ちっちゃい仲間とのんびりスケッチライフ!

ミドリノミコト

文字の大きさ
上 下
90 / 91
選手選抜編

一回戦

しおりを挟む



 「まさか初っ端からルーベンと当たるとは……っていうか、ルーベンも参加するんだね……。」
 『自尊心の塊のような存在でしたからね。十中八九参加してくるだろうとは思いましたが最初から当たるとは……お母様、大丈夫ですか?』
 「大丈夫だよ。それに、これってチャンスだと思うんだよね。」

 リッカが言ったチャンス、という言葉に朱雀は首を傾げた。チャンスとは?と。リッカ的にはルーベンをぼこぼこにすることが公式的に許された場であると感じていた。オーバーアタックはダメにしろ、良い感じに実力の差を見せることができるだろう。
 実はここだけの話、ルーベンの嫌がらせはあの後も続いていた。地味なものだったのでリッカも神獣たちも、そしてフェリもなにも言わなかったが、心のどこかではうざったく感じてはいたのだ。普通の課外授業や自由時間は野良試合は禁止であるため、手の出しようがなかったのである。
 それが、今日はこうやって初戦で対戦と相成ったため、嫌な気持ちもあるがどちらかというとわくわくとした気持ちの方が勝っていた。

 「ここで実力の差を見せれば、ルーベンも流石に大人しくなると思うんだよね。」
 『流石にしつこいよなー……母さんってば相当あしらってたと思うんだけど、懲りなかったよなー!』
 「そうなんだよね。ちまちまちまちま……今もすっごく視線がうざったいんだよね。」
 『どうしてそんなにりっかにばっかり、やなことするんだろーねー?』
 『フェリは理解しなくてもいいことだよ。お母さん、とりあえず第一試合からだから定位置に行っておかないと。』

 玄武に言われ、リッカはそれもそうだと組み合わせ表を後にした。まだまだぞろぞろと他のテイマーらしき生徒たちが覗き見ている。いろいろな従魔……魔獣がいるわけで、リッカはたくさんの魔獣に目移りしそうになるが、今は本番が目の前に控えている。心を鬼にしてその場を去っているように見せているが実際のところ従魔たちにはバレバレであった。そこでわざわざリッカに突っ込むような従魔たちではないが、目は雄弁に語っていた。またリッカは気を取られているぞ、と。
 戻ってきた会場はいつの間にか綺麗に二つに分けられており、リッカ達は第一試合であるので入り口に近い方で試合を行うらしい。隣の試合に気を取られてしまったり、隣の試合の攻撃が飛んでくるのを防ぐための壁が土魔法か何かでできているようで隣の様子は確認できないが、もうすでに隣にも生徒がいる気配はした。

 「これ、よくできてるねぇ……。」
 『さっきまで何もなかったのにもう仕切られてるなんて中々やるね。それもこんな大規模。』
 『人間がやっているのであれば素晴らしいですが、おそらくこれは同胞の仕業ですね。』
 「同胞……?あっ!二号のこと??同胞って言うと神獣ってことだもんね?だと、カガチさんの二号くらいしかわかんないけど……土魔法が得意なの?」
 『まあ、カガチだし、得意でもおかしくはないかな。』

 幼体とは言え神獣であることに違いはない。可愛らしいその姿からは想像できないほどの大仕事にリッカは関心の声を上げた。
 束の間、ここ最近ずっと聞いてきた声が、リッカの耳に届く。

 「よう、まさかここで当たるとはなぁ?」
 「……。」
 「無視するなよ!俺が話しているだろうがぁ!!」
 「……いちいち叫ばないとしゃべれないの?耳が捥げるくらいうるさいからやめてくれる?」
 「大口を叩くのも今日までだ!今日こそは俺が勝ってお前の膝をつかせてやる!!!」
 「できるのならやってみればいいんじゃない?」

 売り言葉に買い言葉。まさにそんな表現が適格と言わんばかりのやりとりに周りのボルテージも上がっていく。リッカが連れている従魔が封印状態の神獣たちと小さくなったフェリということ、そしてリッカの容姿から主に女子生徒によって不満がルーベンへ投げつけられているが、そんなのは知ったこっちゃないと全て無視をしている。以前あれだけ突進牛ラッシュキャトルにぼこぼこにされたにも関わらずリッカにこんな風に突っかかれるあたり、本当にメンタルが強い。
 開始5分を切り、お互いに黙り込んだ。互いににらみ合っている状態だが、ルーベンが連れている従魔はどうにもやりたがっていないように見えた。

 「ねえ、あの子……。」
 『はい。本来であればあの魔獣は戦闘に向かないタイプですからね。嫌がっていても不思議ではありません。』
 「あいつ……なのに選抜戦に出ようとしてるの?」
 『何を思って参加しているかは分からないけど、あの子がかわいそう……ねえ、まま。』
 「ん、これは少し、許せないね。……できるだけあの子に手は出さずにルーベンを場外に出せればいいんだけど。」

 それが魔獣を傷つけず、且つ勝利を手に入れられる方法になるだろう。こそこそとリッカと従魔たちは作戦会議をし、ルーベンらを見据える。にやりと自身に満ちた笑みを浮かべているのがムカつくが、自分から声をかけるのは絶対に嫌だ。じろりと睨み返し、開始の合図を待つ。ちなみに作戦会儀をしていたリッカ達はリッカ達で自分たちなりに真面目にやっていたのだが、はたから見るとただただ小さい従魔とこそこそ話をする可愛らしい男の子、という風にしか見えなかったので、周りからは微笑ましく思われているだけに終わっていた。それがリッカに伝わることはないが。

 「それでは!これより、テイマー科の第一試合、第二試合を開始する!」

 カガチのスタートの合図とともにルーベンはリッカの方に突っ込んでくる。それをもろともせずにリッカは魔法を唱えた。そう、《標準チェック》の魔法を。
 動きが遅くなったルーベンは何とか魔法から逃れようともがくがリッカの魔法は中々外れることが無い。従魔に指示を出そうにも、肝心な従魔は委縮してしまっているのか、震えているばかりだ。ルーベンはどうすることもできずにそのままリッカの《水球ウォーターボール》によって場外へと飛ばされてしまうのだった。あっけない決着。誰が予想しただろうか。

 まさか、このか弱そうな男の子が従魔の力すら借りずに初戦を突破してしまうとは。

 「……第一試合、決着!勝者リッカ・トウドウ!」

 唱えられた勝利宣言に、リッカは満足そうに息をついた。早々の決着にどよめきがやまない。ちらりと見えたタイチはしょうがないなと言わんばかりに苦笑いをしていた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

処理中です...