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第二章 アカデミー 入学編

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 「あらノアさん。そちらが噂の新入生ですか?」

 部屋の中に入ったノアの肩越しに部屋の中を覗くと意外と広々としていて部屋の三分の二のところでカウンターのようなもので仕切られ、三分の一の奥側には数名の女性が控えておりその後ろには棚が山ほど並べられ中には資料が大量に入っているようだった。例えるなら以前一度だけ訪れたギルドのような作りになっている。
 どうやらあちらの女性たちにはリッカ達のことがもう知れ渡っているようで、何やら歓迎の空気が流れていた。

 「えっと……」
 「もうすでに僕とジルさんが根回ししておいたんだよ。詮索されるのも好きじゃないだろうしね。」
 「……ありがと。」
 「根回しって……なんて言ったんですか?」
 「新入生の中にものすごく有能な子がいたから僕のパーティメンバーに入ってもらうことにしたってね。」

 一体その説明でどういう噂が飛び交ったのか。考えるのも恐ろしいので一旦やめにしてノアの後に続いた。目が合った女性にぺこりと頭を下げるとにこやかに微笑まれた。相手が名乗らないからと名乗らなかったり、いかに相手が知っていたとしても挨拶をしないのはヤマトの礼儀に反する。リッカとタイチはノアの一歩前に出ると声を上げた。

 「今年からここのアカデミーに通うことになったリッカ・トウドウです。こっちは僕の従魔たち。」
 「同じくタイチ・アズマです。こいつが俺の従魔です。」
 「あらご丁寧に。私はここ、依頼受注報告所の責任者のマリアと申します。以後よろしくお願いいたしますね。」
 「とりあえず何か分からないことがあればマリアに確認すると確実だから。僕がいないときとかはマリアに聞いてね。」

 そのノアの言葉にリッカもタイチも頷く。マリアもだが他の職員もその様子をにこやかに眺めているようだった。挨拶も終え、カウンターを挟んでマリアの前に立つとマリアから用紙を受け取る。それがどうやらパーティの申請書のようで六人分の枠があった。そこに三人分の名前をノアが記入してくれてそのまま提出と相成った。もちろんパーティリーダーはノアである。リッカはする気がないし、タイチはリッカがダメならノアがいいんじゃないかと提案したというのもあるが。
 マリアはその用紙を受け取ると何か印鑑のようなものを押して何も挟まっていないファイルを取り出し、表紙のポケットにその用紙を挟める。どうやらそれがこなした依頼用紙を挟めていくファイルらしい。

 「へぇ……そうやって管理するんだ……。」
 「ええ。一応まとめたものも作りますけど、こうやって保管しておく方が後からポイントの概要を見返せるのでいいんですよ。変にいちゃもんを付けられてもたまりませんから。」
 「過去何回かそれでいろいろ問題になったこともあったんだよね。」
 「そうなんですよ。もう大変で……それ以来依頼用紙は個別にまとめることにしたのです。」
 
 リッカのこぼした独り言にマリアが答えてくれる。それなら問題が発生しても解決するのは楽そうなのでなるほど、と一人納得していた。パーティの申請も終わり、今日は依頼を受けに来るパーティもいないだろうからとそのまま報告所の椅子とテーブルを借りてこれからのことをノアから教えてもらうことにした。

 「依頼は必ずここで受けて、完了報告もここでするんだ。さっきも言ったように報告は必ずしないと成績ににも関係するからね。」
 「報告はパーティリーダーがするんでしょ?」
 「うん。一応そういうことになってるよ。」
 「じゃあ心配ないね。」
 「あの、依頼ってどういうのがあるんですか?」

 ずっと気になっていたのか、タイチが思わずと言う風にノアへ尋ねる。依頼と言ってもちゃんとギルドから流されたものであるため難易度的にもどういうのがあるのか知りたかったのだろう。リッカはあまり気にしないが、タイチは割と気にするタイプなのである。

 「採取系から討伐系まであるよ。ちゃんと難易度も分けられててパーティの実力に合わせてリストをここの職員の人が渡してくれるから、その中から選ぶんだ。ちなみに僕らのパーティの担当職員はマリアさんだよ。」

 ノアがマリアの名を出すのでふいっとそちらに顔を向けると彼女はひらりと手を振っていた。

 「最初は採取系とかの非戦闘系からやっていこうね。ある程度慣れれば討伐系もしていこう。戦闘の基本も身についているんだよね?」
 「もちろん。僕はまあ……優秀な”先生”にそもそも仕込まれてるから。」
 「俺は父に……だから戦闘はある程度問題ないかと思います。」
 「そっかそっか、そうだよね。あのカガチ先生にあれだけいい評価されるんだし、できないわけないか。それに、確かに優秀な先生だ。ビックリしたよ。」

 ノアの手はリッカの耳飾りに触れるか触れないかで彷徨っている。髪をするりと除けたそこには黄金色に輝く黄龍の鱗。そう、リッカの先生はどこの誰よりも優秀な教師なのである。そのことにノアが気づかないはずもなく、ただ純粋に驚いているようだった。表情には出ていないが。

 「明日の課外授業が終われば明後日からはしばらく座学が続く。だから、しっかり頑張っていこうね。」
 「はい。よろしくお願いします。」
 「よろしく~。」

 そうノアが締め、リッカ達が立ち上がったところでちょうど大きな鐘の音が鳴った。何だ?と首を傾げているとノアが授業終わりのベルだということを教えてくれる。そして、今から他の三学年までの生徒は座学が待っているがリッカ達には何もない。四学年から上はこのあと自由時間なのである。ということでリッカはノアを引き連れて入学試験の時に訪れたぬしが三匹いる桜の大樹があるところまで歩いてきた。ふわふわと桃色の塊がリッカの手のひらの上にコロンと落ちてくる。そう、ここのぬしである。

 「久しぶり。ちゃんと来たよ。」

 そう言ってリッカがぬしたちと視線を合わせると彼らは嬉しそうにリッカにすり寄ってきた。


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