命の質屋

たかつき

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十億分の一

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「大丈夫ですか?」

 同伴の僧侶の声でハッとする。
 立ちくらみに似た感覚。
 僅かな間、意識が途切れていた様だ。

 不思議なことに、頭の中には生まれた時から知っていたかの如く【命の質屋】という能力の、効果も使用方法も入っている。これが天恵……か。
 マジか。マジか。マジか。困るって、これは!
 神様、どうして僕に天恵を授けたのですか!?
 
「ありがとうございます。大丈夫です」
「では戻りましょうか。足元に気を付けて」 
「……はい」

 頭の中の僕はパニックで走り回っているけれど、顔には出さないと心に誓う。僕は冷静、感情を持たぬロボットだ。
 実際は予想外の出来事に水の冷たさも忘れていたのだが。

 ところで、何も聞かれないけど、この僧侶は僕が天恵を授かった事に気が付いているのだろうか。 
 実名で予約をしたのはマズかったかな。

「人がこの世に生を受けた。という事が、一番の天恵でございますので、あまり気を落としません様に。今日の体験そのものが、きっと良い変化をもたらすでしょう」 

 気付いて無さそうだ。
 そりゃそうか、確率十億分の一だもんな。
 どうしよう、心臓がバクバクしてる。鼻血が出そう。

 木道まで戻って来た僕を涼太が興奮気味に迎える。
 それを一旦制止し、着替え用テントで私服に戻してから僧侶にお礼をして、厄除やくよけの御守を受け取った。
 これで本当に儀式の全てが終わったと言える。

 僧侶は次の順番の人への案内を始めた。
 付き添うだけなのに、何度も冷たい水の中に……この僧侶の取り分がいくらなのか知らないけど、大変な仕事だな。

 設置されたベンチに腰掛けたところで、涼太が僕の肩を叩いた。
 
「おい、徹! 凄かったな!」
「凄かった……かな?」
「ああ! 徹が洞窟の影になって見えなくなったと思ったら朝日がパァーッときてさ! あれは流石に感動するって! 馬鹿にしてたけど、ここ、ガチなパワースポットだわ!」 
「馬鹿にしてたのかよ。めっちゃ有名なのに」
「で? 天恵は授かれたのか?」
「う、ん? そんな訳ないだろ。十億分の一だよ?」
「それもそうか! ドンマイ!」
「うん。ありがとう」
 
 危なかった。
 周りにも沢山聞き耳を立ててる人が居るのに、この場で 超能力を授かりました! なんて言ってしまえば、あっという間に情報が拡散されて、今晩には家に大量のメディアが押し寄せる事になる。

 涼太には悪いけど、まだ秘密にしておこう。
 
 確か、天恵を授かった人は特許庁に行って超能力の確認や使用許可、その他諸々の手続きを行うことになっている。
 裏では何処まで真面目に審査してるのかなんて分からないけどね。かくいう僕も、特許庁に行く気は無い。

 何故なら、恐らく【命の質屋】に使用許可は降りない。
 余りにも、倫理とかけ離れている力だから……。
 
 
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