っても電話帳からかける。そもそも自分に電話するなんてこともないので覚えていない。
公衆電話行ったところでかけられない。
向こうから電話をかけてくるだろうか?
イブキさんがこの寮の電話番号を覚えているとは思えない。
女子寮に男から電話があったなんてことなったらどんな噂が広がるか。
きっとそんなリスクを冒してまで電話するとは思えない。
入れ替わり先のイブキさんと連絡を取るのは諦めよう。
お風呂につくと入り口は一つ。男湯、女湯に分かれていない。女子しかいないので当たり前だ。
脱衣所に入ると佐藤さん、鈴木さん、高橋さんが脱いでいるところだった。
もう一人背の低い子がいる。三ヨハネのうちの誰かのルームメイトだろうか。
ショートカットでおでこが広く、身体の割りに胸が大きい。
「「「お先に」」」
真っ裸になった三ヨハネ+一人は脱衣所を離れ浴室へと入っていった。
「あのもう一人の子は?」
「佐藤さんのルームメイトで池田杏奈さん。
口より先に手が出る子よ」
「そんなふうには見えなかったけど」
ヨシアさんはクスクスと笑っている。
そんなヨシアさんも部屋着を脱ぎだした。
パンツも穿いていない女の子がすぐ隣に。
タオルを胸から垂らし股間を隠すヨシアさんが「さあ、入りましょ」僕の前を歩いていく。
身体の前面は隠しているけど、お尻は丸見え。頭隠して尻隠さずとはこのことだ。
やばい! 静まれ自分!
あっ、そういえば、静まるも何も、荒れ狂う暴竜がいない身体だっけ。
女の子の身体はこういうとき便利だな。
浴室の中には大きな湯船。
女の子五人が浸かれる広さがある。あっ、自分も入れると六人か。
地上波の深夜アニメだったらディフェンスに定評のある湯気や謎の光で見えないところが、僕の前にブルーレイ収録版のクオリティで映し出されている。
湯船に入ると髪の毛がふわっと浮いて広がった。
「お風呂の入り方も忘れてしまったのね」
見ると、髪の長い鈴木さんや高橋さんはタオルで髪を巻き上げてお湯に浸からないようにしていた。
「ほら、こうするの」
ヨシアさんが僕の髪の毛をまとめてくれた。
「本当にイブキさんは私がいないとダメね」
ヨシアさんが色々教えてくれて助かる。
お風呂から出てからはみんなで夕食。
もうお腹ペコペコ。
「では頂きまーす」
と箸を持とうとしたら、みんなは手を合わせて目を瞑りお祈りを始めた。
慌てて僕も真似をする。
「「天にまします我らの父よ。
願わくは、御名をあがめさせ給え。
御国を来たらせ給え。
みこころの天になるごとく、地にもなさせたまえ。
我らの日用の糧を今日も与えたまえ。
我らに罪を犯す者を我らがゆるすごとく、我らの罪をもゆるしたまえ。
我らを試みにあわせず、悪より救い出したまえ。
国と力と栄とは、限りなく汝のものなればなり。
アーメン」」
こういうのは外国の映画で見るけど本当にやるんだ。
覚えておかないと。
食堂にはテレビが一台。
部屋にはテレビがないからここで見るしかないみたい。
流れているのはNHK。
ひょっとしてこの一週間はアニメを見ることができないのか……。
レコーダーに週間予約してあるからいいけど、ツライ一週間になりそうだ。
夕飯が終わったら夕拝の時間。
「夕拝は、生徒が順番に話をすることになってるの。
日常のなかで気づいたことや、聖書を読んで思ったことなんかを好きに話していいの」
一人の生徒が立って、あらかじめ話すことをまとめておいたであろうノートを見ながら話を始めた。
「マタイによる福音書第五章二十七節にこうあります」
さっき見ていた『マタイによる福音書』だ。
「〝『姦淫するな』と言われていたことは、あなたがたの聞いているところである。 しかし、わたしはあなたがたに言う。だれでも、情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである〟」
ドキッ!
姦淫とはエッチのことだ。キリスト教ではエッチなことは禁止されているのだろう。
実際に手を出さなくても、心で思っただけで禁忌に触れてしまうというのか。
そうしたら、さっきのお風呂での僕は……。
「〝もしあなたの右の目が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい。五体の一部を失っても、全身が地獄に投げ入れられない方が、あなたにとって益である〟とあります」
発表者が続ける。
「人間の心は弱いものです。あのダビデ王ですら人妻に対して情動を抑えられず罪を犯してしまいました。
まして私たち普通の人間ならなおさらです。
一番いいのは情欲を抱かせる対象を遠ざけることです。
それが、右の目を抜き出すということの意味だと私は思います。
でも、それでも人は誘惑に負けてしまうかもしれない。
もし、負けてしまったら?
そのときは祈りましょう。イエス様を信じ、自身の罪を悔い改めれば、きっと罪は許されます。
では、一緒に祈りましょう。
アーメン」
結論に繋がる論理はよく分からなかったけど、中身が男なのにお風呂で女子の裸を見てしまった罪悪感から僕は自然と手を合わせてお祈りをした。
心が少し軽くなった気がする。
これからは、女の子の裸を見るときは情欲を持たずに見るようにしよう。
それならいいよね?
僕は誰に許しを請うわけでもなく、心の中でつぶやいた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
W-score
フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。
優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる