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第五話 オーメの試練

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「どうしたっ…!!騎冬…。刀なんて振り回して、危ないじゃないか」
「あっ…えっ…危ないってなんだよっ…!!
仕方がないだろう!!こんな変なの飛んできたら、流石にこうするって」
「こんな、変なのってなんだい!?私には…何も見えなかったけど?」

紫士はそう不思議そうな声で言いながら、金色の目がいる方に進むので。

「危ないっ…!!そっちに行くな」
「騎冬っ…本当にどうしたの?さっきから本当に変だよ?」
「変なのは紫士の方だろう!!なんでわからないんだよっ…。
こんなに言ってるのに、なんで信じてくれないんだよ」

俺は感情が爆発したように、目に大粒の涙を見せて。
俺の言うことを全く聞いてくれない紫士にそう言ってから、
金色の目から逃げるために彼を押し倒せば…。

俺に押し倒された紫士は、

「ごめんね騎冬、君を泣かせるつもりなんてなかったのに…」
「なんだよっ…謝るなよ。お、おれ…姫のこと守りたいから、
一生懸命言ってたのに…。姫が信じてくれないならっ…俺、
もうどうすればいいのかわかんなくなるよ」
「騎冬っ…本当にごめんね。私のことを守ってくれてたのに、
酷いこと言って…本当にごめんね。私は君の姫なのに騎士を信じれないなんて、
いけない事だよね…。だからちゃんと君に言うよ」

と紫士は俺に謝るように言いながら、続けて。

「私を守って、騎冬」と、騎士に命令する姫のようにそう俺に告げるので。

「当たり前だろうっ…守ってみせるぜ姫」
と俺は笑って、目に溜まった涙を拭きながら。

押し倒した紫士の体を、持ち上げて。

元の位置にまで戻しながらも、あたりを警戒し。

まだ近くを飛びまわっている金色の目から、姫を全力で守るために…。

俺はその金色の目にめがけて、刀を槍のように飛ばして投げつければ。

ブスリと見事に命中し、
「ぎゃあああああああああああああああああっ…!!」
と人間の断末魔のような悍ましい絶叫を上げて。

その金色の目はピクリとも動かず、血で染まった絨毯の上にぽとりと落ちていったので…。

俺はその光景に唯々恐れを抱きながら、
姫の為に投げた刀を回収するべく、近くにまで金色の目から勢いよく引き抜けば。

金色の目から、あり得ないほどの赤い血が吹き出して。

「えっ…」と俺が言い終わる頃には…。

そのおびただしい量の血によって、俺の前身は真っ赤に染まり。

まるで何十、いや何百もの人を殺してまわった狂人のような、血まみれの騎士スタイルになってしまったので。

「嘘だろう…。服の替えは持ってきてないのに」
そう俺は泣きそうな声で呟けば。

その光景を見ていた紫士は、真っ青な顔をしながら…。

「騎冬っ…本当に君にだけ、何かが見えていたんだね…。
そんなに真っ赤に汚れてまで、私をっ…いや、
そんな事より服を脱いで。私のカッターシャツを貸してあげるから」
「姫っ…ありがとう。助かるぜ」
「良いよ、気にしないで。騎士を労うのも姫の役目でしょ」

紫士は優しく、囁くように言いながら。
着ていたブレザーとカッターシャツを脱いで、俺にカッターシャツだけを渡し。
自分はこのブレザーだけで充分だよ、と言うかのような仕草で…。
脱いだブレザーを再度着なおすので。

 俺はそんな紫士に見惚れてしまい、
彼から受け取ったシャツを汚れてない手でぎゅっと強く握りしめながら…。

(やっぱ…姫はカッコいいな。俺もこいう男になれたらな…)と胸の中で、
惚けたように言えば。

「騎冬、はやく着ないとダメだよ? 真っ赤なままだと…衛生面も悪いし、
病気にもなるよ」
「うげっ…マジっ…!? それなら早く着るぜ」

俺はそう焦ったように言いながら、
真っ赤に染まったブレザーとカッターシャツを脱ぎ捨てて、
ポケットにしまってあるいつも持ち歩いてるハンカチを取り出して。

真っ赤に染まったこの身を清めるかのように、白のハンカチを真っ赤に染め上げてから…。
紫士のカッターシャツの袖に手を通して、彼のシャツを着た瞬間。

「オーメの試練完了、雪白のために感謝する…三騎冬」という、
雪白と離れる前に聞いた青年の声が聞こえてきたので。

「姫雪白のためって…どいう事?」と、そう大きく不安げに言えば。

「どいう事だと?お前…もしかして、
イツカトルから何も聞かされてないのか?もしそうなら、
この俺テスカトルが教えてやろう」

そうテスカトルと名乗る、
金のようで銀色のくせ毛にジャガーの耳を持った美男子は、
人間を馬鹿にするような笑みを浮かべて言うので。

「テメェも、さっきの奴の仲間かっ…!!」
と威嚇するように言って、手にもつ刀を振りまわせば。

「危ねぇなっ…!!髪が乱れるだろう、
お前は雪白の代わりとなって死ぬためにしか価値がない贄のくせに暴れるなよ」
「お前もなんなんだよっ…。俺は贄なんかじゃない」
「あはははっ…それはないな。
だいたいこの試練を一人でこえたお前は…太陽の為に捧げられる、
俺たち星の管理者の為の贄という証だぞ? 」

テスカトルはそう邪悪な獣のような顔をして、嘲るように笑うので。

「…ふざけるな。俺はお前たちの贄じゃないっ!!俺は姫の騎士だ!!」
と叫びながら、俺を笑うテスカトルに斬りかかれば。

彼は一瞬で、煙のように跡形もなく消えてしまい…。

俺は何もない場所を、意味もなく刀で刺しながら。

「もう嫌だ、早く姫雪白を見つけて…帰りたいよ。俺っ…もうこんなのっ…」
「耐えられないよっ…だよね。分かるよ騎冬、私も耐えられないから」

俺たちのやり取りをずっと見ていた紫士は、そう怒りで溢れた声を出しながら。
俺の頭を優しく、宥めるように撫でるので。

「姫っ…俺、もうっ…そのっ…いろいろと疲れちゃったよ」
「騎冬ほんと、ほんとお疲れ様…。そしてありがとう、
だから少しだけ休もう。ほらちょうどここの先に、休めそうな場所があるから…」
「ほんと、じゃあそこで休もうぜ…。俺、もうダメだ」

紫士の発言にそう俺は返しながら、
テスカトルのやり取りでいろいろと疲れた体を労わるように歩いて。

この広場の奥にある、血が一切かかっていないある意味異質な場所へと。



姫と一緒に向かった…。


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