黒き眠り姫を起こすのは

面蛸とおる

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黒き眠り姫を起こすのは(強気受け)

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涙を止めようと強く思っても、その優しさとその愛に、抗う事など出来ず……。

 俺は人の目など気にせずに、目から溢れる涙を置き去りにするようなスピードで。
 あの人が待つマンションへ、向かい……。

いろんな感情で震えてしまう指先で、エレベーターのボタンを押して。

 ──このマンションの最上階にある部屋へと、向かいながら……。

(大切なあの人の前で、こんな涙でぐちゃぐちゃになっている顔を、見せたら駄目だ)と、もうないかと思っていた気力を、振り絞って。

 ──この世界で生きていく為に考えた、ツンツンとした強気な自分へと……。

パチンとスイッチで切り替えるように、弱気な自分を、心の奥底に閉まってから。

 最上階にあるアレクセイの部屋の扉を、開いて。
街の景観がとてもよく見えるリビングに、急足で向かえば。

 ──そこに居るはずの大好きなあの人は、何故か居なくて……。

「えっ……? なんで……」と望みを失った人物のように、そう小さく呟いた瞬間。

 ──背後から、誰かに強く抱きしめられたので……。

 俺はそれに驚き、声にならない声で怯えたように「にゃっ……」と叫べば。

「ヴィクトルは、素直じゃないよね……。凄く無理してるのに、無理してないって、嘘ついても僕にはバレバレなのにさ、でもそんな君も、大好きだよ……。だから、君が望む僕になってあげたよ」

 そう、今日一日の間で『最も逢いたい』と思った人物でもあるアレクセイが、心地の良い声で優しく、甘やかすように話しかけてくるので……。

 思わず俺は、彼の腕にそっと手をかけて、勢いよく彼の方に振り向くと。

──其処には、俺の願う理想通りの姿になっているアレクセイが居て。

 その姿を見た瞬間、俺は訳もわからず……。
 ぎゅっと強く、彼の背に手を回して。

「俺も、アレクセイが大好きだよ……。でもさ……今、俺、アレクセイの事を信じたいのに、信じられないんだ。だって、エリックもセシュも……朝言ってた歌を、知らないって言うし、街の図書館のデーターベースで検索しても、該当する結果はありませんで……。俺、もう何が本当で、嘘なのか、わからなくて……」と言って。

 彼に自分自身が今思っている事を、嘘偽りなく伝えるように……。
強気な自分を投げ捨てて、ずっと言えなかった本心を。

 ──大好きな人に、ちゃんと言葉で伝えれば。

「ヴィクトルは、僕の事を嘘つきだと思う?」

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