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おそらく、フリーズよりも低い確率
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《おそらく、フリーズよりも低い確率》
それは、深夜。閉店後の騒ぎであった。
煌々と輝く台が並ぶ中、揃いの制服を着た店員たちはラバー付き手袋を嵌め、今か今かとその時を待っていた。
「パイセン、遅くないスか?」
黒髪のつんつんヘアーの大学生アルバイターは、暇を持て余したかのように立ったりしゃがんだりと忙しなく動いていた。
腕に嵌められたG-SHOCKを睨みながら、眼鏡の男性は真っ直ぐと、メイン道路の方を向いている。予定の時刻は12時20分。早く着きすぎることはあれど、深夜なのだから遅れることは滅多にない。
「運転中に催促の電話でも入れてみろ。事故るぞ」
七尾と名札を掲げている男性は、待機している面々に向かって指示を入れ直した。
「まず、市ヶ谷と世治は店内ポップの回収、作成しておいたものと入れ替え。作成しておいたポップはカウンターの中に置いてあるため、新台導入のと入れ替えること。三枝は撤去台周りの清掃。四谷さんは明日の16時開店のポスターと入れ替えてもらって、終わり次第タイムカードを押してください。五味主任はホームページの更新を。鹿治さんは倉庫内の備品数を確認で。トラックが来たらインカムを入れます」
各々、はーいとか了解ですとか、返事をして散っていく。
今日は新台入替日。パチスロ屋の、深夜の祭りの日である。
人気の機種から、最新作まで総じて大きく入れ替わる今日は、人が忙しなく動く日になるだろう。
と、思われていたのだが、肝心のトラックの到着が未だになかった。新台や他店舗から移動してきた台は全てトラックが運搬してくる。トラックが来ない以上、明日の開店前の作業を前倒しでやってもらうしかない。
…なんてことだ。朝までコースとなれば、今日発売のファーストファンタジスタの最新作が、最速で遊べなくなるかもしれないではないか。七尾は焦っていた。ファーストファンタジスタの最新作のためにパソコンにアホみたいに高い金をはたいてスペックを鬼のように盛って待機していたのに、何たる屈辱!
戦慄く。帰ったらファーファ(ファーストファンタジスタの略称)のヒロインを最初どちらで選ぼうかとか、レベル上げをどうしようとか、楽しみで若干睡眠不足だと言うのに。
焦りで変な地団駄まで出てきた七尾の前で、轟音を立てて交差点を突っ込んでくる何かが見えた。
うるさすぎる警報音を撒き散らして爆走する何かは、赤信号を見事に無視して、自動車を一台巻き込んで生垣を突破してくる。
生垣……。
その日ほど、睡眠不足だったことを後悔した日は無い。判断が遅れた七尾は、目の前に迫っているトラックを見て、ようやく身を翻した、が、パチンコの激熱演出のように、現実はそう上手くは行かない。
めっしゃりと音を立てて崩れ落ちた眼鏡と、血溜まりに沈んでいく自分の手の中に、落ちた名札の星が握られている。
ゲーム以外で唯一誇れる、「全国で1番接客に優れたもの」の証。マイスターの証。
…ああ、こんなことなら今日やっぱり有給にするべきだったな。
そんな最後の言葉は、無情にも警報器の音で引き裂かれていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
パチスロ用語
《パチンコ》
玉を弾いて真ん中のスタートに入れることで抽選を行う遊技機。当たる確率は現代だと「1/319」「1/150」「1/99」などが主流。
《スロット》
回胴式遊技機とも言う。リールと呼ばれるものがぐるぐる回り、同じ図柄が揃ったり特定の図柄が揃うとメダルを得られる。大当たりの抽選はレバーを叩いた瞬間になる。
機種によって様々だが、メインは「Aタイプ(1回1回大当たりを抽選するタイプ)」、「AT(アシストタイム)」、「ART(アシストリプレイタイム)」の3種。
《新装開店》
メーカーから発売される最新機種や、人気機種の増台されたものが遊べる日。
前日は新装開店準備の日となり、大体の店舗は午後から営業をする。前々日の深夜に、台の入れ替え作業が行われるのが大半。
《フリーズ》
パチンコやスロットなどである、演出のひとつ。大当たりが濃厚である上に、何かしら恩恵まで付いてくるのがほとんど。
突如画面が止まったり、ブラックアウトしたりなど一見故障のような挙動をするが、だいたいその後虹色に光ったりする。
《激熱》
激アツとも書く。特定の演出や挙動、激熱の文字が見えれば、大当たりの期待度が大きく跳ね上がる。
