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授業編

鱗の加工

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 「あ、そうだ。」
 
 いったん会話が途切れそれぞれが黙り込んでしまったのだが、ふと思い出したようにリッカは言葉を発した。そのままごそごそと横に避けていたいつも身に着けているウエストバッグを漁っている。その行動を不思議に思ったタイチが、バッグを覗き込みながらリッカへ声をかけた。

 「何やってるんだ?」
 「んー……ちょっとね、……あ、あった。」

 巾着をバッグから取り出し、その巾着を開けて逆さまにし手のひらの上にぽろぽろと落としたのは二枚の青銀色の鱗だった。手のひらの上に鎮座するそれをまじまじと見た彼らはすぐに正体が分かったのだろう。ノアとジルは冷や汗を垂らし、ごくりと喉を鳴らす。タイチもその鱗から発されるピリピリとした妙なプレッシャーに嫌なものを感じたのだろう。リッカから少し離れた。まるで近づくなとでも言わんそれから大きな何かの気配をまとっている。
 三人の様子にリッカは苦笑いし、巾着に戻した。

 「分からなくもないけど、タイチのその反応は傷つくなぁ~。」
 「しょ、しょうがないだろ、それ……すごい嫌な気配がする……。プレッシャーがきつい。」
 「これ、カイくんの鱗。嫌なものではないから安心してよ。」
 「やっぱりか……。」
 「それにしても不思議だよね、あれだけ大きいのに鱗は小さいなんて。」

 そう、今リッカの耳を飾っている黄龍の鱗もそうだが、手元にある飛竜スカイドラゴンの鱗も人間がアクセサリーとして使用するにちょうどいい大きさをしていた。しかしどちらの龍種も目に見える鱗はとても大きく、そんな身体のどこからこんなに小さい鱗が出てくるのだとリッカは不思議に思っていたのである。
 
 「タイチ君の従魔の天狼シリウスは身体の大きさを変えられるだろう?神獣様たちもそうだ。彼らが身体の大きさを自由に変えられるように、龍種も身体の大きさを変えられるんだ。それと同じ原理で鱗も予めちょうどいいサイズにして渡しているのさ。」
 「へぇ~……そうだったんですね……。」
 「まあ、とはいってもそれは鱗に込められた魔力が続く限りのことだから、何もせずに持っていればいずれ元の大きさに戻ってしまうんだ。」
 「え。」
 「それを阻止するために加工するときにプロテクトをかけるんだがな。もっと簡単に言うならば纏っている魔力を安定させてその上からコーティングするんだが……これがまた、難しい。精密な魔力操作能力と細かい作業がいるから滅多にできる奴はいないんだ。」
 「じゃあ、この処理ができるっていうのは、それだけですごいってことなんですか?」

 ジルの説明にさらにリッカは問いを投げかける。まさかそんなにすごい処理がなされているとは思わなかったのだ。ジルはそうだと言わんばかりに大きく頷く。クロスの技術は本物だったのである。デザイン性ばかり目に入ったが実際は相当高度な技術が使われていたらしい。
 タイチもリッカが身に着けている耳飾りを信じられないものを見るような目で見ている。

 「……じゃあ、見つかんないかなぁ?」
 「何か探していたの?」
 「いやあね、この鱗を加工してくれる技術師を探しているんだけど……ノア、何か知らない?」
 「……なんで僕に聞くのかな?」
 「カガチさんがね、ノアなら鱗のことを黙っててくれる腕のいい技術師くらい知ってるんじゃないかって。」
 
 リッカの答えにノアは分かりやすく肩を落とした。

 「あの人、僕のこと何でも屋か何かと勘違いしてるのかな……。」
 「まあでも、ノアっていろいろ知ってそうだもん。」
 「その評価は喜ぶべきなのかな……。」
 「どうとでも~……で、ノアに心当たりはあるの?」
 「……うーん、そうだなあ……あるには、あるよ。」

 顎に手を当てながら考えを巡らせるノアに、リッカはお、と期待を込めた眼差しを向ける。まさかそんなに難しいものだとは思っていなかったので若干諦めかけていたのだが、ノアのこの返答である。期待も深まるものだ。
 早く教えてくれとらしくもなくそわそわとしていると、ノアはそんなリッカに苦笑いを向け口を開いた。

 「僕の知ってる限りじゃ、あなただけだよ。そんな高等技術ができるのは。」
 「……俺、か?」
 「そうだよ。ジルさんならできるはず。それに、やったことあるよね?」
 「あるにはあるが……。」
 「じゃあ適任じゃないの。」
 
 そう言ったノアはジルをじっと見つめている。その様子にあまりにも都合がよすぎると口を挟んだのが依頼主と言っても過言ではないリッカだった。まさか自分の知り合いに二人も腕のいい技術師がいるとは思えなかったのだ。クロスの過去も知らないし、ジルがアカデミー長になるまでに何をしていたかも知らないがどうしても疑ってしまうのである。

 「ちょっ……流石に信じれないよ!?クロスまではへぇって感じだったけど……あまりにも都合がよすぎない!?」
 「……信じきれないのも分かる。が、ちょっと待ってくれ……今、クロスと言ったか?」
 「言いましたけど……。」
 「クロス……クロス・ヴァレリーか?」
 「あー……そうだったかもしれない。あんまりファミリーネームは気にしたことなかったんですけど。」
 「やはりか……。」
 「どうかしたんですか?」

 首を傾げるリッカと納得がいったようにうんうんと頷いているジルは対極の反応と言ってもいい。どういうことか説明しろと問い詰めると、ジルは笑いながらその真相を教えてくれた。


 「私とクロスは簡単に言うなら師弟という関係なのだよ。」


 まさかの展開に、リッカは開いた口がふさがらなかった。ついでにタイチも。

 
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