夜明け前にウィスキーを

面蛸とおる

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支配の騎士と夜空

03

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「むくれてないです」とぶっきらぼうに、俺はそう答えると。

「そうなの?そうと思えないんだけどな…」と、

 隆虎さんは俺の言葉にそう返しながら、ポケットから見たことのない銘柄のタバコを一つ取り出して、


 まるで、映画の一幕のような雰囲気を漂わせながら、口に咥えて。


「…まあいいや。楓がそう言うならそうしておくよ」と小さな子をなだめるかのような声音で、そう呟くので…。

「是非共、そうしてください」と、

タバコを咥えながらそう言う隆虎さんに、俺は唯々笑いつつ、口に咥えた彼のタバコに、火をつけた…。


 そして、しばらくして。

何本かタバコを吸い終わった隆虎さんは、まだ残っているタバコのケースを胸ポケットにしまいながら、

俺にこう話かけた。


「そういえば、楓は今日の夜、予定とかはあるのかな?」

「…予定ですか?…特にはないですが」

「そうか。なら楓さえ良ければ、少し星を見に行かないか?」


俺の返答にそう返しながら、隆虎さんは俺の右手を優しく掴んでくるので。


「えっ、その…あの、困ります」と、


突然のことでパニックになった俺は、そうシドロモドロになりながら答えると、

隆虎さんは一瞬だけ機嫌の悪い表情を見せたが。 
 

すぐさま、愛おしいものを見るような顔を浮かべ、

俺の右手の甲に、まるで騎士が主君へと捧げるようなキスを落としながら…。


「俺では、駄目か?」と弱く呟くように言うので。


俺は普段とはうって変わったその態度に、胸をぎゅっと掴まれたような気持ちになりながら、


「分かりました。今日は11時に締めるので、店の裏で11時30分ごろ来てください」


「楓、ありがとう」


 俺の返答に満足した隆虎さんは、握っていた手を離しながらそう言い。


 続けて、


「…きっと寒くなると思うから、冷えない格好で来るんだよ」と、付け加えるように言いながら。


「じゃあ楓、11時30分になったら向かいに来るからな。途中で行けなくなったとかは、絶対にするなよ」と、

最後は茶化し気味に言ってから、隆虎さんは席を立つので。


「ええ、分かりました。ちゃんと行きますから、隆虎さんも俺のことちゃんと迎えにきてくださいね」

「ああ、もちろん。俺は約束だけは必ず守る男だから、安心しろよ」と、


そう言いながら隆虎さんは懐から財布を出し、そこからお札を一枚だけ出して…。

 
飲み終わったカクテルグラスの横に、静かに置きながら、


そのまま俺の方を、振り向くことなく出て行った。



ーーなので俺は、唯々出て行く隆虎さんに、


「ありがとうございます。星見るの楽しみです」と、


言うことしか出来なかった。






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