3 / 31
じぇねしす!
第3話 着替え・ミッション
しおりを挟む
授業が終わり帰宅の時間。
「そういえば、後藤伊吹さんって何か部活に入っているの?」
僕はヨシアさんに訊ねた。
「自分のことをイブキさんって呼ぶのも変な感じね」
「確かにそうだね。
僕って何か部活に入っているの?」
ハッ、しまった。一人称に『僕』って使ってしまった。女の子なら『私』と言わないといけないのに。
「イブキさんは奉仕部よ」
特に問題なかった。イブキさんという女の子はボクっ娘だったのだろうか。
「奉仕部って? ボランティアとかする部活?」
「それもあるけど、奉仕は教会に対する奉仕よ。
礼拝の準備をしたり神父さんの雑用を引き受けたり。
と言っても、実態は帰宅部ね。名目上、生徒は全員なにがしかの部活に入ることになっているので、どこにも入らない人が奉仕部員ということになるの」
「じゃあ、特に何もしなくてもいいんだ」
「用があるときは率先して使われるということね。
あと、施設へのボランティアに行ったりもするけど」
記憶を失っていることになっているので、今日のところは何もせずに寮へ帰ることに。
聖ジェルジオ女学園は全寮制の女子校だ。学校の隣が寮となっている。
セーラー服のスカーフの色が違う子たちが寮へと足を運ぶ。
スカーフの色は三種類。三年生は赤色、僕ら二年生は青色、一年生は緑色となっていて、年が進んでも同じ色を使い続けるらしい。
ヨシアさんとはルームメイト。
女の子と二人っきりで同じ部屋にいるなんてドキドキする。
「はー、疲れたな」
鞄を置いたヨシアさんがスカーフをほどき始めた。
えっ、ちょっと、まさか……。
サイドのファスナーを降ろし、「うんしょ、うんしょ」とセーラー服を脱ぐ。
ああぁー!!
ペロンと出てきたのは細い肩ひものタンクトップ姿。
続いて両手を腰のサイドにあて、ファスナーを降ろし、ホックを外す。
ふぁさっとスカートが床に落ち、輪っか上のオブジェが出来上がる。
うわっ、うわっ、うわあああー。タンクトップにパンツ姿の女の子が目の前に。
「どうしたの、イブキさん。着替えないの?」
「あっ、はい。着替えます」
僕もヨシアさんを真似してセーラー服を脱ぎ始めた。
セーラー服のこんなところにファスナーがあったなんて知らなかった。
ヨシアさんはタンクトップも脱ぎ、ブラとパンツだけの姿に。
僕も同じ格好に。
自分の身体を見下ろすと見慣れない景色。
胸についた肉の塊を支える布切れ。ブラなんて着けたことがなかったのに。
「着替え、着替えっと」
ヨシアさんは中腰になり、お尻をこちらに向けてタンスの中の着替えを探している。
やばい! 思わず腰を引き、両手で股間を隠した。
しかし、そこには予想したモノはなく……。そうか、女の子の身体だからそういう心配はしなくていいんだ。
「あっ、そういえば、イブキさんって自分の部屋着の場所分かる?」
部屋にはタンスが二つあり、一つはヨシアさんが開けているから、もう一方の方か。
「こっち……かな?」
「覚えていないようね。いいわ、いつも着ていたのを私が出してあげる」
ヨシアさんは嬉しそうにイブキさんのタンスを開ける。
「はい。
もう、イブキさんは私がいないと何もできなんだからぁ」
出されたジャージを着て、ベッドの上に腰かけた。
ヨシアさんは机に向かい勉強を始めた。
夕飯の時間までだいぶ時間がある。
僕も本でも読むか。
机の本棚には教科書の他に聖書もあった。
分厚い旧約聖書と細めの新約聖書。
「聖書って二種類あるんだ」
ヨシアさんが驚いた顔で僕を見た。
「イブキさんって、ひょっとして聖書のこともすべて忘れてしまったの?」
「えっと、そうみたい」
「……神様も大変な試練をお与えになるのね」
「やっぱり、聖書を読んでおいた方がいい……よね?」
「それは、当然、読んでおいた方がいいに決まっているわ。
でも、聖書の記憶も無くなったことには何か意味があるかもしれないわよ」
本当は記憶喪失ではなく、魂が入れ替わった細石巌央という仏教徒(神道?)なのだから、聖書の知識がないのはある意味当然なんだけど。
「読んでみよっかな」
旧新二冊あるうちのどちらから読むのがいいかな。やはり時系列的に古いほうからかな。
そう思って旧約聖書を手に取った。
「いきなり旧約聖書はハードルが高いかも……」
「そうなの?」
「じゃあ、まず軽くレクチャーしましょうか」
「はい」
「聖書には旧約聖書と新約聖書の二種類があります。
