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リッカとタイチ

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 実技試験として案内されたのはテイマー科専用演習場と書かれた看板が掲げてある広い空間だった。やはり実技も学科ごとに分かれていて、今ここにいるのは受験者の約三割ほどだろう。それなりに多いようで、実際は平均的なのだろう。おそらく一番多いのは剣士科のような気もする。
 ウルの表情は見えないが、少なくとも白虎たちは初めて見る景色にふんふんと匂いを嗅いだり、きょろきょろと視線を動かしたりと忙しない。いつもは冷静な朱雀も、心なしか興味があるようである。

 「気になる?」
 『いえ……ただ、魔力が……』
 「魔力?」
 『ここの空間は、魔力が外に漏れないつくりになっているようでしたので……』
 「……確かに魔力が壁で跳ね返されてるみたい。何かあるのかもね、この空間。」

 小さな声で朱雀とやり取りしてるリッカにタイチも目を凝らしてみるが、やはり分からない。流石に魔力の流れを見ることは今のタイチには難しいのだ。リッカと朱雀のやり取りに気を取られているうちに、試験官の話は進んでいく。

 「魔力適正のチェックをしてから実技試験にうつるんだが、必ずしもここで出た魔力適正の魔法しか使用できないとは限らない。あくまでもその属性との相性が一番だというだけだ。努力をすれば他の属性の魔法も扱うことは可能なんだぜ。現に、君たちの周りの大人は複数の属性の魔法を扱えるだろ?」
 
 試験官の言葉に思い出すように頷く受験者たち。そもそも、リッカとタイチに関して言えばすでに三年半前には魔法行使ができていたわけなので、そんな初歩中の初歩理解していて当然なのだが。
 そして、ここで魔力適正を調べるのに魔法具を使うようだった。

 「さて、本題に戻るが君たちにはこの魔法具を使って魔力適正を調べてもらう。やり方は簡単だ、さっきの筆記試験の時と同じように右の魔法陣に君たちの両手を、左の魔法陣に受験票を置いて魔力をそこに流し込むだけだ。安心してくれ魔法行使のやり方が分からなくてもこの魔法具が手助けしてくれるから君たちは魔力を流すイメージをしてくれればいい。」

 質問があるものは、と続けられ誰もそこで手を上げることはなく、試験官は満足したように頷いた。

 「それじゃ、前にいる奴から測っていってくれ。何かあれば呼んでくれればすぐに向かう。」

 そう言うと試験官は頼んだ、とばかりに演習場の入り口付近へと移動した。否、入り口付近というよりその入り口付近に待機しているリッカとタイチの元に、と言うべきか。受験者たちはもう魔法具に夢中で、一人一人調べては一喜一憂している。よって、リッカとタイチの方に試験官がいるのには誰も気づいていないようだった。

 「よう、従魔持ちはお前らみたいだな。」
 「……な」
 「何か用ですか?」
 「おい、俺の言葉を遮るなよ……」
 「ごめん、でもちょっと僕に任せててくれる?」

 鋭い眼光でリッカから諫められてしまえばタイチに逆らう手立てはない。何故リッカがこうも敵愾心むき出しの眼で目の前の相手をにらんでいるのかタイチには分からないが、きっと見過ごせない何かがあったのだろう。現に、ウルも神獣たちも一様に牙をむいたり毛を逆立てたりしながら威嚇している。

 「おーおー、コワイコワイ。その威圧仕舞ってくれや。」
 「って、言うなら貴方の方こそその魔力仕舞ってください。」
 「……驚いた、そっちの奴は魔力の流れが見えるのか。そりゃ失礼した。」
 
 試験官はそう言うと、先ほどまで纏っていた魔力を消しもう何もないと言わんばかりに両手を開いて見せた。しかし、リッカもウルも神獣たちも警戒を緩めることはない。他人の前である手前、神獣たちは口を開くことはないが、その目が怒りを含んでいることにタイチは気づいた。

