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授業編

異変

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 ウルとフェリの話もひと段落し、さあどうしたものかとリッカとタイチで話しているとフェリが何かに気づいたように鼻をひくりと鳴らし、首を傾げた。一緒にいたウルもフェリの様子に気づいたようで、一緒に首を傾げていて傍から見ると兄弟のようである。それにくすりと笑みを零すもどうやら問題は深刻なようで、困ったようにフェリたちが近寄ってきた。

 「どうしたの?」
 『んと、あのね、もりのようすがおかしいの……』
 「森の?どういうこと?」
 『樹木の精ドリアードたちがずっとこわがってる……もりがぴりぴりしてるって……』
 「ピリピリ……何か異変が起きてるってこと?」

 リッカが確認すように言えばフェリはそうだと言わんばかりに頷く。フェリは今までの住まい含め、森と馴染みが深い。それすなわち樹木の精ドリアードとの親和性が高くフェリが望めば森のことを事細かに教えてくれるのだ。流石のリッカもまだ精霊と言葉を交わすことはできないし、姿を見ることすら相手に許されなければ叶わない。そこのところを詳しく、とリッカがフェリに言うとフェリは樹木の精ドリアードたちに耳を傾けるように目を閉じた。
    神獣たちはそもそもども魔物魔獣とも意思の疎通ができるので関係ないが。

 『ざわめきが酷いなぁ……』
 『これは本当にどっかでなんかあってるなー』
 『樹木の精ドリアードたちがここまで怖がっているのなんて初めてだよ。』
 「そうなの?」
 『基本的に樹木の精ドリアードたちは森を守る存在なので、ちょっとやそっとでは慌てたりしませんからね。これほどの恐怖心……おそらく通常では起こりえないことが起こっていると思います。』

 朱雀の言葉にリッカはふむ、と考える。通常では起こりえないこと、今は課外授業で魔獣との初めての契約を結ぶために生徒たちがそこかしこを歩いているはずだ。もしかすると最悪の事態が起こってしまっているのかもしれないと少し気持ちが逸る。そうこうしているうちにフェンリルも樹木の精ドリアードたちから話を聞き終えたようで閉じていた目を開け、リッカに向き直った。その表情はまさに困惑という言葉がぴったりと合うような顔である。

 「どうだった?」
 『もりの、なんとうのほうで……にんげんがまものをおこらせたって。いま、なんにんかのにんげんが、かがちせんせいってさけびながらいどうしてるせいで、さらにほかのまものもおこりはじめたって。』
 「わーお……」
 『ど、どうしようりっか……』
 
 正直、その怒らせた人間と言うのも大方予想がつくし、こうなる未来も多少考えはした。しかしそこでリッカが出ていく意味はそれほどないし、カガチを探しているのであればいずれ解決はするだろう。だが、巻き込まれてしまう生徒たちにはベルやリリーがいるかもしれない。快く受け入れてくれたベルやリリーが怪我をしてしまうのはリッカとしても見過ごせない訳である。
 
 「うーん……行くしか、ないかぁ。」
 『しかしお母様、嫌な予感がいたします。何も行く必要はないのでは?』
 「もしそこにベルやリリーがいたら嫌でしょ?怪我しちゃうかもしれない。」
 『……確かに、あの者たちが怪我をするのは寝覚めが悪いです。悪い子たちではありませんでしたから。』
 「でしょ?それに、何かあったらみんなが守ってくれるでしょ。フェリもいるんだから。」
 『ままに傷一つつけさせないよ!』
 『りっかにも、にいたちにも、ねえにもけがはさせない!』
 「うんうん。ほら、だから大丈夫。ゲンくんの防護結界もあるしね。」

 白虎とフェンリルの様子に朱雀は小さく息をつき了承の意を唱えた。ぶっちゃけるとこれだけ強いメンバーがそろっているリッカに怪我をさせられるような魔物は居ないのであまり心配しなくてもいいとは思うのだが、そこは言わない約束である。話がまとまったわけで、タイチにも話を通そうとタイチの方を見るとどうやら会話は聞こえていたようで理解したと言わんばかりに頷いてくれた。

 「行くんだろ?」
 「うん。ごめんね、なんだか付き合せちゃうみたいになって。」
 「いや、俺も気になるから大丈夫だ。そら、ウルに乗って行くぞ。」
 「ん、って……どうしたの、フェリ?」

 いつものようにウルに本来の姿になってもらって二人乗って移動しようとしていたが、そんなリッカの服をフェリが引っ張ったようだ。どうしたのかと向き直ればなにやらうずうずとした表情をしていた。まるで自分にまかせてほしいとでも言わんばかりの……

 『ぼくもりっかをはこべるよ!』

 どうやら当たりらしい。確かにフェンリルのサイズは先にも述べたように大型の魔犬サイズで、大型の魔犬は体高160㎝程なので、アカデミー内や人前にいるウルと同じくらいのサイズである。なのでリッカを運ぶには何の問題もなく、むしろ余裕で運べる大きさだろう。先ほどタイチを乗せたウルの姿を見て感化されたのかもしれない。

 「……頼んでもいいの?」
 『もちろんだよ!』
 「じゃあお願いしようかな。それに、僕がフェリに運んでもらえればウルももう少し小さいサイズで済むし、森の中でも小回りが利きそうだしね。」
 『リッカ様をお願いしますね、フェリ様。』
 『まかせて、うる!』

 自信満々にそういうとフェリはリッカが背に乗りやすいように屈んでくれた。そこへ白虎を抱っこしてまたがると毛並みがふわふわとしていて中々に乗り心地がいい。フェリに大丈夫だと伝えるとフェリは心得たとばかりにゆっくり立ち上がった。安定感もよい。

 「さ、行こうか。」
 『フェリ様、先導をお願いできますか?』
 『うん!』

 こうして、樹木の精ドリアードたちの願いのもと、リッカとタイチは森の南東へ向かうこととなったのだった。



 

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