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第三章 アカデミー別対抗戦 準備編
呼び出し
しおりを挟む初めての実践授業から早半年。アカデミーでの生活にも慣れて課外授業の時はクラスに参加し、それ以外はノアと共に依頼を消化するという行動にも余裕をもって(割と最初から余裕はあったようにも思えるが)取り組めるようになったころ。リッカとタイチは課外授業もないのに珍しく三年のAクラス……自分の教室に呼び出されていた。
呼び出し人はもちろん課外授業担当であり、実はAクラス担当の教師だったカガチだ。これが生徒からの呼び出しであるなら人にもよるがリッカは応じない。碌な思い出がないからである。ちなみにカガチが担当教師だったことはつい最近知った。
面倒くさい、疲れた、などと愚痴を漏らしながら(主にリッカだけである)たどり着いた教室はなんだか浮足立っているようで、騒がしい。後ろの方の扉を静かに開けてこっそり入ろうとしたのだが、惜しくもすぐにばれてしまい注目を浴びることとなってしまった。
「リッカ!この間の課外授業ぶりだな!」
「ベル、この間ぶり。」
「私も、いる。」
「リリーもね。」
「……なあ、なんだか今日は全体的にざわついてないか?何かあるのか?」
リッカがベル、リリーとの挨拶を済ませている間、タイチは不思議なほど浮ついたクラスの連中に疑問を覚えやはり気になる、と言わんばかりにベルとリリーへ尋ねた。確かにそれはリッカも思っていたことだ。だからこそいつもよりもテンションが高い生徒たちだったがために絡まれたら面倒だと静かに教室に入ろうとしたのだ。バレてしまったが。
三年次が始まってもう半年も経てば最初の課外授業で従魔を得られなかった生徒も大なり小なりそれぞれが従魔を連れている。入学した当初、まだ人間しかいなかった教室はスカスカだったのだ。課外授業だけに参加していたリッカとタイチは入学式以来教室に寄り付かなかったのでここまで賑やかになっているとは思っていなかっただけに、ざわついているこの状態は余計に謎だ。
ベルもリリーもタイチの疑問を聞き、そう言えばと何かを思い出したかのように声を上げた。
「そっか、リッカとタイチは飛び級だから、知らない?」
「ふむ、アカデミー自体が初めてだものな。知らなくても不思議はないね。」
それは遠回しにアカデミーに所属している生徒にとって馴染み深いものがこの時期にあると言っているようなものだった。あまり興味のなかったノアもタイチも大まかなことしか調べていないためアカデミーである行事には明るくない。神獣たちもフェリもウルもローリアももちろん、何も知らない。
含みのある言い方にリッカは首を傾げた。
「ん?何かあるの?」
「ああ、アカデミーで開催される行事の中で最も注目度の高いものがね。多分、君たち二人も無関係ではいられないものがるよ。」
「無関係ではいられない……?それは、最近鍛錬場で鍛錬している人が増えて来てることと関係があるのか?」
「そこまで気づいているなら話は早い。……各国に存在するアカデミーが参加するアカデミー別対抗戦が一ヶ月後に開催される。だから、ざわついてる。」
「へぇ……そんなのがあるんだ。それは知らなかったなぁ……。」
「対抗戦ってことは、別のアカデミーと何かしらで競うということか?」
「その認識で構わないよ。リッカ達は今日カガチ先生から呼ばれたんだろう?その辺の説明をすることになっているんだろうから、詳しくはカガチ先生が教えてくれると思うよ。」
ベルがそう言ったのと同タイミングで教室の前方の扉が開いた。もちろん、と言っては何だが教室に入ってきたのはカガチだった。カガチの姿を見た途端に何グループかで固まっていた生徒たちは各自早々と着席する。リッカ達もそれに習い、着席するとふいにカガチと目が合った。
「ちゃんと来たな、リッカ。それにタイチも。」
「カガチさんが呼んだんでしょー?早く説明して。」
「はいはい、そう急かすなって。」
