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血を吸うなら

終わり

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「……ああ、良い臭いだ。我も忘れて、むしゃぶりついて舐めまわしたいぐらい」と、僕はそう言いながらも体の底から沸き上がる、血を味わいたい、生をこの身でもっと感じたいという欲求に、忠実なモノのように。


 ヴィクトルが流した血を舌で、蜜を舐めるように。
満たされるまで、存分に彼の血を堪能すれば……。


 僕に血を吸われて、どうやらそれが気持ちが良かった様子のヴィクトルが。


「あぁあああああっ……はぁああっ……いたっ……気持ちいいっ……」と、乱れた声音で甘く泣き叫ぶので。
 彼の血を飲んで、最初に比べたら何倍かは増しの状況ではあるが、まだ頭に響くので。


「可愛い声だして、泣かないでよね。まだちょっと頭に響くから、その可愛い声はまた違う日に沢山聞いてあげるからさ」

「えっ……あっ……ごめんなしゃい、俺っ……悪気があったわけじゃ……」

「わかってるよ、でも……今は静かにね。声出さずに我慢してる顔を僕に見せて欲しいから」


 僕は情事の最中に出す時の、優しくて蕩けるほど甘い声音で囁くように呟けば。


「……」と、ヴィクトルは僕のお願いに完璧に従って。

 一言も発することもせず、唯々僕を受け入れて……。


僕が血を吸うたびに、感じてふにゃっと蕩けた顔だけを見せてくれるので。

 ──どんなに記憶が失おうとも、君はどんな時でも変わらない君なんだなと。


あの時と同じような状況になって、違うように見えて違っていないという事にふと気がついて。

「愛してるよ……アキツシマ」と、今の彼には理解できない言語で話かければ。


 案の定彼は、不思議そうな顔をして一言も喋らずに僕の目をじっと愛おしそうに見つめるので……。


「嗚呼ごめんね、びっくりさせたね。あまりも君の血が美味しくて、第一地区の言語が出ちゃっただけだから。あと……もう声を出してもいいよ、君のおかげでかなり回復したからさ」

「……ほんとか? 嘘ついてたり、してないよな?」

「するわけないよ、というかそんな嘘ついたところで……無駄だしね」

「そうだよな。なら……良かった、本当に良かった!!」


 そうヴィクトルは嬉しさで満ち溢れた声を、僕に気を使って小さくして言うので。


 そんな些細だけど、僕にとっては胸にくる優しさと気遣いに……。


 僕は、


「……愛してるよ、ヴィクトル」と彼にわかる言葉で、そう笑って答えた。
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