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黒き双子にご注意を

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「今日もあの人はこない…いやもう来ることはないかもしれない」と、俺はそう呟きながらバーを開ける。

─何度も何度も、ここに来てくれた隆虎さんのことを思いながら、あの出来事があったあの日からずっと…壊れたロボットにように彼を思って。

ひたすらグラスを磨きながら、一つはぁーとため息を吐けば。

「おやおや…このバーはだいぶ辛気臭い系なのかな?」と、

おちゃらけた喋り方なのにどこか落ち着いた声が聞こえてきたので。
思わず俺は顔を上げてその持ち主の姿を見れば…。

なんとそこには、金髪の髪で片目を隠した眼鏡の青年が居て。
俺は初めてみる彼に驚き、彼のこの世界では珍しい蒼い目を見ながら…。

「い、いらっしゃいませ。本日は何にしますか?」とそう笑顔で相手に言えば。
「純米酒ならなんでも頂戴」とそう男は言って、カウンターの席に優雅に座るので…。

俺はその雰囲気と行動のギャップに戸惑いながら、注文された故郷のお酒を出す為にゆっくりビンに手をかけて。

─初めてこの店で『純米酒』を頼んでくれた彼に、この店で一番のお酒を出せば…。
彼はにっこりと笑って、俺が出した白の盃に口をつけてゴクリと呑みほすので。
俺はそんな彼に微笑みを浮かべながら。

「どうですか…?お口にあいましたか??」
「その問いかけは愚問だよ…このお酒に、あわないなんて流石に言えないよ」
「わわわ…良かったです。このお酒はアキツシマ様がランゼルト様の為に造った貴重なお酒の残りなので、ほんとそう言って頂けるとあけた甲斐があります」

俺はそう照れたように言いながら、目の前でそのお酒を嬉しそうに飲む人物に純米大吟醸『蜻蛉島あきつしま』を渡せば。

「なになに?僕にくれるの…?」
「ええ…そうなりますね。というかその…実はこのお酒、アキツシマ様から頂いた際に、貴方のお店で一番最初に純米酒を飲みたいと頼んだ方に全て使ってくださいね…と言われてまして」
「えっ…まじで!?それって冗談じゃないよね??」

男はそう言ってかなり驚いた表情を見せるので、俺はにっこりとした笑顔を見せながら。

「はい、冗談ではないですよ…だからそのお名前聞いても宜しいですか?」と彼に言いながら、ボトルに名前を刻む為にペンを持った。

「もちろんいいよ、僕の名前は狩屋秋一かりやあきいち…気安く秋一って呼んでよね」
「気安くって…お客様にそんなことできないですよ…。なので秋一さんと書かせて頂きますね」
「律儀だねぇ…まあそいうの嫌いじゃないな」

俺はそう楽しそうにいう秋一さんを優しく見ながら、瓶のラベルに描かれた美しい水墨画の山々の一部に彼の名前を書いてから、ずっと渡せれていなかったこのバーのメニュー表を手渡した。

「おおっ…ありがとう、そういえば貰っていなかったねぇ」
「はいそうですね…その何というか浮かれてしまって、出すの遅くなって申し訳ないです」
「おいおい、そう謝らないでよね!せっかくのお酒がまずくなるんだけど!!」

秋一さんはそう茶化すように言いながらも、別に怒ってなんかないぞという態度を示してくれるので。

俺は「わかりました、ありがとうございます」と一度だけ言ってから、そんな出来事があった事すら分からない態度で、この店に久しぶりに訪れた来客をもてなすために…。
琥珀色に輝くウィスキーべースのカクテルを作り上げて。
純米大吟醸蜻蛉島をゆっくり楽しむ秋一さんに、俺はそのカクテルを。

「お口に合わなかったら、捨ててくださいね」と言いながら手渡して…。
ここに居ない隆虎さんの事を、少しだけ懐かしむかのように思った。

─何故なら、今出したカクテルは彼がこの店に出すべきと、オススメしてくれたものだったから…。
俺はそう思う事を、どうしても止めれなかった…。

「…ロブ・ロイか、いい趣味だね。ちょっとびっくりしたよ!」
「よ、良かった…実はこのカクテル常連のお客様がこの店で出すべきだと仰られてたカクテルでして」
「へぇーそうなんだ、キャロルじゃなくて…ロブ・ロイ推すなんて、その人とっても素敵だね」

秋一さんはそう言いながら、持っていた白の盃をカウンターに静かに置いてニヤリと笑う。

「はい、とっても素敵な方です!! 焦げ茶の髪がとってもかっこいい、まるで騎士のような紳士の方なんですよ…って俺何言ってるんだって感じですね。すみません」





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