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素質
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しおりを挟む「領主様」
「リ、リッカか……どうした?」
「いえ、説明が必要かと思いまして。」
こっそり後ろから現れたリッカに、ヒイラギは驚いたもののその意図に気づき、声を小さくした。未だにサイガは喚いてるし、近づいてきたリッカに気づいていないのだろう。その内容は、もはや許容範囲を超えている。
リッカは小さくため息をつくと、ちょいちょいとサイガの服を引っ張った。
「なんだ!?」
「サイガさん、もうそろそろやめないとみっともないと思いますよ。」
「ぐっ……トウドウの息子が舐めた口を利くな!!!あの大物はどうした!やはりいないではないか!!!」
「解札を破って封印の呪をかけただけです。それと、あんまり近くで大声出さないでいただきたいです。」
「な、生意気だぞお前!!!!」
冷静なリッカの一言に激昂したサイガはついにその右手を振り上げた。
「やめろサイガ!!!」
ヒイラギがリッカをかばおうと前に出ようとするが、それはリッカ本人に止められてしまった。サイガの右手がリッカの頬を殴りつける、そんな未来が見えてしまったその瞬間、サイガはリッカに触れることなく逆に吹っ飛ばされてしまった。ざわざわと騒ぐ市民たちを横目に、リッカは小さく息をつく。玄武の《防護結界》が働いた証拠だ。
『やはり手がでましたね。流石です、玄武。』
『ま、僕がお母さんへの攻撃を通すわけがないよね。』
「ありがと、ゲンくん。」
『あのひとふっとんじゃったよー?』
「まあ、あれだけ思いっきりくればね……」
玄武の《防護結界》は攻撃してきた相手をその攻撃よりも強い力で押し返すものだ。だからサイガはリッカに攻撃を仕掛けようとして逆に吹っ飛んでしまったのである。玄武の《防護結界》が働くと分かっていたからヒイラギを制したのだ。そのまま突っ込まれてしまっては吹っ飛んだサイガに巻き込まれてヒイラギが怪我をしてしまう恐れがあったのである。
吹っ飛ばされたサイガは何が起こったのかまだ理解できていないらしく、目を白黒とさせていた。こういう相手に納得させるのは割と困難なのだ。
「な、なんだ今の……」
「あのアズマさんが、あんなに弾き返されるなんて!?」
「い、いったい何なんだ!?トウドウさんとこの子は!」
「どう考えても、今のはサイガさんが悪いとは言え……ああもあんな小さい子に吹っ飛ばされるとは……」
「さっきの大きな魔獣といい、なんなんだ、あの子は……!?」
騒がしくなった外野にサイガは顔を赤くし、わなわなと震えていた。屈辱的だろう。何せリッカとサイガは年齢差もあれば体格差も半端じゃないくらいにある。そんな相手に見かけ上吹っ飛ばされたのだ。怒りはたまれど落ち着けるはずがなかった。一瞬リッカは、朱雀の精神魔法でも使おうか、と考えたが精神魔法はかけられた側の負担が大きすぎることと一度朱雀の申し出を断ったこともあり、決めあぐねていた。
「リッカ、ごめん……」
「だから、タイチが謝ることじゃないって。そんな顔しなーい。」
「けどうちの父さんリッカに手まで上げて……」
「結果的に僕に当たってないし、仮に当たっててもそれはサイガさんがしたことであって、タイチがしたことじゃないでしょ?だからいいの。」
「……お前たち、いつの間にそんなに仲良くなったんだ……?」
そこでこのタイチとリッカのやり取りである。あれだけ見下していたタイチが今ではリッカを同等に扱いまるで友人のように接しているのだ。(実際にリッカはすでに友人だと思っている。)そんな態度の息子への苛立ち含め、怒りメーターの振り切れたサイガは大声を上げた。
「タイチイイイイイイ!!!!!見損なったぞお前えええ!!!!」
「……俺は、リッカの力を理解しただけです。リッカは、格下なんかじゃない。」
「ぐぅっ……だいたいおかしいんだ!!!あんな大物、そもそも契約できるわけが、」
「いい加減にせぬか!サイガよ!!」
吠えたサイガにヒイラギがついに切れたように声を張り上げ、何かを唱えた。あまりにも小さかったそれはリッカには聴き取ることができなかったが、それ以降サイガが言葉を発することはなかった。おそらく、《消音》か何かを唱えたのだろう。一息つくと、また何かを呟いてヒイラギは語るように言葉を発した。
「リッカと契約しているのは神獣様だ。四方を守る神獣四体……青龍様、朱雀様、白虎様、玄武様。今日タイチのウルフと戦ったのは白虎様だ。ちなみに、私がリッカに用意したのではなく、リッカ自身が神獣様と関わりを持ち、契約に至ったのだ。これは、リッカのテイマーとしての素質が優れていることと共に、我々に無い”何か”を持っている証拠だよ。」
発した言葉は想像以上に膨張し、まるで何かを通しているかのように大きく響いた。それこそ、外野にも聞こえるように。それに気づいたリッカは驚いたように目をぱちぱちとさせ、気の抜けた声を発した。さらに言えばその言葉を聞いたサイガはついに呆然と口を開け、汗を大量に流し始めた。事の重大性に気づき始めたらしい。
市民たちも驚きの声を上げ、リッカを見る目を変えた。
「神獣様、だと……?」
「神獣様だ。」
「な、なぜそのような存在が、トウドウの息子と……」
「さあな。私も契約の儀の時に初めて知ったのだ。しかし、リッカ曰く黄龍様からのお願いでもあるのだと言っていた。実際に黄龍様もリッカの元に現れたから、嘘ではない。」
「……それだけ、素質があるのか。」
「少なくともこのフィラノの誰よりもあるだろうな。」
「人は見かけによらないとは、まさにこのことか……」
苦い顔をしながらうなだれるサイガに、タイチはほっと一息ついた。なんとか、事は終息しそうである。
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