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面蛸とおる

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第4章凍てつく大地の上で…

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ビュービューと吹き荒む冷たい風…。

─ここにもし人間がいたのならきっと即座に凍てつく風に襲われて、

『どこまでもどこまでも続く、氷の大地の果てへと飛ばされてしまうだろう…』と。

私はこの幻想的美しさと死が隣あわせになっているランゼルト様の世界を彼と一緒に歩きながら、そう心の中で思って。

「…この光景も管理者として残さねばなりませんね」と彼に聞こえるか聞こえないかわからない声で言えば。

「アキはこの世界を…そう思っていてくれるのだな…この死に溢れた世界を、アキツシマはそう思うのだな」とランゼルト様はそう嬉しそうに答えるので。

私は驚いたように目を見開きながら、

「ラ、ランゼルト様っ…!!い、今の聞いていらっしゃったのですか…」

「そうだが? どんなに小さくともお前の声は聞こえる…あと何故そう驚く? 悪いことを言ったわけではないのなら、もっと堂々とするといい」

「なっ…もう、分かりました。これからはそのようにしますね…」と照れながら彼にそう言って…。

一緒に歩く彼の腕を恋人がするように、ぎゅっと掴めば。

「それで良い…アキツシマは本当にいい子だな」

「はい、いい子ですよ…だからそんな私にご褒美はありますか?」

「もちろん…むしろ無いわけがないさ…」と、

ランゼルト様はそう言って、氷の大地にある険しい丘の前で立ち止まり。

─優雅な動きで、ある場所を静かに指差して…。

「ほら、見えるか?…これがお前のご褒美だ」と先程自分が言った言葉にそう続けるように言うので。

私はワクワクとした気持ちで、彼が指し示す場所を見ると。

なんとそこには…。

数え切れないほどのペンギンたちが、お互い同士をくっつけて。
まるで、おしくらまんじゅうをするかのように…。
あたりをぐるぐると回っていたので。

私はその光景をみて、思わず。

「こんな寒いところで…あの子たちは何をしているのですか?」と心配そうに言えば。

「…あの子たちは、生まれてくる我が子を敵に奪われない為に、ここで食事すらもとらずに一生懸命頑張っているのだ」とランゼルト様はそう真面目に答えてくれたので。

「そうなんですね…。あの子たちは可愛い我が子の為に、ここで命をかけて寒さと戦っているのですね…。まるで貴方を護る私のように…」

「ああそうだ…だから、アキツシマにどうしても見せたかったのだ…。いつか、私とお前との間に子が出来た時、ここにいるペンギンたちのように…その子を護り抜いて欲しいから…」

ランゼルト様はそう言って、私のお腹を優しく数回撫でるので。

「ランゼルト様っ…ああっ…そんなことっ…言われたら、嬉しすぎてまた泣きそうになりますっ…」と彼の申し出に喜ぶように答えながら…。

─我が子を深く愛して、必死に護り抜くペンギン達の生き様を管理者として…。

そして、ランゼルト様の永遠なる伴侶として観察し。

永久に忘れないように、静かに目を閉じて…。

こう心の中でつぶやく。

「これで…やっとランゼルト様の世界を一つの絵にできる…」と。

そう悲願を達成したように思いながら、ゆっくり目を開けて。

「ランゼルト様…そろそろ戻りませんか?その…流石にもうこれ以上ここに居たら危険だと思いますので」

「そうだな…だいぶ身体が冷えてきたし、流石にお前と私でも、-40度のブリザードにはここまでが限界だな」

「そうですね…ここまで寒いと、流石にもう駄目です…なので帰れるうちに帰って、私は貴方の世界を一つの作品にしたいと思います」

そう私は言って、ランゼルト様の腕を引っ張りながら。
丘から降りて、

「…ランゼルト様、もし私と貴方の間に子供が生まれた時その子が一人だったら、名前はテスカトルがいいです…。そしてもしその子が…双子だったら、イヴァンとザハールと名をつけても良いでしょうか?」と彼に尋ねるように聞けば。

「テスカトル…かイヴァンとザハールか…成る程いい名前だ。最後の二つだけ考えておこう」とそうランゼルト様は本当に嬉しそうに言うので、私はそんな彼の笑顔をじっくりと見ながら…。

この極寒の地で、大いなる愛を我が子に捧げて頑張るモノたちへ…。

『貴方達の子供が無事に産まれますように…』とエールを送ってから。

─今度は凍てつく大地ではなく、むしろ真反対の暖かい…いや暑すぎるランゼルト様の屋敷へとワープするかのように魔術を使って。

私達は無事、最初の部屋へと戻ってきたので…。

私は先程まで着ていた防寒具を急いで脱ぎながら、ランゼルト様にこう言葉をかけた。

「…ランゼルト様、ありがとうございます…。こんな私のようなものに、あれほど沢山の素敵なものを見せてくださって…」

「何をいうのだ…私はただここにあるキャンバスに、より良いものを描いて欲しかっただけだぞ」

「ですが、お礼を言わせてください…。そして、少しの間だけ私を一人にさせてください…」

私はそう言って目の前にある白いキャンバスの縁に手をかければ、ランゼルト様はわかったというかのように小さく笑って…。

「…そうしたいのなら、そうすれば良い。だが、この極夜があけるまでだ…」

「分かりました…それまでには必ず、完成させてみせますっ…!!」

「ああそうだ…是非ともそうしてくれ、じゃないとお前と一緒に入れなさすぎて…病みそうになるからな」

ランゼルト様はそう冗談を言いながら私に頰にお別れのキスを一度だけして、そのまま振り向きもせずに自身の部屋へと帰っていったので…。

私はキスされた頰を利き手で触りながら。

「…嗚呼はやく、このscene69を描かなければ…私も貴方に会えなさすぎて、病んでしまいそうです」

と彼と同じセリフを言いながら、白いキャンバスに黒の鉛筆で絵を描きはじめた…。
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