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第三章 アカデミー別対抗戦 準備編
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しおりを挟む「まず個人戦の説明なんだが、知っての通り一対一の対戦方式となる。」
他の科は大体が相手を戦闘不能にすることで勝敗が決まるが、テイマー科はさらに従魔の戦闘不能によっても決着がつくこととなる。
戦闘不能には主に二種類あり、自分で張った防壁が消え去るか、続行不可能になることだ。場外に出されることでも負けが決まる。本選にもなるとまたルールが変わってくるが、予選は何処も同じようなものだ。大怪我を負わないようにとの配慮のもとこの方式が決められている。
そもそも防壁は相手の攻撃が自分の張った防壁を上回ることで消えてしまう性質を持つ。その時点で防壁が消える=相手の魔力が自分を上回っているということになるので、勝敗の付け方としては間違っていない。魔力量に差があったり、防壁と攻撃に差がありすぎたりすると、防壁が消える瞬間に怪我を負ってしまうことにもなるが、それは仕方のないものだ。武力を用いた勝負事でどちらも無傷で済むなんて、そんな都合のいい勝負なんて存在しない。
だというのにリッカがなぜこんなにも気にするのか。それは偏にリッカと他の生徒の魔力の差がありすぎることも関係していた。もちろん従魔が神獣であるということもあるが。《防護結界》によって反射されるのは相手の攻撃の何倍もの威力。ということは必然的に相手の魔力を大きく上回っての攻撃となる。当たれば防壁が消えるというのももちろんだが、オーバーアタック状態になりかねないのである。普通の生徒同士の戦いとはまた違うのだ。
そして、リッカは知らないようだが選抜戦のルールには相手に致命傷を与えるような過剰攻撃の禁止、というものが含まれており、玄武の《防護結界》は過剰攻撃になりえる可能性があるのだ。過剰攻撃が確認された瞬間、いくら相手が戦闘不能に陥っていようとルールを守らなかった、つまり反則行為により攻撃手の退場となる。もちろん反則した側の負けである。ジルが玄武に《多重結界》を勧めたのはそう言うことも踏まえてのことだった。他にも科によっては近接武器の禁止や直接攻撃の禁止などがあったりもするが、魔法攻撃は基本的に禁止されてはいないらしい。
ちなみに本選では防壁の有無で決着がつくことはなくなるようだ。流石にまともに実力を測るには防壁の有無で勝敗を決めるわけにはいかないのだろう。確かに、旅などをしていて急に襲われたときに防壁を張っているかと言われれば、限りなく否に近いだろう。
リッカは先ほどまでの説明をまとめるかのように自分の疑問と共にジルへ問いかけた。
「んー、要は僕らテイマー科の勝利条件は相手の従魔を戦闘不能にするか、相手自身を戦闘不能、または場外に出すことで勝つことができるってことですか?あれ?従魔が場外に出たときはどうなるんですか?」
「従魔が場外に出ることで戦闘不能になることはない。空を飛ぶ従魔もいるのでな。そこに決まりは設けてはおらぬ。」
「確かにそっか……じゃあ従魔を戦闘不能にするには攻撃あるのみってことですね。気絶させるしかないのか……。」
「従魔を戦闘不能にするにはそれしかないな。まあ、個人戦でリッカ君が出場するテイマー科の概要はこれくらいだ。あとはチーム戦の方だな。」
そう言うとジルは続けてチーム戦の説明をし始めた。
前にも言った通りチーム戦に予選は存在せず、アカデミーに所属しているパーティの中で依頼達成成績の高いパーティの上から5組が半強制的に出ることとなる。拒否もできるが成績にも大きく関係してくるので参加を拒否することは滅多にないだろう。
それはともかくとして、チーム戦はパーティ同士の戦闘となる。特に決まりはなく勝敗がつく方法も個人戦より分かりやすい。
本選のみのチーム戦は防壁が消えたら、などとぬるいルールは設けてない。相手全員が戦闘不能になれば勝利となる。ここで言う戦闘不能とは、戦闘の続行が不可能であるということを指すので、防壁が消えたところで決着はつかない。そしてこれは個人戦の本戦にも適応される。これが個人戦の予選とのルールの違いだ。本選は個人戦もチーム戦もリアルな駆け引きが求められるのだ。
