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授業編

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 ウルとフェリが頑張ってくれたおかげで目的地には十分とかからず到着することが出来た。しかも予想通りのことが起こっているようで、これは外れて欲しかったとリッカは心の中で一人思う。

 「あちゃー……やっぱりだよねぇ。」
 「あれはルーベン、だったか?」
 「そ、僕らに喧嘩を売ってきた張本人。忠告も聞かず身の程をわきまえないからこういうことになるんだよ。」
 「ああ、そういう事か。」

 そう、当たって欲しくなかったリッカの予想。それはまさに今話題に出てきたことそのものだった。恐らくリッカが大型の魔犬サイズの魔獣(フェリ)を連れて帰り、契約したことで無謀にも自分にも力ある魔獣や魔物との契約は可能であると勘違いし、あの大きな突進牛ラッシュキャトルにちょっかいを出したのだろう。よりにもよって突進牛ラッシュキャトルに。
 突進牛ラッシュキャトルは名前の通り、その大きい体で突進をして攻撃してくることからそう名付けられている。性格は獰猛で、人間のいうことなど滅多に聞きはしない厄介な魔獣である。だから誰も従魔になどしようとは思わないし、仮にできたとしても制御が難しい。そういうところからもルーベンは突進牛ラッシュキャトルを従魔にしようとしたのだろうがそう簡単に行くはずがないのだ。結果、突進牛ラッシュキャトルの怒りを買ったルーベンはああやって結界魔法で突進攻撃を防ぐことしか出来なくなっている。あれで魔力が切れればルーベンはその突進攻撃に無防備にも晒され、もろに攻撃をくらってしまうだろう。最悪命を失うとも言われている攻撃だ。ただで済むはずがない。

 「あれ、いつまで持つかなぁ。」
 「何がだ??」
 「魔力だよ、まーりょーく。切れた時がルーベンの最後だろうね。」
 「最後って……恐ろしいことを言うなよ。そうなる前にリッカが止めるんだろ?」
 「タイチが止めてくれてもいいんだよ?」
 「いや、俺がやったって意味ないんじゃないか?リッカに助けられるからこそ伸び切った鼻をぽっきり折れそうだし。」
 「……タイチ、性格わるぅー。」
 「なんとでも言えよ。俺だってルーベンにはムカついたし。」

 ふん、と吐き捨てるように言ったタイチにリッカは苦笑いしか無かった。そうこうしているうちにもルーベンが張っている結界魔法……恐らく中級魔法である《多重結界》は破られようとしている。現に一枚目はすでに割れてしまい、見る限りもう二枚しか結界は残っていないようであった。《多重結界》は術者の能力に合わせて限定的に何枚もの結界を繰り出す魔法であるため、予想外の方向からの攻撃には弱い。しかし、中級魔法とは言え使い手が上級者であれば何十枚も重ね掛けをするので滅多に破られることはないのだ。が、その《多重結界》を張っているのはまだ技術的にも精神的にも幼いルーベンである。結界も三枚が限度だったようで苦しそうな表情をしていた。

 「そろそろかな。」
 「周りの人らがかわいそうだからそろそろ助けてやってくれ。」
 「っていうかさ、カガチさんどこいるの?誰か呼びに行ってるんだよね?」 
 「あれじゃないのか、大声で呼んでてさらに魔物が怒ってるって言ってたからそっちを先に沈静化させてるとか。」
 「あー……そっちの問題もあったのか……」

 まるで面倒くさいと言わんばかりに告げられたそれにタイチは思わず笑いを零した。リッカの態度があからさますぎるのである。こそこそと木々の隙間から覗き見ていると不意に後ろから声をかけられた。

 「リッカ!それにタイチも!」
 「あれ、ベル……?リリーはどうしたの?」
 「カガチ先生と一緒だ!それより、二人ともここを離れないとまずいぞ!突進牛ラッシュキャトルの群れがこっちに向かって押し寄せてきてる!」
 「……はー、そう来たか。」
 「おい、この位置って挟まれてんじゃないか?」
 「挟まれてるよね。あーもー……しょうがないなぁ……」

 慌てたようなベルの言葉と面倒くさそうなリッカの態度はまさに正反対と言える。タイチもリッカよりだろう。リッカは誰にでもわかるようにため息をつくと、やりあっているルーベンの元へ足を進めた。フェリも神獣たちもそのリッカの後に続いている。

 「あ、おいリッカ!」
 「タイチはそこでベルのこと守っててね。僕ちょっとあっち先に片づけるから。」
 「お、おう……」 
 「タイチ!リッカが危険だ!止めないのかい!?」
 「まあ、リッカだし。それに心配ない……リッカなら大丈夫だ。」
 「けど!相手はあの突進牛ラッシュキャトルだよ!?どう考えても勝てっこない!」
 「いいから見てろって。」

 今にも飛び出していかんとするベルをタイチは落ち着かせるように抑えた。今ここでベルに出ていかれる方がリッカにとってマイナスになってしまう。タイチにグッチョブを出しつつリッカは突進牛ラッシュキャトルに《照準チェック》の魔法をかけた。途端に動きが鈍くなった突進牛ラッシュキャトルにルーベンは驚いているようで、急に消えた圧に尻もちをついていた。

 「あっ……」
 「ほら、早く逃げなよ。僕が引き受けたげるから。」
 「お、お前……!!!」
 「よそ見してる暇あるの?そんなにボロボロなのに。」
 「……くそがっ!!」

 ゆっくりだが突進牛ラッシュキャトルは動きを止めていない。ルーベンは悔しそうに隠れてみていたクラスメイトの方へ駆けて行った。流石にタイチたちの方へ向かうのは憚られたらしい。さて、とリッカは激昂している突進牛ラッシュキャトルと向かい合った。完全に我を失っているのか全くもって目が合わない。そのままリッカは小さな声で魔法を唱えた。

 「《鎮静カーム》……ちょっと落ち着こうね。」

 リッカの魔法を避けることもできずにくらった突進牛ラッシュキャトルはふらりとよろめくと気をしっかりと保つように首を振った。次に見えた瞳はしっかりとリッカを映している。その結果に満足するとリッカはするりと突進牛ラッシュキャトルの頭を撫でた。

 「落ち着いたかな?ごめんねビックリさせちゃって。もう大丈夫だから、住処に戻りな。」
 『……オマエ、イイニオイダ。』
 「そう?ありがと。」
 『ヤスンデ……イルトコロニ、アイツ……キタ。ジャマ、サレタ。……スマナイ。』
 「いいのいいの。それに関してはあっちが悪いから……キミは早く帰りな。」
 『オマエ、イイニンゲン。……マタアオウ。』

 くるりと踵を返した突進牛ラッシュキャトルは逃げていたルーベンに目もくれず、その場を去ってしまった。まさに、リッカよりも格下と思われているような態度と、リッカが獰猛であるはずの突進牛ラッシュキャトルを鎮めて住処に返したことで心がぽっきり折れたのかルーベンは肩を落として顔も伏せているようである。
    かわいそうだとはさすがに思わない。仕事を終えたとばかりにタイチの方へ行くと勢いのままにベルから肩をゆすられることとなった。

 
 
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