命の質屋

たかつき

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平凡な僕

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 三本目の缶酎ハイに手を付けた僕達は、話題を恋愛話コイバナに変え、涼太が僕に謎の恋愛指導をする、という何とも謎の時間を過ごし、電池が切れたように寝た。
 
 ちなみに、酔っ払いながらも寝る前に歯を磨き、アラームの設定を確認する、という習慣は忘れない。
 こういう所、我ながら真面目だなぁと、しみじみ思う。

 ◇

 翌朝、目が覚めた僕は、だらしなく寝る涼太を横目にコソコソと荷物を整理し、朝風呂に出かけた。

 明日のダブルデート、今から緊張するな。
 どんな人なのだろう。
 本当に僕みたいな奴と会いたいと思ってくれたのかな。
 何かの罰ゲームだったりして。
 いや、昨日のレクチャーを思い出せ。
 女の子は卑屈な男より、自信のある男の方が好きなんだ。
 自信を持て。自信を持て。今の僕は超能力者だ!

 そんな自己暗示めいた事を考えながら、朝風呂ならではの半分貸し切り状態をたのしんだ。
 涼太も起こせば良かったかな? と思ったが、そこまでやってしまっては、いよいよ夫婦と変わらないと思い至る。

 部屋に戻った僕は未だ気持ち良さそうに寝ている涼太を起こすと、一人朝風呂を愉しんだ事を責められた。
 
 その後の一日は、何ら変哲の無いだった。チェックアウトを済ませ、シャチのショーが有名な水族館ではしゃぎ、旅の締めくくりとした。

 帰りは鴨川からバスで木更津駅まで行き、総武線で家を目指すルートを選んだ。
 目的地は互いに東京だけど、僕は葛飾かつしか区で涼太は江戸川えどがわ区。と言っても、仕事を始めた上で、都合が悪ければ引っ越す可能性はあるのだけど。

 涼太はバスに乗って直ぐに寝た。

「涼太、起きて、乗り換えだよ」
「んあ、ああ、起きてたよ」
嘘吐ウソつけ」

 涼太は電車に乗って直ぐに寝た。
 朝もがっつり寝てたのに、よくまぁこんなに寝れるもんだと感心してしまう。
 
 暇な僕は【命の質屋】の使い方を考え……はせず、明日のダブルデートの事を考える事にした。
 考えると言っても、相手の女の子の情報は日月大学の今年度の卒業生って事以外、何も知らないんたけどね。

 スイゼリアで昼食を食べる所からって言ってたけど、初対面の人と食事って少しハードルが高い気もする。
 まぁ、香菜ちゃん側が決めたっていうから気にしない性格なのかも知れないけど、口が汚れやすい料理は頼まない方が良いだろうな。
 そもそも何を着て行けば良いのだろう。
 今日、家に帰った後はだらけて過ごそうと思ってたけど、美容室とか行った方が良いのかな? でも、ああいう所って予約しないと駄目なんだっけ? 
 理髪店しか行かないから分かんないや。
 
 ぐだぐだと考えたが、結局は涼太のレクチャーで言われた『ある程度の清潔感さえあれば見た目だけで嫌われたりしない』という言葉を信じ、お気に入りの無地の服と、念入りにヒゲを剃る、という事で結論づける。

 気付けば涼太の降車駅に着いていた。

「じゃあ明日の十一時、新宿な!」
「うん! じゃあまた!」

 一人になり、改めて旅行を振り返ると 天恵を授かる という信じられない出来事があったにも関わらず、楽しい旅行だったと、子供じみた感想が浮かぶ。

 超能力は凄い。けど、平凡な僕の事だから、案外一度も使わないまま年齢を重ねるのかも知れないと思った。
 
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