その代わり、致命傷を与えるようなオーバーアタック、過剰攻撃は個人戦予選と同じように個人戦本選もチーム戦も禁止されているが。
いかに相手に致命傷を与えないような攻撃でダウンを取るか、そんなテクニックも本選では求められる。
「へぇ、本選は気にしなくていいんだね。」
「過剰攻撃はダメだがな。しかし、ノアたち三人の実力であればトップを取ることも容易いだろう。そもそも何者の攻撃も通さないような防壁を張る神獣様がついているのだから。」
「確かにそれは負けなしだ。ちなみにチーム戦で一番を取ると何かあったりするのかな?いつも参加してなかったし、その辺ってあんまり知らないんだよね。」
「ああ、あるぞ。毎年お決まりなんだがな、チーム戦でトップを取ったパーティのいるアカデミーはその一年いろいろな依頼書を優遇してもらえたり、優先的に依頼を回してくれたりしてくれるんだ。後、トップを取ったパーティは一年間タダで宿を取れたりとかいろいろあるらしいぞ。」
その辺の詳しい説明は本選が開かれるとき、開会式の時に行われるそうだ。アカデミーに齎される恩恵は大体一緒らしいが、トップを取ったパーティに齎されるものはいろいろと種類があるらしい。大体今そのパーティが求めているものをくれるらしいが、真相は分からない。しかし、悪いものでは決してないということは確かだ。数あるアカデミー全ての頂点に立つということなので、当たり前と言えば当たり前だが。
個人戦のトップに関しても同じだ。詳しくは知らされていないが、カガチが言っていたようにテイマー科は例の従魔専用のバフもりもり伸縮自在な首輪と“何か”だ。首輪一つに関してもリッカにとってフェリの誤射防止がない今、魅力的に感じるものだった。正直、欲しい。半年経ってもフェリに専用の首輪がないのはフェリ自身の欲しいと思えるような首輪が見つからないというのもあったので、これを機に是非手に入れておきたい。
「んー、これは頑張って一番取りたくなるねぇ……。」
「あー、テイマー科の個人戦一位はバフがたくさんついた従魔専用の首輪だったか?」
「うん。しかも伸縮自在。それとプラス何かもらえるんだったら僕頑張るかも。」
「ふむ、テイマー科はそうなんだね。魔法使い科は聞いたことないなぁ……まあ、僕は今年も本選まではいかないけど。」
「まあそれはノアの自由で良いんじゃないかな?ノアは別に卒業が決まってるんだし。」
一位の景品の話題に花を咲かせていたところで、ジルが会話に割って入る。どうやらまだ話は終わっていないらしい。苦笑いしながら説明を続けるジルに全員が口を噤む。
「今年の本選の開催地はヤマトのシークであるんだが、すでにチーム戦で参加することになっているお前たちはしっかりと遠征の準備をしておくようにな。まあ、まだ先の話だが。」
「え、いつも場所違うんですか?」
「違うね。僕は参戦したことないけど、去年はアンジアの王都のところであってたかな。その前はロアの王都だったけど。」
「へぇ……じゃあ僕らにとっては里帰りみたいなものだね。故郷はシークじゃないけど。あっ、ついでにフィラノに寄れたりしないかな?」
「まあ、時間が許すのであればいいのではないか?何かあるのか?」
「久々にこーちゃんに会いたいんですよね。半年も顔をあわせないことなんて今までに一度もなかったので。」
さらっと言われたそれにたらりと冷や汗を垂らす。何故ならノアもジルも知っているのだ。リッカの言うこーちゃんが一体誰のことを指しているのか。
龍種の中でも神獣の祖である黄龍は人々から奉られている。それこそ主にフィラノに滞在しているがヤマトの守り神なのだ。他の龍種とはわけが違う。ちょっと友達に会いに行くと言わんばかりのテンションで言われたそれに、ノアもジルも大きく肩を落とすことしかできなかった。
「それくらい、なんとしてでも時間をとるさ。」
何せ、黄龍様の機嫌を損ねたくないから。
とは続けなかったが、他の国とは言え、国の守り神の寵愛を受けるリッカがその守り神に会いに行きたいと言っているのに、叶えない訳にはいかないのである。森人族であるから余計に。
まあ、黄龍はそれくらいのことで機嫌を損ねるようなことはないのだが。
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