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第二章 アカデミー 入学編
入寮
しおりを挟む前回の入学試験の時同様到着したのは夕方だった。検問所にいる衛兵も半年前と変わりないようで、リッカ達の顔を見て思い出したように身を乗り出した。
「お前たち、半年前の遠方からの受験者じゃないか!」
「はい、その節はどうも……」
「またここに来たってことは、合格したのかい?」
「ええ。前はちょうど入違ったみたいで報告できなかったんですけど、無事、合格できました。」
「そうか……そりゃよかった。おめでとう。これからよろしくな!」
衛兵のその言葉にリッカもタイチもこくりと頷いた。どっちみちフィラノに帰るときには必然的にお世話になるのである。仲良くしておいて損はない。そのまま通してもらいロアの王都の中へ踏み入れると半年前のあの賑やかな雰囲気が歓迎してくれているような気がした。
「半年経っても変わらないね、ここは。」
「ああ、にぎやかだ。」
『活気に満ち溢れてるよね。……こういうところは人が良く栄えるんだ。』
「へぇ……ゲンくん物知りだねぇ。」
リッカに頭を撫でられ玄武は頬を赤くした。分かりやすく照れているのである。その様子を見た白虎が不貞腐れたようにリッカの腕を甘噛みし、気を引こうとしてる。それにリッカが気づかないはずもなく、苦笑いをしながら抱き直した。こうやって神獣たちが自分を好いてくれているのが分かるのは、悪くない。その様子を見ていたウルが羨ましくなったのか、タイチに突撃しているのも見えた。
「ぐっ……」
『俺も撫でてください、主様。』
「な、なんだ……撫でてほしいのか?」
『そうです。そう!頭を!……主様は撫でるの、下手ですね。』
「ふはっ……ウルくんそれは言っちゃダメっ……タイチはぶきっちょなんだから。」
「……なんだか馬鹿にされている気がする。」
ぐりぐりと頭をタイチに擦り付けていたのもあってタイチに撫でてほしいことが伝わったのだろうがウルには不服だったらしい。しかし、やはり契約しているので主人の手が一番心地よいのも確か。その葛藤に首を傾げている様子を見てリッカは声を出して笑う。そんなリッカを見てタイチがプラスなイメージを持つわけもなくウルと同じように首を傾げていた。
「さ、とっととアカデミーに行って入寮手続き済ませちゃお。あと半刻で時間すぎちゃう。」
「あ、ああ……そうだな。」
「そう言えば寮って二人部屋だよね?部屋割りどうなるんだろ……できればタイチと一緒の方がいろいろ楽なんだけどなぁ……」
「楽って……はあ、まあ心配いらないと思うけどな。」
特殊な二人である。おそらく部屋は同じだ。一般的な生徒と同じ部屋になるはずがない。そんなことはリッカも分かっているが、普通の反応と言うものをやってみたかっただけである。記憶を頼りにアカデミーの方へ歩いていけば、同じ年頃の者が増え始めたことに気づく。同じ入学生だろう。
「いいねぇ、初々しい。」
「お前も新入生だろ……。」
「タイチもね。だって、ああやってノアやアカデミー長と話しちゃうとわくわく感もそんなにないよね。」
「……分からなくもない。」
「でしょ?あ、ほら!ついたよ。あそこで手続きするみたい。」
リッカの眼についたのは入学試験の時と同じように門の付近に設置してある受付だった。同じように女性が立っていてリッカ達が到着したことに気づいてくれる。明るく出迎えてくれた彼女は一つのバッジをリッカ達にそれぞれ差し出した。よく見ると個人の名前に付け加えおそらくロア含めたこちらの地方の聖獣であるフェンリルの影絵に学年を示すⅢの文字。以前にこれと似たようなものをリッカは見たことがあった。
「これ、ノアたちがつけてたやつ……」
「これはアカデミーの生徒である証のバッジです。当校の生徒である間は必ずどこかに身に着けてください。これを付けておくことで依頼遂行の時も楽に宿を取ったり検問所を通ったりすることができます。」
「へえ……」
「それと、リッカくんとタイチくんは同じ部屋です。部屋番号は三〇一ですので、荷物等の運び込みもお願いいたします。詳しくは寮長に聞いてください。」
「はい。ありがとうございます。」
やはり同じ部屋であったらしい。予想通り過ぎて面白みの何もないが、これでアカデミー生活は安泰と言える。しかし学年は一ではなく三だった。学年はそのままかと思ったのだが、学年も飛び級扱いになっているらしい。リッカは女性に感謝の言葉を伝えてまだ戸惑っているタイチを引っ張りながら歩き始めた。
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