激熱とは言うが、外す時は外す。大当たり濃厚では無い。
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それは、深夜。閉店後の騒ぎであった。
煌々と輝く台が並ぶ中、揃いの制服を着た店員たちはラバー付き手袋を嵌め、今か今かとその時を待っていた。
「パイセン、遅くないスか?」
黒髪のつんつんヘアーの大学生アルバイターは、暇を持て余したかのように立ったりしゃがんだりと忙しなく動いていた。
腕に嵌められたG-SHOCKを睨みながら、眼鏡の男性は真っ直ぐと、メイン道路の方を向いている。予定の時刻は12時20分。早く着きすぎることはあれど、深夜なのだから遅れることは滅多にない。
「運転中に催促の電話でも入れてみろ。事故るぞ」
七尾と名札を掲げている男性は、待機している面々に向かって指示を入れ直した。
「まず、市ヶ谷と世治は店内ポップの回収、作成しておいたものと入れ替え。作成しておいたポップはカウンターの中に置いてあるため、新台導入のと入れ替えること。三枝は撤去台周りの清掃。四谷さんは明日の16時開店のポスターと入れ替えてもらって、終わり次第タイムカードを押してください。五味主任はホームページの更新を。鹿治さんは倉庫内の備品数を確認で。トラックが来たらインカムを入れます」
各々、はーいとか了解ですとか、返事をして散っていく。
今日は新台入替日。パチスロ屋の、深夜の祭りの日である。
人気の機種から、最新作まで総じて大きく入れ替わる今日は、人が忙しなく動く日になるだろう。
と、思われていたのだが、肝心のトラックの到着が未だになかった。新台や他店舗から移動してきた台は全てトラックが運搬してくる。トラックが来ない以上、明日の開店前の作業を前倒しでやってもらうしかない。
…なんてことだ。朝までコースとなれば、今日発売のファーストファンタジスタの最新作が、最速で遊べなくなるかもしれないではないか。七尾は焦っていた。ファーストファンタジスタの最新作のためにパソコンにアホみたいに高い金をはたいてスペックを鬼のように盛って待機していたのに、何たる屈辱!
戦慄く。帰ったらファーファ(ファーストファンタジスタの略称)のヒロインを最初どちらで選ぼうかとか、レベル上げをどうしようとか、楽しみで若干睡眠不足だと言うのに。
焦りで変な地団駄まで出てきた七尾の前で、轟音を立てて交差点を突っ込んでくる何かが見えた。
うるさすぎる警報音を撒き散らして爆走する何かは、赤信号を見事に無視して、自動車を一台巻き込んで生垣を突破してくる。
生垣……。
その日ほど、睡眠不足だったことを後悔した日は無い。判断が遅れた七尾は、目の前に迫っているトラックを見て、ようやく身を翻した、が、パチンコの激熱演出のように、現実はそう上手くは行かない。
めっしゃりと音を立てて崩れ落ちた眼鏡と、血溜まりに沈んでいく自分の手の中に、落ちた名札の星が握られている。
ゲーム以外で唯一誇れる、「全国で1番接客に優れたもの」の証。マイスターの証。
…ああ、こんなことなら今日やっぱり有給にするべきだったな。
そんな最後の言葉は、無情にも警報器の音で引き裂かれていった。
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パチスロ用語
《パチンコ》
玉を弾いて真ん中のスタートに入れることで抽選を行う遊技機。当たる確率は現代だと「1/319」「1/150」「1/99」などが主流。
《スロット》
回胴式遊技機とも言う。リールと呼ばれるものがぐるぐる回り、同じ図柄が揃ったり特定の図柄が揃うとメダルを得られる。大当たりの抽選はレバーを叩いた瞬間になる。
機種によって様々だが、メインは「Aタイプ(1回1回大当たりを抽選するタイプ)」、「AT(アシストタイム)」、「ART(アシストリプレイタイム)」の3種。
《新装開店》
メーカーから発売される最新機種や、人気機種の増台されたものが遊べる日。
前日は新装開店準備の日となり、大体の店舗は午後から営業をする。前々日の深夜に、台の入れ替え作業が行われるのが大半。
《フリーズ》
パチンコやスロットなどである、演出のひとつ。大当たりが濃厚である上に、何かしら恩恵まで付いてくるのがほとんど。
突如画面が止まったり、ブラックアウトしたりなど一見故障のような挙動をするが、だいたいその後虹色に光ったりする。
《激熱》
激アツとも書く。特定の演出や挙動、激熱の文字が見えれば、大当たりの期待度が大きく跳ね上がる。
激熱とは言うが、外す時は外す。大当たり濃厚では無い。
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