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素質

模擬戦闘

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 そして迎えた模擬戦闘当日。リッカは朝から白虎のブラッシングをしていた。

 「今日は頑張ろうね。」
 『うん!ままのためにがんばるよ!』
 「怪我だけはしないようにね?」
 『ぼくはしんじゅうだからね!けがなんかしないよ?』
 「それでもだよ。気を付けて。」
 『うん!』

 ブラシでサラリサラリとふかふかの毛を撫で、言い聞かせるようにリッカは言う。玄武も朱雀も用意している解札を物珍しそうに見ていて、見向きもしていないが、青龍だけは白虎のことを羨ましそうに見ていた。そう、羨ましそうに。

 『いーなー』
 『きょうはぼく!せいりゅうはまたこんど!』
 『じゃあブラッシングだけでも……』
 『せいりゅうはほぼうろこでしょ!』
 『はぁ!?毛もあるし!!』

 神獣たちのこの会話が聞こえたものがいたならばおそらく神獣とは思わないだろうと言えるくらい和やかな会話だ。一階ではメイドや執事がばたばたと忙しなく動き回り、サクラとセイイチがああだこうだと今日のリッカの服について話し合っているというのに。

 「いざとなったら解札を使うけど、いらないみたいだったらそのままで行くからね。」
 『かいふだ、つかわないの?』
 「んー、使ってもいいんだけど、差がありすぎると逆にシロくんが戦いづらくない?」
 『だいじょうぶだよ?』
 「そう?」

 ちょうど、その時だった。リッカの部屋の扉が勢いよく開けられたのは。

 「リッカ!どっちがいい?」
 「もちろんこっちよね!?」

 そう、本日のリッカの服を話し合っていたサクラとセイイチだった。二人の手にはそれぞれ違う柄の服を持っていて、ものすごい形相である。引き気味にリッカがどうしたのかと尋ねるとどうやら二人は自分の意見を通したくて揉めているようだった。リッカはあまり服に執着しない質なので、どちらでもいいと思っているのだが。

 「どっちでもいいです……」
 「どっちでもいいが一番困るのよ!選んで!」 
 「リッカは動きやすいこっちのほうがいいよな?な?」
 「う、うううう……」
 『お母さん困っちゃってるねぇ』

 口に出すものの助け舟は出してくれないらしい。うなりながらも出したリッカの決断は、父が選んだものだった。ただし、今度は母の選んだものを着るという条件を付けて。

 「あら、案外そちらも似合っているわね」
 「そうだろうそうだろう。」
 「でも次は譲らないわ。」
 「お、おう……」

 セイイチが選んだ服は黒を基調に、白で黄龍が描かれたシックなものだった。和装であるが、丈の短いそれは下にピッタリとフィットする七分のパンツを身に着けている。動きやすさ重視というだけあって、着物の丈が短い分動きやすかった。まあ、今回の模擬戦闘は従魔で行うので、あまり関係ないのだが。

 「よし、じゃあ行こうか。そろそろ時間だ。」
 「そうですね……みんな、行こ?」
 「私は後から行きますからね。本番には間に合うから一生懸命頑張るのよ?」
 「はい。分かっています、母様。」

 模擬戦闘の開始は午後、一の刻からだ。今はちょうど午後になったばかり。もう家を出なければならない。サクラに別れを告げると、リッカはセイイチとともに馬車に乗り込んだ。

 「調子はどうだ?」
 「シロくんはいいみたいです。」
 『ぜっこうちょーう!』
 『僕はお母さんの結界に専念してるから、頼んだよ白虎。』
 『もちろん!まかせて、げんぶ!』
 「ね?」
 「ああ、そうみたいだな。」

 緊張は無かった。ただあるのは、模擬戦闘への好奇心と少しの不安。セイイチと言葉を交わしているうちに、いつのまにか広場についていて、人が溢れるように集まっていた。

 
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