上 下
5 / 17
黒き眠り姫を起こすのは (健気受け)

5

しおりを挟む
 ──この嬉しさを、感情の赴くままに。

「鏡の男がみた夢は愛の夢、眠り姫を起こすのは、気高き死をもたらす騎士……。嗚呼、なんて幸福な物語。でもそれは、人にとっては不幸な物語。悲しい悲しい二人、呪われた愛の悪夢。幸福と不幸の上で、私は貴方を忘れても、私は貴方の元へと向かうでしょう。たとえこの右手を失っても、私は貴方の手をとって。果たせなかった想いを叶えましょう」と、アキツシマはそう『私であった、私たちの希望と絶望』を全てごちゃ混ぜにした本音を、即興で考えたメロディーに乗せて歌うので……。

「すごく、お前らしい歌だ。きっと、テスカトル様もお喜びになるだろう……。いや、すまない、今のは余計な言葉だったな。お前は、雪白ではなくアキツシマ。そう、僕だけのアキツシマなんだから」

「はい、私はアキツシマです。テスカトル様を魅了して、地球を滅ぼした最も罪深き悪、魔性の雪白ではありません……。貴方様がそうでないように、私は私……」と、

 アキツシマは強く断言するように答えながら、ランゼルトのすぐ側に。

──蝶のように、静かに舞い降りてから……。

 幼児のような仕草で、勢いよく彼の胸に飛び込み。

 今度は、声にならない声をあげて……。

「私、ラーニャに逢えて本当に、本当に幸せです。嬉しくて、嬉しくて……。こんなに幸せになれて、よ、良かったです。だって私、私じゃない私たちの苦しみも、絶望も希望も……。私が人ではないから、ときより観測えてしまうからこそ……。こうやって、貴方のお側に居られるだけでも。この上もない程の幸せです」と言うので。

「アキツシマ……僕も、お前と一緒に入れて幸せだよ。嗚呼、僕も泣きそうだ」

 そうランゼルトは震えた声で言いながら、嬉し泣きをするアキツシマの髪を、数回優しく撫でてから……。

 両目で色が違う瞳から、一筋の涙を流し。

 桜の花びらが舞うこの風景を『私が私ではなくなっても、決して忘れない』と、心の中で誓いながら……。

 この世界で誰よりも心優しくて、誰よりも愛おしいアキツシマを、持ち上げるように、抱きかかえて。

 自分より高い位置にある唇に、永遠に変わらない愛を、約束するように……。

──慈しむかのような甘いキスを、眠り姫を起こす王子様のように捧げた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。  😏ユルユル設定のオメガバースです。 

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

眠るライオン起こすことなかれ

鶴機 亀輔
BL
アンチ王道たちが痛い目(?)に合います。 ケンカ両成敗! 平凡風紀副委員長×天然生徒会補佐 前提の天然総受け

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...