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第二章 アカデミー 入学編
オリエンテーション
しおりを挟むこのアカデミー内でリッカにこんなことをするのはリッカと交流がある者だけだろう。そこから推測して、今回の一番最初の授業が座学だとするとノアが迎えに来る確率が一番高い。確証はないが間違ってはいないだろうという自身がリッカにはあったのだ。
「……もっと驚いてくれるかと思ったのに。」
「確率の問題だよ。見ず知らずの相手にこんなことする人なんて早々いないだろうし、だとしたら僕も知っている人で、且つその中でも確率が高かったのがノアだったってだけ。」
「ざーんねん。でも大変だったね、入学早々絡まれちゃって。」
「ノアさん見てたんですか?」
「リッカくんが啖呵切ってるとこからね。」
にこやかに笑うノア。リッカもタイチもそう動揺することもなくノアを受け入れたのだが、周りの生徒はそうもいかなかったらしい。ノアの姿を認識したとほぼ同時に教室内に黄色い悲鳴が響き渡った。ほとんど女子生徒から発せられたもので、男子生徒たちとベルやリリーはうるさそうに耳を塞いで眉を顰めている。神獣たちに至っては驚いて玄武と青龍、朱雀は肩掛けカバンの中にぎゅうぎゅうに入り込み、白虎はずぼっとリッカの両のふくらはぎの間に頭を突っ込み、耳を塞いでいるようだった。リッカも神獣たちの行動に苦笑いである。
悲鳴が収まり、今度はざわざわと騒がしくなった。
「ノア様がどうしてここに!?」
「新しく来たあの子たちと親しそうですわ!どういうことなのかしら?」
「こんなに近くでノア様が見れるなんて夢みたい……」
エトセトラエトセトラ……。やはり生徒会長と言うだけあって絶大な人気を誇っているらしい。ちらりとノアを見やればどこからどう見ても困っていますという表情をしていてノア自身にもどうすることができないのだと嫌でも理解してしまった。詰め寄ることはしてこない。あくまで遠目からきゃあきゃあと盛り上がっているのである。なるほど、これは不快だ。
「ノア、僕たちのこと迎えにきてくれたんでしょ?」
「あ、ああそうだね。今日は一応座学の日ってなってるからね。明日はリッカくんたちもこっちの課外授業に混ざることになると思うけど。」
「そっかそっかじゃあ早速行こう?時間も惜しいし。」
「……ベル、俺たちはノアさんと一緒にいるって先生に伝えてもらってもいいか?」
リッカがノアの背中を押し、教室から連れ出そうとしているのを見てタイチがベルに言伝を頼む。ベルは了解したと言わんばかりにサムズアップし、笑いながら(と言うかほぼ苦笑いに近い)リッカ達を送り出してくれたのだった。女子生徒たちの残念そうな声が聞こえないでもなかったがそこは無視である。
「……すごいね。」
「あーまあ、ね。僕が姿見せるといっつもああなんだ。あれがあるせいで男子からもにらまれるしね。」
「完全にとばっちりですね……。」
「もう諦めた。それに僕は今年度で卒業だからあと一年我慢したらいいんだもん。」
「ふーん……で、今これどこに行ってるの?」
横に三人並びタイチの後ろにはウル、リッカの足元と肩の上や頭の上、バッグの中には神獣たち、そしてノアの足元にはノーツとルキがいる。向かっている方向に心当たりはない。タイチと二人顔を見合わせて首を傾げているとノアは面白そうにくすくすと笑い始めた。
「一応僕らのパーティ申請をしに行って、そこで依頼消化……所謂実践授業のことについて説明するよ。」
「申請とかしなきゃなんですね……」
「ポイントの振り分けとか成績にいろいろ関わってくるからね。」
「そう言えばノアは今まで一人でって言ってたけど、一人って認められないんじゃないの?」
確か、入学試験の時に三人から六人のパーティを組んで依頼をこなすと言っていたのである。その時は何ら不思議に思わなかったが今考えればノアだけ一人で行動しているというのもおかしな話である。リッカの疑問にタイチも同意するように確かに……と呟いていた。
「僕はアカデミー長から直々に単独行動を許可されてるから。」
「へぇ……」
「っていうのも、僕は半森人族でしょ?一緒に組めるような実力を持った人とかいなくてね……それ以前に組んでくれる人もいなかったんだよ。だから、単独行動の許可をもらったんだ。」
「……僕たちはいいんだ?」
「だって、強いでしょう?それにちょっとやそっとじゃ傷も負わなそうだ。」
その視線は神獣たちに向いている。確かに玄武の防護結界があれば怪我を負うことは早々ない。軽くだが理由を説明されて取り合えずは納得した。実力差がありすぎると逆に危ないこともあるし、だからと言って組みたくもない相手と組むのはそれはそれで危険なのである。
たくさんの教室が並ぶ廊下を突き当たり、右折して階を下りていくと教師たちが控えている部屋の隣のドアをノアがノックした。初めて見る部屋である。
「失礼します。パーティの申請に来ました。」
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