 「……いや、悪かった。もう何も企んじゃいないから本当にその威圧どうにかしてくれ。」
 「本当ですね?嘘ついても僕らにはバレますからね?」
 「みたいだな。そっちのでかい方も悪かったな……この、こいつは天狼シリウスか……この天狼シリウスはお前の従魔なのか?」
 「そうですけど、俺には何が何だか……ウルとリッカ達が急に威嚇し始めたので……」
 「そりゃなおさらすまんかったな。お前たち名前は?」

 先ほどまでのツンとした雰囲気はもうない。リッカ達も警戒を解いたようで普通にしている。リッカが小さくため息をついて横にずれたのを見て、タイチもほっと息をついた。本当にもう大丈夫らしい。

 「リッカ・トウドウ。こっちは従魔の子たち。」
 「タイチ・アズマです。こいつが従魔のウルです。」
 「カガチ・シノミヤだ。なんだ同胞じゃねぇか……通りで馴染みのある気配だと。」
 「カガチさんもヤマト出身なの?」
 「まあな。つか、俺に敬語は?最初は敬語だったじゃねえかよ。」
 「別にいいかなって。そっか、一緒のとこだったんだー。なるほどねぇ……」

 カガチの名は何処からどう聞いてもヤマト名である。そしてリッカとタイチも。同じ故郷出身で気づかないという方がおかしい。しかしこんなところにまさかヤマトの出の者がいるとは思わず、リッカですら驚いているようだった。

 「ヤマトのどこ出身なんだ?」
 「フィラノ。カガチさんは?」
 「俺はシーク。そうか、フィラノなら今の歳ですでに従魔を従えているのも納得だな……。大方あれか?シークのアカデミーじゃその天狼シリウス持ちのタイチが研究材料にされかねないってところか?」
 「まあ、そんなところです。」
 「後は……それ、もしかしなくても神獣だろ?そんなん連れてシークはいけねえしな。」
 「……気づいてたんだ?」

 声量を下げてリッカに尋ねたカガチに、リッカはやはりといったような表情で同じように声を潜めた。

 「これでもシークの街にいたからな……それに、俺は魔力感知だけは誰にも負けないと自負している。しかし、その威圧がなければ確信には至らなかっただろうな……それは封印の呪か?だとしたらすげえな。」
 「ありがと。それとごめんね威嚇しちゃって。どうにもこの子達が見られてる気がしたから……ほら、挨拶。」
 『白虎だよ!ままのことじっと見てたでしょ!』
 『青龍だぜ。』
 『玄武です。よろしくね?』
 『朱雀です。あなた、その気配はまさか……』

 リッカの合図で神獣たちは簡潔に自己紹介を済ませた。は、いいものの、どうにも朱雀はカガチの首元を見ながら訝しそうな眼を向けている。リッカも朱雀の言葉には苦笑いしてしまっているし、それは他の神獣にも言えることだった。カガチはバレてしまったとばかりに頭をかいた。

 「やっぱりわかるか……?」
 「その不思議な気配のことならまあ、気づかないわけがないよね。ねえタイチ?」
 「あ?ああ、まあ……けど隠したいことなんじゃないんですか?」
 「いや、同郷ならまあさして問題はないだろう。出てこい、二号。」

 二号、確かにカガチはそう呼んだ。すると、カガチの胸元から小さな白蛇が顔をちょこりと覗かせたのだった。その姿はどうにもセイイチが連れているマロに似ているようで、さらに納得してしまった。やはり、と。

 「蛇神カガチだ。まだ個体名が決まっていないんだが、それでも俺についてくると言って聞かなかったんだ。今は俺の従魔をしてくれている。」

 そう、カガチ。ヤマトの守り神の一種である。同じカガチだから二号と呼ばれているのだろう。
 リッカはその愛らしさにするりと手を伸ばした。

 
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