命の質屋

たかつき

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勝手な話

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 ちまたでは、国が総力を挙げて存在を隠す超能力者が居ると言われている。
 最終兵器女子 なんて呼ばれている吉田さんの様に戦闘能力が高く、存在するだけで各国に対する軍事的抑止力になりうる超能力なら公表される。が、逆に各国が戦争を起こしてでも奪いたくなる超能力だと、存在は公表せずに隠匿いんとくされると言われている。

 あくまでも噂だ。
 で、僕の場合は確実に後者に当たる。

「超能力って、神様が説明してくれるの?」
「不思議だけど、最初から知ってたみたいに頭の中に入ってた。『命の質屋を授ける』って聞こえた後にね」
「ふぅん。ヤバい、ゾクゾクしてきた。俺も天恵の儀、やっとけば良かったかな。凄いの貰えたかも」
「んん、どうだろう。神様の判断基準がよく分からないから何とも言えないけど、何故僕が? とは思ったよ。逆に」

 グルンと体勢を変え、ベットの縁に腰掛けた涼太。
 柄にもなく、真剣な顔をして寝転がる僕を見つめた。
 察して、僕も横になるのを止めてベットに座る。

「なぁ、徹。流石に分かると思うけど、絶対に公表するなよ。政府に飼い殺しにされるか、反社に狙われるぞ」
「うん。分かってる」
「特許庁にも行くなって事だぞ」
「分かってるって」
「なら良いんだけど、徹は真面目の塊みたいな奴だからな」
「そんなつもりは無いんだけどね」

 褒めてるのかけなしてるのか分からないけど、涼太のこういう所は安心する。話には僕も同感だ。

 ――ピリリ、ピリリ。ピリリ、ピリリ。
 涼太のスマホの飾り気ない着信音が鳴り響く。

「香菜ちゃん?」
「だわ。ちょっと出る」
「うん」

 ――ピリリ、ピ。
「もしもし。うん――おお、良かったじゃん。――うん、明日には帰るから、明後日なら行けるよ。え? マジで? はは! それは楽しみだな。――いや、今は鴨川のホテルに着いてひと休みしてたとこ。――居るよ、代わる? あはは! じゃあ――うん、またね。はぁい」
「もう怒ってなかった?」

 秋山 香菜ちゃん。涼太の彼女で、大学の同級生だ。
 今回の旅行に連れて来ない事をかなり怒っていたらしい。
 僕的には涼太の判断に感謝だけど。
 気を遣う旅行ほど嫌なものはないからね。

「おう、機嫌良かったわ。機嫌悪いとマジ面倒だからなぁ」
「なら良かったけど……彼女居ない歴イコール年齢の奴の前で面倒とか言うなよ。マジ命買い取るぞ」
「ははは! 洒落になんねぇだろ! なんか、理沙のバイトが無くなったから、一緒に しながわ水族館 に行ってきたらしいよ。ほら、写真も来てるわ。こっちも徹と俺のイチャイチャ写真送っといてやるか」

 僕らも明日は水族館に行く。という予定があるから、それに対抗して香菜ちゃんも水族館に行ったのかな? と、そうだとしたら微笑ましいなと密かに思う。

「はいはい、羨ましいですね」
「とりあえず、外でも散策してくるか。汗かいたら戻って来て風呂に入って、晩飯食ってさ、話の続きはそれからだ」
「そうだね」

 互いに半袖、半ズボンの軽装で支度をして、部屋を出た。
 
「あ、ところで明後日空いてる?」
「明後日? 別に何も無いけど。多分」
「じゃあダブルデートね」
「は!? 嫌だよ!」
「よし、OKってことね」
「嘘だろ? 誰と? もしかして、理沙?」
「いや、俺も分かんない。香菜の友達で日月大にちげつだいの子だって。同い年。それ以外は分からん。なんか、香菜のダンス仲間らしいんだけど、徹のことを話したら会ってみたいって言い出したらしいよ」
「別の大学の子なんだ……そんな勝手に決められても、涼太なら分かると思うけど、僕、本当にそういうの苦手だよ?」
「でも彼女欲しいんだろ? ファイト!」

 まさかのダブルデートが確定してしまった。

 高校時代、僕史上で唯一の告白が『ぷすっ。ご、ごめん、無いです』と、鼻で笑われただけの最悪な失敗をして以来、ああ、僕は恋愛とは無縁の人生を歩むんだ。と、妙に納得して生きてきたのに、どうしたら良いんだ!

 正直言って、超能力に構う余裕は無くなった。
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