天地創造からのユダヤ人の歴史を記録した旧約聖書と、イエス=キリストが誕生してからキリスト教成立を書いた新約聖書。
旧約、新約の『約』っていうのは契約のことで神様との契約のことを言っているの。
イエス様が誕生する前は古い契約で、イエス様によって新しい契約が生まれたの。
ちなみに、キリスト教の聖典は旧約聖書と新約聖書だけど、ユダヤ教だと旧約聖書とタルムードという律法書、イスラム教だと旧約聖書とコーランなの」
「えっ、ちょっと待って。ユダヤ教とキリスト教がなんとなく兄弟っぽいのは歴史で習ったような気もするけど、イスラム教も同じ聖典ってことは、イスラムの神様も同じってこと?」
「そう、ユダヤ教もキリスト教もイスラム教もみんな同じ神様。
ヤハウェとかヤーベとか呼ばれているわ」
「でも、イスラム教だとアラーの神様って」
「アラーというのはイスラム語で『神様』という意味らしいわ。英語で言ったら『GOD』みたいなものね」
「知らなかった。じゃあ『アラーの神様』っていうのは『神様の神様』っていうことなのか」
「イスラム教徒はアラーの神様とは言わずに、単に『アラー』と言ってるだけかもしれないわね」
「よくニュースでキリスト教とイスラム教が戦争しているのを聞くけど、あれって同じ神様の宗教同士の戦いだったんだ」
「話を戻すわね。
キリスト以前の古い契約は難しくて守るのが大変なので、イエス様が古い契約は無効にして新しい契約をもたらしてくれたの。
それがイエス様の言葉や使徒の活動の記録として新約聖書にまとめられているの。
だから、まずは新約聖書の方を読む方がいいと思うわ」
「なるほど。じゃあ新約聖書の方を読んでみるよ」
僕は旧約聖書を棚に置き、新約聖書を手に取った。
『マタイによる福音書』という題名のページを開く。
何やら家系図っぽいものが延々と続く。
見慣れない名前なので全然頭に入ってこない。
頭が前後に揺れる……。
ハッ! 眠っていた。
ヨシアさんがクスッと笑った。
「そこもハードル高いものね。
いいわ、私がイブキさんに聖書のこと教えてあげる」
よほど嬉しいとみえる。嬉々とした表情だ。
きっと、後藤伊吹さんに聖書のことを教えるようなことは無かったのだろう。
「よろしくお願いします」
僕はこれから勉強することになるだろう聖書をパラパラとめくった。
後藤伊吹さんの聖書には至るところ赤鉛筆で線が引いてあった。
気になったところに印を付けたのだろう。引いてないページがないくらいにビッシリと。一ページに何ヶ所も。
これほど後藤伊吹さんを夢中にさせた聖書と、聖書に夢中になった後藤伊吹さんに僕は興味が湧いてきた。
後藤伊吹さんの身体で過ごす一週間。
まだ物語は最初の一ページも進んではいなかった。
「そういえば、後藤伊吹さんって何か部活に入っているの?」
僕はヨシアさんに訊ねた。
「自分のことをイブキさんって呼ぶのも変な感じね」
「確かにそうだね。
僕って何か部活に入っているの?」
ハッ、しまった。一人称に『僕』って使ってしまった。女の子なら『私』と言わないといけないのに。
「イブキさんは奉仕部よ」
特に問題なかった。イブキさんという女の子はボクっ娘だったのだろうか。
「奉仕部って? ボランティアとかする部活?」
「それもあるけど、奉仕は教会に対する奉仕よ。
礼拝の準備をしたり神父さんの雑用を引き受けたり。
と言っても、実態は帰宅部ね。名目上、生徒は全員なにがしかの部活に入ることになっているので、どこにも入らない人が奉仕部員ということになるの」
「じゃあ、特に何もしなくてもいいんだ」
「用があるときは率先して使われるということね。
あと、施設へのボランティアに行ったりもするけど」
記憶を失っていることになっているので、今日のところは何もせずに寮へ帰ることに。
聖ジェルジオ女学園は全寮制の女子校だ。学校の隣が寮となっている。
セーラー服のスカーフの色が違う子たちが寮へと足を運ぶ。
スカーフの色は三種類。三年生は赤色、僕ら二年生は青色、一年生は緑色となっていて、年が進んでも同じ色を使い続けるらしい。
ヨシアさんとはルームメイト。
女の子と二人っきりで同じ部屋にいるなんてドキドキする。
「はー、疲れたな」
鞄を置いたヨシアさんがスカーフをほどき始めた。
えっ、ちょっと、まさか……。
サイドのファスナーを降ろし、「うんしょ、うんしょ」とセーラー服を脱ぐ。
ああぁー!!
