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黒き眠り姫を起こすのは(強気受け)

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 雨の音がザーザーとノイズのように耳に響く。
 その音はこの荒んだ世界にふさわしく、俺はこの規則的に奏でられる音楽に、歌でもつけてしまおうかと思って……。
 獣の耳のようにハネた特徴的な黒のクセ毛をいじりながら、猫のような蒼い目を細め、威嚇する気持ちでセットした髪型が、湿気でくずれてないのかを少しチェックしてから。
 探偵映画のセットのような自分の事務所の窓に手をあてて、昨夜見た夢の中で自分が誰かに歌った歌詞を、口ずさむ……。

「鏡の男がみた夢は愛の夢、眠り姫を起こすのは、気高き死をもたらす騎士……。嗚呼、なんて幸福な物語」

 そう『夢の中の自分ではない、自分』が歌ったように、優しく囁けば。

「でもそれは、人にとっては不幸な物語。悲しい悲しい二人、呪われた愛の悪夢」と髪型だけは少し違うけど、あとは瓜二つの姿をもつ……。

 黒髪蒼目で、俺にもあるけど、獣の耳のようにハネた癖毛が、メンダコヘアーに見えてしまうアキが、いつも着ている黒地に紫色の襟をあわせたロングコートを、タコがふよふよと泳ぐように揺らして……。

 ──空中をぷかぷかと浮きながら、俺のすぐ側にまでやって来るので……。

「なっ……メンダコの妖精さんスタイルで来て、どうしたのアキ? あと、さっきの歌アキも知ってるの?」

「はい知ってますよ。よく歌う曲ですから」

「そうなの!! まじで、だってこの曲さ……。昨日みた夢の中で、聞いた曲だから……。なんかその……」

「嬉しい気分になるって、感じですか?」

 そうアキはくすくすと笑って、優しく答えるので。

「そうだよ!! 嬉しい気分になるよ!! だってさ、この曲が俺の忘れてしまった過去への、ヒントになるかも知れないからさ」

「ふふふっ……そうですね。なるかも、知れないですね。だって、私も知っている歌ですもの。きっと、この箱庭世界で空前のヒット、間違いなしですね」

「アキったら大げさだな、でも……もしそうだったら良いな。だって、夢の中の俺はこの歌を歌ってる時。誰かの側で、幸せそうだったから……」

 俺はそう言いながら、夢の中の情景を思い出すように……。

 ──金のような銀の髪を、紫のリボンで一つに縛った、顔が何度見ても真っ黒で分からない、憧れのあの人を思い浮かべて。

「幸福と不幸の上で、私は貴方を忘れても、私は貴方の元へと向かうでしょう。たとえ、この右手を失っても……。私は貴方の手を……」と、

 そう夢の中で聞いた歌の続きを歌えば、その歌に答えるように事務所の扉が開いて。

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