ニヤニヤと笑うカガチにリッカがそう返すと、カガチは面白くないと言わんばかりに肩を大げさに落としため息をついた。むしろため息をつきたいのはこっちだ。しかしそれを口に出すと終わらなくなってしまうので黙っておく。カガチはそんなリッカを気にした様子もなく、切り替えるように口を開いた。
「さて、今年もこの時期がやってきた。そう、お前らが浮足立ってる通り、アカデミー別対抗戦の時期だ。お前たちが去年と違うのは今年から参加資格を持っているということなんだが……とりあえず初めてのやつもいるし対抗戦の説明をしよう。」
そう言ってカガチが説明したのはリッカとタイチがとても気になってたアカデミー別対抗戦の詳細だった。
曰く、簡単に言うと各アカデミーで代表者を決めその代表者同士で戦い、アカデミーの頂点を決めるらしい。学科別の個人戦と混合のチーム戦があり、学科別の個人戦は学科ごとに分かれており代表者は各学科から3人ずつ選ばれるようだ。代表者の選別は本選の2週間前に予選という形で各アカデミーで行われている。逆にチーム戦の方は既にアカデミー内に存在するパーティの内、依頼達成の成績が一番いいパーティの上から五組が選抜されるらしい。これには拒否権もあるが、だいたいは強制参加とも言える。
個人戦の方はアカデミーごとに違うが、ここクートベルアカデミーは1,2年はまず参加できないことになっている。まだ身体も出来上がっていないし、テイマー科にしても従魔がいないからだ。そして、4年から上はよっぽどの理由がない限り絶対に予選に参加しなければならない。座学がすべて満了しており、すでに依頼消化の実践のみを行っているというのが理由の一つらしい。しかし、3年だけは別で、参加してもしなくてもどちらでもよいことになっているそうだ。というのも、ある程度身体もできており、テイマー科の生徒にも従魔がいるからだろう。
自信のあるものはここで試すもよし、他の生徒の戦い方を見て学もよし、ということだ。これが、カガチが今年から参加資格を持っているといった意味である。
「ってなわけなんだが、理解できたか?」
「なるほど……それって一番になったら何かあるの?」
「まあ、年によって変わるんだが、だいたい似たり寄ったりだな。ちなみにテイマー科だと今年は従魔専用のバフがふんだんにつけられた伸縮可能の首輪がもらえるって聞いたぞ。他にも何かあるみたいだが、詳しくは知らされていない。」
「へぇ……結構いいね。」
「チーム戦の方は……お前らは多分強制参加だぞ。ノアのとこはぶっちぎりで一位だしな。」
「……ほんとに?」
「ああ。」
ベルもリッカ達のパーティが成績一位であるのを知っていたため無関係ではないと言ったのだろう。依頼達成のポイント上位パーティは公表されることになっている。無論、リッカ達はそこまで興味がなかったので知らなかったのだが。
しかし、今日の今日までノアから何も言われなかったというのは気になる。ノアはもう6年で、対抗戦のメンバーがどうやって選ばれるのかも分かっていたはずだ。それに、ノアの実力は単独任務が認められるほどなので、言わずもがなでありリッカ達も知っている。個人戦にだって参加していたに違いないのに、何も教えてくれていなかったのだ。
「……ノアは参加してなかったの?」
「チーム戦はあくまでパーティなんだ。ノアは今まで一人でやっていたからな。チーム戦には参加していなかったぞ。個人戦は適度に手を抜いていたようで本選には出ていなかったな。」
「ふーん……。」
何か理由でもあるのだろうが、本人から聞かないことには何も分からない。考え込むリッカ達に向かってカガチは声をかける。
「とりあえず二週間後にある個人戦の予選に参加するかしないかだけを決めてもらいたい。」
「それって今決めなければいけいないですか?」
「いや。一週間後までに決めてくれればい。」
「分かりました。」
カガチの問いにはタイチが答え、とりあえず説明はおおむね終了だとリッカとタイチは教室を後にすることとなった。
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