ペロンと出てきたのは細い肩ひものタンクトップ姿。
続いて両手を腰のサイドにあて、ファスナーを降ろし、ホックを外す。
ふぁさっとスカートが床に落ち、輪っか上のオブジェが出来上がる。
うわっ、うわっ、うわあああー。タンクトップにパンツ姿の女の子が目の前に。
「どうしたの、イブキさん。着替えないの?」
「あっ、はい。着替えます」
僕もヨシアさんを真似してセーラー服を脱ぎ始めた。
セーラー服のこんなところにファスナーがあったなんて知らなかった。
ヨシアさんはタンクトップも脱ぎ、ブラとパンツだけの姿に。
僕も同じ格好に。
自分の身体を見下ろすと見慣れない景色。
胸についた肉の塊を支える布切れ。ブラなんて着けたことがなかったのに。
「着替え、着替えっと」
ヨシアさんは中腰になり、お尻をこちらに向けてタンスの中の着替えを探している。
やばい! 思わず腰を引き、両手で股間を隠した。
しかし、そこには予想したモノはなく……。そうか、女の子の身体だからそういう心配はしなくていいんだ。
「あっ、そういえば、イブキさんって自分の部屋着の場所分かる?」
部屋にはタンスが二つあり、一つはヨシアさんが開けているから、もう一方の方か。
「こっち……かな?」
「覚えていないようね。いいわ、いつも着ていたのを私が出してあげる」
ヨシアさんは嬉しそうにイブキさんのタンスを開ける。
「はい。
もう、イブキさんは私がいないと何もできなんだからぁ」
出されたジャージを着て、ベッドの上に腰かけた。
ヨシアさんは机に向かい勉強を始めた。
夕飯の時間までだいぶ時間がある。
僕も本でも読むか。
机の本棚には教科書の他に聖書もあった。
分厚い旧約聖書と細めの新約聖書。
「聖書って二種類あるんだ」
ヨシアさんが驚いた顔で僕を見た。
「イブキさんって、ひょっとして聖書のこともすべて忘れてしまったの?」
「えっと、そうみたい」
「……神様も大変な試練をお与えになるのね」
「やっぱり、聖書を読んでおいた方がいい……よね?」
「それは、当然、読んでおいた方がいいに決まっているわ。
でも、聖書の記憶も無くなったことには何か意味があるかもしれないわよ」
本当は記憶喪失ではなく、魂が入れ替わった細石巌央という仏教徒(神道?)なのだから、聖書の知識がないのはある意味当然なんだけど。
「読んでみよっかな」
旧新二冊あるうちのどちらから読むのがいいかな。やはり時系列的に古いほうからかな。
そう思って旧約聖書を手に取った。
「いきなり旧約聖書はハードルが高いかも……」
「そうなの?」
「じゃあ、まず軽くレクチャーしましょうか」
「はい」
「聖書には旧約聖書と新約聖書の二種類があります。
天地創造からのユダヤ人の歴史を記録した旧約聖書と、イエス=キリストが誕生してからキリスト教成立を書いた新約聖書。
旧約、新約の『約』っていうのは契約のことで神様との契約のことを言っているの。
イエス様が誕生する前は古い契約で、イエス様によって新しい契約が生まれたの。
ちなみに、キリスト教の聖典は旧約聖書と新約聖書だけど、ユダヤ教だと旧約聖書とタルムードという律法書、イスラム教だと旧約聖書とコーランなの」
「えっ、ちょっと待って。ユダヤ教とキリスト教がなんとなく兄弟っぽいのは歴史で習ったような気もするけど、イスラム教も同じ聖典ってことは、イスラムの神様も同じってこと?」
「そう、ユダヤ教もキリスト教もイスラム教もみんな同じ神様。
ヤハウェとかヤーベとか呼ばれているわ」
「でも、イスラム教だとアラーの神様って」
「アラーというのはイスラム語で『神様』という意味らしいわ。英語で言ったら『GOD』みたいなものね」
「知らなかった。じゃあ『アラーの神様』っていうのは『神様の神様』っていうことなのか」
「イスラム教徒はアラーの神様とは言わずに、単に『アラー』と言ってるだけかもしれないわね」
「よくニュースでキリスト教とイスラム教が戦争しているのを聞くけど、あれって同じ神様の宗教同士の戦いだったんだ」
「話を戻すわね。
キリスト以前の古い契約は難しくて守るのが大変なので、イエス様が古い契約は無効にして新しい契約をもたらしてくれたの。
それがイエス様の言葉や使徒の活動の記録として新約聖書にまとめられているの。
だから、まずは新約聖書の方を読む方がいいと思うわ」
「なるほど。じゃあ新約聖書の方を読んでみるよ」
僕は旧約聖書を棚に置き、新約聖書を手に取った。
『マタイによる福音書』という題名のページを開く。
何やら家系図っぽいものが延々と続く。
見慣れない名前なので全然頭に入ってこない。
頭が前後に揺れる……。
ハッ! 眠っていた。
ヨシアさんがクスッと笑った。
「そこもハードル高いものね。
いいわ、私がイブキさんに聖書のこと教えてあげる」
よほど嬉しいとみえる。嬉々とした表情だ。
きっと、後藤伊吹さんに聖書のことを教えるようなことは無かったのだろう。
「よろしくお願いします」
僕はこれから勉強することになるだろう聖書をパラパラとめくった。
後藤伊吹さんの聖書には至るところ赤鉛筆で線が引いてあった。
気になったところに印を付けたのだろう。引いてないページがないくらいにビッシリと。一ページに何ヶ所も。
これほど後藤伊吹さんを夢中にさせた聖書と、聖書に夢中になった後藤伊吹さんに僕は興味が湧いてきた。
後藤伊吹さんの身体で過ごす一週間。
まだ物語は最初の一ページも進んではいなかった。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説



セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる