上 下
49 / 91
授業編

課外授業

しおりを挟む


 昨日あれだけの不安を覚えていた課外授業だったが、ルーベンはリッカ達に突っかかってくることもなく穏やかに始まった。と言うのもその課外授業のある場所が場所だったため、リッカ達には馴染みがなく担当の教師であるカガチと共に集合場所に集まったからである。
 カガチの従魔である二号と戯れながら現れたリッカ達に突っかかろうにも、リッカ達と親しくしているだろうカガチを前に口を出すことができなかったとも言えるが。

 「よし、皆集まっているな。大体知っていると思うが今日の課外授業はテイマー科らしく、自分の従魔を見つけることだ。二年で凡その契約の陣は学んでいるだろうからいちいち説明はしないぞー?けどまあ、手本もなく最初から一人でやるのは不安だろうし……そうだなぁ、」

 カガチが声を上げ、その場に集まっていた三年のAクラスのメンバーが口を閉じ顔を上げる。リッカもカガチから少しだけ離れた場所で話を聞いていたのだが嫌な予感がし、顔を俯かせていた。もちろんタイチもどこか別の方向を見ている。にやりとしたカガチはリッカ達の方に近寄り、ぽんっと肩に手を置いた。

 「手本、頼むわ。」
 「……僕が?」
 「そう、お前が。四匹も従魔いるし、慣れてんだろ?」
 「そういう問題じゃないよ。……それに、多分陣違うと思うけど。」
 「ヤマト式のか?」
 「んーん、フィラノ式のやつ。」

 だから、契約のやり方も多少異なる、と。そうリッカは告げるのだがカガチはまあいいだろうとそのまま話を進めてしまった。実際のところ、大元の陣は変わっていないのだがヤマトはテイマーが多い国。従魔との繋がりを深くするための陣を独自に生み出したので他で使われるものとは異なる。さらにフィラノは特にその傾向が強く、ヤマト式とも異なる陣を生み出しているのだ。封印の呪とはまた違うフィラノ式は契約の時、魔力を余計に使う代わりに魔獣との意思の疎通がしやすくなるというもの。そういうこともあって、フィラノ式の陣は通常よりも複雑で難しいものとなっている。
 普通の陣での契約の場合、陣を用意して“我、汝との契約を望む者。”と告げれば相手がそれを了承していれば完了される。きちんとした文言が決まっている一般的なものと違ってフィラノ式は文言は決まっていない。その分魔力で補完している形だ。ちなみにタイチもフィラノ式のを使っている。

 「……まずは従魔になってくれる子を見つけないといけないんだけど。」
 「ああ。だから、とりあえずまずはお前らも相手を見つけることからしろ。どっちにしろ契約するには相手の了承がいるのは知っているだろう?リッカの契約の手本を見せてもらってからお前らもやるか。そうだ、リッカがきちんとできるのかって不安を覚える奴もいるだろうが、こいつ……タイチ含めこいつらは特例が効いていてこういう課外授業以外の座学は免除されているくらい実力はある。安心しとけ。」 
 「……はあ。ちなみにここまで言っちゃってる上で一応聞くけど拒否権は?」
 「ない。ま、ここいらで実力を示すのもアリだぜ?」
 「……分かったよ。」

 カガチの説明はある一人を指して言っているようだった。もちろんルーベンである。昨日のやり取りを知っているのか、カガチはルーベンが何か対抗して言ってくることを想定してそう説明したのだ。ちなみにこの説明のせいでリッカも逃げられなくなった。自分じゃなくてもタイチではだめなのか?と言う視線をカガチやタイチに投げかけてもそれぞれ目を逸らされるだけである。

 「じゃ、他に異論もないってことで、とりあえず相手を見つけてこい。くれぐれも興奮させるんじゃねぇぞ、自分の力を見誤るな。難易度の高い魔獣は今の前らには絶対に無理だ。……よし、みんな分かってんな?行ってこい!」

 自分の力も分からずに難易度の高い魔獣に行っても無駄に怪我をしたり下手すれば命を落としかねない。カガチの合図とともにそれぞれ仲の良いものと魔獣を探しに散り散りに歩き始めた。リッカとタイチもそれに倣い歩いていく、と言うことはせずに、何やら首を傾げている神獣たちに声をかけた。

 「みんなどうしたの?」



 『……泣いてる。』



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...