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授業編
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しおりを挟む「ど、どういうことなんだ!どうして獰猛であるはずの突進牛を落ち着かせることが出来るんだい!?」
混乱したように言うベルはがっくんがっくんとリッカを揺さぶり、事の真偽を問い詰めようとしているようだがそんなことをしてしまえば揺さぶられすぎて応えられるはずもない。とりあえず揺さぶるのをやめてほしいのだが静止の声も出せないほどだった。目を回しかけているリッカに気づいたタイチが慌てたようにベルを止める。
「べ、ベル!リッカが目を回すから揺さぶるのはやめてやってくれ!」
「!!……す、すまない……動揺してしまって……」
「うっ……う、ううん……だいじょうぶ。」
『回復しましょうか?』
「だいじょうぶ……すーちゃんありがと。」
耳元で聞こえた朱雀の声に小さく返したリッカはふう、と落ち着くように息をついた。揺さぶられても落ちることのなかった朱雀はさすがである。ちなみに白虎やフェリは足元、玄武はカバンの中にいたから別として、同じように肩に乗っていた青龍は驚いたのか空中をパタパタと浮いていた。
『びっくりしたー……ベルおっかねぇー……』
『根性が足りませんよ、青龍。いついかなる時もお母様から離れてはいけないのですから。』
『朱雀はお母さん第一だからね……』
『朱雀の言う通り根性足りてないよ!青龍!』
『地面に足つけてる白虎に言われたくねー!』
「……っこらこら、みんな仲良くだよ?」
ガウガウぴぃぴぃと言い合う神獣たちはその言葉が聞こえないものにとってはただのじゃれ合いに見えるのだろうが実際はそうではない。一戦勃発しそうな雰囲気にリッカの声で嗜めが入り一旦収まったのだ。聞こえていたタイチもほっと胸をなでおろしている。
「あーえっと、僕が突進牛を落ち着かせられた理由だっけ?」
「あ、ああ……そもそも突進牛は人に懐かない、人の言葉を聞かない獰猛な魔獣で有名なんだぞ。まさかリッカがああも簡単に退けられるとは思わなかったよ……」
「まあ魔法使ってるし、そもそも僕の魔力って魔獣に好かれるみたいだから……」
「魔法!?何か魔法を行使してたのか……いや、魔法陣があったから魔法を使ったんだろうとは思っていたが……。それに魔獣に好かれる魔力?私は聞いたことないよ……。」
「僕がこの子……フェリを契約もしてないのにつれてこれたのが何よりの証拠でしょ?普通だったら無理だよ。野生の魔獣には触れないって言われてるじゃない。でも僕は違う。幼いころから野生の魔獣とは触れ合ってたしね。」
リッカの言葉をいまいち理解できないのかベルは半信半疑と言った表情をしている。しかし今ここで魔獣に好かれる魔力と言うのは証明できないし、何より時間もない。ベルの言葉が正しいのであれば今こちらに突進牛の群れが迫ってきているのである。もたもたと話している猶予はない。
「それよりだよ。ベル、ベルの言う突進牛の群れは報告段階でどの辺にいたの?」
「はっすっかり忘れていた!そうだ群れだよ!推定ではここから十㎞程北西に進んだ場所だ。それが報告の数分前だから……もう五㎞を切ってるかもしれない!」
「あちゃ~……これは、どうしようか……」
「カガチ先生はどうしているんだ?今その群れの侵攻をどうにかしようとしているんだろ?」
「……おそらく、生徒の避難を優先させているだろうからまだ何もできていないと思う。」
「……リッカ、どう思う?」
深刻な表情で告げられたそれに流石のリッカも表情から笑みが消えた。カガチが何か対策を取っていてくれればと思ったのだが、確かに生徒の避難と対策は一緒にできない。ベルがこちらに来たのも彼女が何らかの魔法に優れていて、状況を知らせるには最適だったからだろう。そう考えれば説明がつく。
リッカは一つ大きなため息をつくと、ベルの言った北西方向に歩き始めた。
「おいリッカ!?またキミは何も言わずに……何をする気なんだい!?」
ベルの静止の声も聴かずにずんずん進んでいく。タイチはリッカの行動に何かを察したのか、追いかけようとするベルを止め、リッカへ言葉を投げかけた。
「俺は、何をすればいい?」
その言葉にぴたりと動きを止め、リッカはちらりとタイチの方を振り返る。タイチはまるで自分を頼ってくれと言わんばかりの表情をしていて、リッカは思わずと言ったように声を出して笑ってしまった。
「おい、俺は真剣に聞いているんだが?」
「あははっ……いやいや、ごめんね?そうだなぁ……タイチは視線を逸らしておいてくれる?」
「!……了解した。」
リッカの言葉の意図を察したのだろう。タイチはベルをウルに任せ一目散にかけて行った。目指しているのは多分、カガチが誘導している生徒たちの避難先だ。
リッカはタイチたちが視界から消えたのを確認してフェリにまたがった。目的地は北西方向である。
「さ、よろしくねフェリ。……暴走軍団を鎮めに行くよ。そのために……すーちゃん、力を貸して。」
『!……私の出番と言うわけですね。任せてください、お母様。』
『広範囲の精神魔法なんて朱雀にしか使えないからねぇ』
『すーねぇすごいねぇ……』
「解札も念のため持ってきててよかった。僕じゃすーちゃんみたいにできないから任せてもいい?」
『もちろんですわ。』
朱雀を腕に抱き、他の神獣たちもフェリの背に乗せる。全員がフェリに乗ったのを確認すると、フェリは重さを感じさせない動きで空へと飛びあがった。
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