55 / 91
授業編
異変
しおりを挟むウルとフェリの話もひと段落し、さあどうしたものかとリッカとタイチで話しているとフェリが何かに気づいたように鼻をひくりと鳴らし、首を傾げた。一緒にいたウルもフェリの様子に気づいたようで、一緒に首を傾げていて傍から見ると兄弟のようである。それにくすりと笑みを零すもどうやら問題は深刻なようで、困ったようにフェリたちが近寄ってきた。
「どうしたの?」
『んと、あのね、もりのようすがおかしいの……』
「森の?どういうこと?」
『樹木の精たちがずっとこわがってる……もりがぴりぴりしてるって……』
「ピリピリ……何か異変が起きてるってこと?」
リッカが確認すように言えばフェリはそうだと言わんばかりに頷く。フェリは今までの住まい含め、森と馴染みが深い。それすなわち樹木の精との親和性が高くフェリが望めば森のことを事細かに教えてくれるのだ。流石のリッカもまだ精霊と言葉を交わすことはできないし、姿を見ることすら相手に許されなければ叶わない。そこのところを詳しく、とリッカがフェリに言うとフェリは樹木の精たちに耳を傾けるように目を閉じた。
神獣たちはそもそもども魔物魔獣とも意思の疎通ができるので関係ないが。
『ざわめきが酷いなぁ……』
『これは本当にどっかでなんかあってるなー』
『樹木の精たちがここまで怖がっているのなんて初めてだよ。』
「そうなの?」
『基本的に樹木の精たちは森を守る存在なので、ちょっとやそっとでは慌てたりしませんからね。これほどの恐怖心……おそらく通常では起こりえないことが起こっていると思います。』
朱雀の言葉にリッカはふむ、と考える。通常では起こりえないこと、今は課外授業で魔獣との初めての契約を結ぶために生徒たちがそこかしこを歩いているはずだ。もしかすると最悪の事態が起こってしまっているのかもしれないと少し気持ちが逸る。そうこうしているうちにフェンリルも樹木の精たちから話を聞き終えたようで閉じていた目を開け、リッカに向き直った。その表情はまさに困惑という言葉がぴったりと合うような顔である。
「どうだった?」
『もりの、なんとうのほうで……にんげんがまものをおこらせたって。いま、なんにんかのにんげんが、かがちせんせいってさけびながらいどうしてるせいで、さらにほかのまものもおこりはじめたって。』
「わーお……」
『ど、どうしようりっか……』
正直、その怒らせた人間と言うのも大方予想がつくし、こうなる未来も多少考えはした。しかしそこでリッカが出ていく意味はそれほどないし、カガチを探しているのであればいずれ解決はするだろう。だが、巻き込まれてしまう生徒たちにはベルやリリーがいるかもしれない。快く受け入れてくれたベルやリリーが怪我をしてしまうのはリッカとしても見過ごせない訳である。
「うーん……行くしか、ないかぁ。」
『しかしお母様、嫌な予感がいたします。何も行く必要はないのでは?』
「もしそこにベルやリリーがいたら嫌でしょ?怪我しちゃうかもしれない。」
『……確かに、あの者たちが怪我をするのは寝覚めが悪いです。悪い子たちではありませんでしたから。』
「でしょ?それに、何かあったらみんなが守ってくれるでしょ。フェリもいるんだから。」
『ままに傷一つつけさせないよ!』
『りっかにも、にいたちにも、ねえにもけがはさせない!』
「うんうん。ほら、だから大丈夫。ゲンくんの防護結界もあるしね。」
白虎とフェンリルの様子に朱雀は小さく息をつき了承の意を唱えた。ぶっちゃけるとこれだけ強いメンバーがそろっているリッカに怪我をさせられるような魔物は居ないのであまり心配しなくてもいいとは思うのだが、そこは言わない約束である。話がまとまったわけで、タイチにも話を通そうとタイチの方を見るとどうやら会話は聞こえていたようで理解したと言わんばかりに頷いてくれた。
「行くんだろ?」
「うん。ごめんね、なんだか付き合せちゃうみたいになって。」
「いや、俺も気になるから大丈夫だ。そら、ウルに乗って行くぞ。」
「ん、って……どうしたの、フェリ?」
いつものようにウルに本来の姿になってもらって二人乗って移動しようとしていたが、そんなリッカの服をフェリが引っ張ったようだ。どうしたのかと向き直ればなにやらうずうずとした表情をしていた。まるで自分にまかせてほしいとでも言わんばかりの……
『ぼくもりっかをはこべるよ!』
どうやら当たりらしい。確かにフェンリルのサイズは先にも述べたように大型の魔犬サイズで、大型の魔犬は体高160㎝程なので、アカデミー内や人前にいるウルと同じくらいのサイズである。なのでリッカを運ぶには何の問題もなく、むしろ余裕で運べる大きさだろう。先ほどタイチを乗せたウルの姿を見て感化されたのかもしれない。
「……頼んでもいいの?」
『もちろんだよ!』
「じゃあお願いしようかな。それに、僕がフェリに運んでもらえればウルももう少し小さいサイズで済むし、森の中でも小回りが利きそうだしね。」
『リッカ様をお願いしますね、フェリ様。』
『まかせて、うる!』
自信満々にそういうとフェリはリッカが背に乗りやすいように屈んでくれた。そこへ白虎を抱っこしてまたがると毛並みがふわふわとしていて中々に乗り心地がいい。フェリに大丈夫だと伝えるとフェリは心得たとばかりにゆっくり立ち上がった。安定感もよい。
「さ、行こうか。」
『フェリ様、先導をお願いできますか?』
『うん!』
こうして、樹木の精たちの願いのもと、リッカとタイチは森の南東へ向かうこととなったのだった。
0
お気に入りに追加
666
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる