8 / 17
良いお店
しおりを挟む
翌日。
僕は五時半から目が覚めて、九時には約束していた新宿のスイゼリア近くに着いていた。
我ながら早すぎると思う。
起きたら眠れなくなった為、早々に準備をして家を出たのだが。約束の二時間前に到着は流石にやり過ぎだ。
彼女欲しさにがっつき過ぎ=ダサいと思われてしまう。
仕方無しに、僕は休憩できる場所を探して彷徨った。
結局、近くに自由に座れる椅子が無かったので偶然見つけた喫茶店に入り、アイスコーヒーを注文した。
口数少なそうな、でも優しそうな顔をした白髪の男性がマスターをしている、何十年も前から在りそうなカフェだ。
メニューはどれも時代錯誤なくらい安いので、正直あまり味に期待はしていない。
一時間も居座ると怒られるかな?
「どうぞ」
「…………美味しい、です」
提供されたコーヒーを一口飲むと、心地良い甘さと、冷たさとほろ苦さからくる爽やかな余韻に、感想が無意識に口から出る。
「良い味でしょう。甘いのがお嫌いでなければ、此方もどうぞ。お代は要りません」
「レモンケーキ。ありがとうございます…………これも美味しい! 大好きな味です」
「ふふ。ご満足頂けて何よりです。時間を気にせずごゆっくり寛いでください」
「はい」
こういうお店のマスターって、実際も映画みたいに一つ一つ丁寧にグラスを磨くんだ。まだ朝だし、そんなにグラスが使われたとは思えないけど、手持ち無沙汰からかな。
理由はともかく、本当に絵になる所作に見惚れてしまう。早起きしたお陰で良い店を見つけたものだ。
行きつけにしようかな。
もし彼女が出来た時『僕の行きつけの喫茶店に行こうか』なんて洒落た事が言えたら格好良いもんね。
途中一杯のおかわりを頼み、一時間が経過した。
入店してから程なくして他に二人組の女性客が来たけど、その客ものんびり談笑しているので、僕も安心して過ごすことが出来た。
「お会計、お願いします」
「かしこまりました」
レジの画面を見た僕は目を疑った。
表示されていたのは三百八十円という数字。
「あの、一杯分になってますよ」
「はい。アイスコーヒー一杯の代金になります」
「とても美味しかったですし、長居をしたので、しっかり請求して頂いて大丈夫ですよ?」
「ふふ。今日は特別サービスです。行きつけにしてくれるのでしょう? 次回は是非、お連れ様といらしてください」
「えっ?」
「気に入ってくれた人の違いは分かるんですよ。私も長くやっておりますのでね」
「お兄さん! 良いのよ! マスターは全然お金儲けを考えない人だから! 気にしないで甘えちゃいなさい!」
二人組の女性が横槍を入れる。
こういう喫茶店は初めてだし、そんなものなのかと自分を納得させて笑顔を返し、僕はスマホをかざし支払いを済ませた。
「ご馳走様でした。また来ます」
「お待ちしております」
つくづく良いお店だったな。
ただ一つ不満があるとすれば『次はお連れ様と』って言われたけど、僕は今のところモテ歴ゼロだ。
マスターの期待には応えられない。
もし今日のダブルデートに成功すれば話は別だけど、デートに失敗したら涼太でも連れてくるか。
一応、お連れ様には違いないしね。
僕は五時半から目が覚めて、九時には約束していた新宿のスイゼリア近くに着いていた。
我ながら早すぎると思う。
起きたら眠れなくなった為、早々に準備をして家を出たのだが。約束の二時間前に到着は流石にやり過ぎだ。
彼女欲しさにがっつき過ぎ=ダサいと思われてしまう。
仕方無しに、僕は休憩できる場所を探して彷徨った。
結局、近くに自由に座れる椅子が無かったので偶然見つけた喫茶店に入り、アイスコーヒーを注文した。
口数少なそうな、でも優しそうな顔をした白髪の男性がマスターをしている、何十年も前から在りそうなカフェだ。
メニューはどれも時代錯誤なくらい安いので、正直あまり味に期待はしていない。
一時間も居座ると怒られるかな?
「どうぞ」
「…………美味しい、です」
提供されたコーヒーを一口飲むと、心地良い甘さと、冷たさとほろ苦さからくる爽やかな余韻に、感想が無意識に口から出る。
「良い味でしょう。甘いのがお嫌いでなければ、此方もどうぞ。お代は要りません」
「レモンケーキ。ありがとうございます…………これも美味しい! 大好きな味です」
「ふふ。ご満足頂けて何よりです。時間を気にせずごゆっくり寛いでください」
「はい」
こういうお店のマスターって、実際も映画みたいに一つ一つ丁寧にグラスを磨くんだ。まだ朝だし、そんなにグラスが使われたとは思えないけど、手持ち無沙汰からかな。
理由はともかく、本当に絵になる所作に見惚れてしまう。早起きしたお陰で良い店を見つけたものだ。
行きつけにしようかな。
もし彼女が出来た時『僕の行きつけの喫茶店に行こうか』なんて洒落た事が言えたら格好良いもんね。
途中一杯のおかわりを頼み、一時間が経過した。
入店してから程なくして他に二人組の女性客が来たけど、その客ものんびり談笑しているので、僕も安心して過ごすことが出来た。
「お会計、お願いします」
「かしこまりました」
レジの画面を見た僕は目を疑った。
表示されていたのは三百八十円という数字。
「あの、一杯分になってますよ」
「はい。アイスコーヒー一杯の代金になります」
「とても美味しかったですし、長居をしたので、しっかり請求して頂いて大丈夫ですよ?」
「ふふ。今日は特別サービスです。行きつけにしてくれるのでしょう? 次回は是非、お連れ様といらしてください」
「えっ?」
「気に入ってくれた人の違いは分かるんですよ。私も長くやっておりますのでね」
「お兄さん! 良いのよ! マスターは全然お金儲けを考えない人だから! 気にしないで甘えちゃいなさい!」
二人組の女性が横槍を入れる。
こういう喫茶店は初めてだし、そんなものなのかと自分を納得させて笑顔を返し、僕はスマホをかざし支払いを済ませた。
「ご馳走様でした。また来ます」
「お待ちしております」
つくづく良いお店だったな。
ただ一つ不満があるとすれば『次はお連れ様と』って言われたけど、僕は今のところモテ歴ゼロだ。
マスターの期待には応えられない。
もし今日のダブルデートに成功すれば話は別だけど、デートに失敗したら涼太でも連れてくるか。
一応、お連れ様には違いないしね。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる