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素質
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しおりを挟む「ほんと、失礼しちゃうよね。」
ぷくぷく頬を膨らませながら言うリッカはどこからどう見てもお怒りである。これは、リッカ自身が軽んじられたからではなく、彼の大好きな存在である神獣たちが馬鹿にされたからなのだ。いや、相手に神獣だと気づかせていないのだからヒイラギの思惑通りではあるのだが、馬鹿にされるのは許せないのだ。それに、リッカ自身別に神獣ということを隠してまで彼らに窮屈な思いをさせなくてもいいのでは、と思っていたりもする。
神獣たちと一緒にいるためにはしょうがないことなので、口にはださないが。
『まま、ぼくたちのことすごくすきだよね!ぼくもだいすきだけど!』
「大好きに決まってるでしょ。もう何年一緒にいると思ってるのさ」
『しかし、お母様がテイマーである以上、節度を保たないと奇異の眼で見られてしまいます。』
「別にいいの!僕は気にしないんだから。それに、僕は何を言われても平気なの。だから、大丈夫。」
リッカはこう言っているが、神獣たちが大丈夫ではない。封印の呪で力を制御されているとは言え、神獣。その力は未知数だ。現に、小さな状態でもリッカに向けられた攻撃はすべて跳ね返す結界を玄武は張れているし、朱雀は常に周辺の索敵、青龍は悪意ある存在の有無の確認、白虎は攻撃を仕掛けたものへ渾身の一撃を放つ準備を欠かさない。
要はリッカに手を出そうと考えるのが馬鹿らしいほど、リッカは神獣たちに守られているのだ。その厳重な守備体制を知ったヒイラギが、冷や汗をかくほどである。
『かーさん、建物の影に悪意がある。』
「そうなの?じゃああっちから帰ろっか」
『結界あるから通っても大丈夫だよ?』
「目立ちたくないの。でもありがとう。ゲンくんは疲れてない?」
『僕らの魔力は他と比べ物にならないくらい多いからね。ちなみにだけどお母さんの成長が遅い理由はその魔力と関係があるんだよ?』
「え、そうなの!?」
これでも身長はかなり気にしているリッカである。原因が分かるのなら原因を知りたいと思ってもしょうがないだろう。どうにかできるとは思わないが、理由だけは知っておきたいのだ。まさか玄武が知っているとは思ってもいなかったが。
『お母さんの魔力もね、他の人より多いんだよ。でね、小さいときから黄龍や、僕たちといたでしょう?最初は普通よりちょっと多いかな?ってレベルの魔力が常人ではありえない量にまで膨れ上がった挙句、四つのときから僕らをお世話してたおかげで、いつのまにか途中で成長が止まってしまう森人族の限界量よりも多くなってしまったんだ。そしたらどうなるか、分かるよね?』
「森人族でもない僕は途中で成長が止まらない。結果、成長速度が緩やかになっている……ってこと?」
『そういうこと!お母さんは本当に理解力に優れているね。誇らしいよ。』
確かに自分の魔力量を計測したことはないが、それなりに多いだろうということは予測していた。確信に至ったのは、神獣たちと契約したときである。通常、四匹もの魔獣と契約するのは八歳の子供には不可能である。一匹でもいっぱいいっぱいになる場合が多いのであるが、リッカが契約したのは神獣。さらに魔力を使うのは考えずともわかることだ。
なのにリッカは魔力切れの予兆も、何もなかった。要は魔力にまだ余裕があるということである。そこで、やはり自分の魔力量は他より多いのだということに気づいた。
「まさか魔力が原因だとは思わなかった……」
『ま、悪いことってわけでもないし、いーんじゃないのー?』
「いいんだけどね。魔力が多いことに喜んでいいのか、成長が遅いことに悲しめばいいのか……」
『ままはちいさいほうがいいよ!おおきくなってごつごつしちゃったらやだ!』
「はいはい。なんだか複雑だなぁ……」
座ってスケッチをしていたリッカに乗り上げ、必死の形相で詰め寄る白虎を撫でリッカは苦笑いする。神獣たちと話をしているうちにスケッチは完成し、その完成した絵にリッカは満足げに頷いた。いつもより色絵具の乗りがよかったようにも感じる。次回も同じ場所で買おうと考えていたところで、ふいに後ろから声をかけられた。
「おかえり、リッカ。市場はどうだった?」
「ただいまです、母様。んー……色絵具を売ってあるお店はよかったんですけど……」
「どうかしたの?」
「契約の儀が被っていた子にちょっかいをかけられまして……どうしたものかと。」
「あらあら……困ったものねぇ。」
「まったくです。」
困ったように笑う母、サクラはリッカの頭を撫でながら思案する。どうしたものか、と言っている割にはリッカは困っているようには見えない。自分の息子であるので分かってしまうのだ。全くもって、リッカは気にしていないと。我が息子ながら強メンタルすぎて思わず笑いが込み上げるほどだ。
「ヤマトの中でもこの街は特に家柄によっては軽んじられやすくあるのよ。領主様は失くしたいと思っているようだけど、染みついたものは中々消えないわ。それに、八つで契約の儀をするなんて、この街くらいよ。だから、余計にエリート志向が強いの。契約した魔獣によっては貴族ではない子供が貴族の子を軽んじたりもする。そうでしょう?」
サクラの話にはリッカも経験がある。タイチと一緒にいたストレイン家のダグラがそうだ。リッカをトウドウ家の子供と知って見下していたのだ。他の国や街だと不敬罪に当たる場合もあるのだが、その辺フィラノは民の平等を謳っていることもあり、不敬には当たらないのだ。契約の儀の結果によって態度が変わったりするのだから平等も何もあったものではないが。
『人間は面倒くさいですね。』
「そうね。でも、これが人間の強い部分でもあるわ。」
『でもやっぱ、かーさんのこと悪く言われるのは納得がいかない。』
「僕だってアオくんたち悪く言われるの、嫌だよ。」
「ごめんなさいねぇ……でもね、封印の呪はリッカを守るものでもあり、あなたたちを守るものでもあるのよ。人間は傲慢な生き物。今の姿でも愛らしいのに、本来の姿だと、もっと狙われてしまうわ。」
そして、そんな神獣を従魔にしているリッカもね。とサクラは続けた。
素質のある者はどの職業においても重宝される。特に、魔獣を操ることのできるテイマーは特別だ。だから事前に自衛することで少しでも危険を減らそうというのである。いざ封印の呪を解き、その力を解放したところを誰かに見られたとしても、封印の呪をしているということはそれだけでそれ相応の対策はしているとみなされれ、待遇もそこまで悪くならない。そういうことも含め、ヒイラギは条件に封印の呪を施すことを入れたのだ。
『ままがあぶなくなったら、ぼくがまもるよ!』
『こらこら、僕たち、でしょ?』
『白虎にばかりいい顔はさせていられませんし。』
『って、ことで、かーさんは心配しなくてもいいぜ!』
「うん、ありがと。みんな。」
わらわらと寄ってはわちゃわちゃとじゃれあう。サクラはそんな息子たちの姿を見て穏やかに呟いた。
「好かれ慕われることも、また素質の一つね……」
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