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第三章 アカデミー別対抗戦 準備編
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しおりを挟む教室を後にして向かったのは学長室だ。アカデミー別対抗戦のことも聞きたかったが、もともとアカデミー長であるジルに呼び出されていたからである。
内容は聞いていないが、リッカ的に予想はできている。十中八九、一番最初の課外授業で手に入れた飛竜の鱗で何か加工してくれとジルに頼んでおいたものができたのだろう。他に何かあるとも思えない。ノアに預けるという話だったが気が変わったのか、何か話のついでか。話も、唯一あるとするならばアカデミー別対抗戦のことだろうと考える。ノアの姿も全然見当たらないが、おそらくジルと一緒にいるのだろう。
「しかし、アカデミー別対抗戦か……。」
「何?タイチは興味あるの?」
「いや、興味があるというか、純粋に他のアカデミーの生徒とかの実力は気になるな。」
「あはっ、タイチらしいね。……でも他の地方の従魔……魔獣は気になるね。」
「リッカもぶれないな。まあそっちも気にならないわけではないが……。」
リッカは、どこまでも魔獣一筋なのである。そうこう話しているうちに学長室にたどり着きノックをしてみるも返事はない。どういうことだとそろりと扉から部屋を覗き見ると、やはり中には誰もいなかった。けれど、気配はある。
学長室の中は二重構造になっており、手前の部屋は執務室と言っては何だがアカデミー長が座って書類作業をするようなデスクがあり、主にここで訪問者を迎え入れる。その奥が応接室のようになっており、長く話をするときや、大事な客と話をしたりするときはこちらを使ったりする。リッカ達が主に使っているのは奥の部屋だ。報告の時は手前の方の部屋だったが。
そのままずかずかと部屋に入り(すでに遠慮なんてものは無い)奥に続く部屋の扉をノックすると、案の定二人分の声が帰ってきた。というか、リッカ達がこちらの扉をノックしてくると分かっていて、待機していたようにも思える。その返事にリッカは小さくため息をつき、扉を開けた。
「やあ。二人とも。」
「待っていたよ、リッカ君タイチ君。」
「……やあ、じゃないでしょ。全くもう。割と探してたんだけど?」
「……そんなに探してもいなかったくせに。」
「うるさいよタイチ。……で、僕らを呼び出したのって何なんです?ジルさん。」
しびれを切らしたようにリッカがそう言えば、ジルは苦笑いをしながら着席を促す。リッカ達が椅子に座ったところでジルは手元に置いてあった小さな木箱をリッカへ差し出した。何の箱か、察しはつく。何故なら、その箱の中から覚えのある気配がしているからだ。自身の鱗をリッカに押し付け……渡してくれた飛竜の気配だ。
箱に手をかけジルを覗き見ると、開けてくれと言わんばかりに頷かれる。小さく息をつきゆっくりと箱を開けるとそこには飛竜の鱗を中心に細かく意匠の凝らされたブレスレットがちょこんと入っていた。
「……え、すごい。」
『これは……なかなかのものですね。』
「こんなの人の手で作れるんだな……。」
『すごいね、これほどのは中々見ないと思うけれど。流石というべきかな?』
「神獣様に褒められるとは何よりもうれしいな。どうだい、気に入ってくれたかね?」
ジルの問いかけにリッカはもちろんと大きく首を縦に振った。同時に付けていいかとジルへ聞けば、それはリッカ君の物だからと勧めてくれる。腕に付けたそれはよく馴染んで、リッカによく似合っていた。
「良く似合ってるよ、リッカくん。」
「ありがと。っていうか、ノアは知ってたの?これ……。」
「たまにやってるところを見てたからね。」
「そっか……。」
ノアの答えになんとも言えない表情で返事を返し、思い出す。そう言えば用事はこれだけではないのだと。確かに呼ばれたのはジルだが、リッカ達もまたノアを探していたのだ。アカデミー別対抗戦のことを詳しく聞きたくて、探していた。はっとしてタイチを見ると、タイチも同調するようにこくりと頷いている。
そんな二人の様子にノアは首を傾げているが、何故そんな様子なのかちっとも気づいてはいないようだ。
「なに?」
「……今日、アカデミー別対抗戦の説明を受けたんだけど。」
「あー、もうその時期だもんね。で、どうしたのかな?」
「僕らのパーティはチーム戦にほぼ強制参加なんだって。依頼達成の成績が今一位らしくて。」
「そう言えばそうだったかも。」
「かもって……ノアは興味ないのか?」
タイチの問いかけにノアは首を竦める。把握はしていたが放置していたということだろう。ジルに視線をやると、しょうがないなと言わんばかりの表情しかしていない。以前からこの調子だったのだ。これは何を聞いても望む答えは返ってこなそうだと察してしまう。
とりあえずリッカは、一番気になっていたことだけを聞くことにした。
「カガチさんからノアは個人戦では手を抜いてたって聞いたけど、なんで?ノアの実力だったら一番も取れるでしょ?」
「そこまで知ってるの?」
「今日説明があったんだよ。個人戦の出場の有無も聞かれた。」
「あー、そう言うことか……まあ、手を抜いていたいうか、抜かざるをえなかったって感じかな。」
「抜かざるをえなかった……?」
そこから語られた真意に、リッカもタイチもなるほど、と納得するしかなかったのだった。
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