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素質
契約魔獣
しおりを挟む領主の家から帰った後、契約した神獣たちの姿を見た両親はたいそう喜んだ。裏庭に出て黄龍にも見せると、満足したようにうなずいていて、リッカはとても嬉しくなった。が、しかし、
「リッカ坊ちゃんが契約した魔獣、何でしょうね?」
「数は四匹と多いけれどあのサイズじゃあ……素質がないのかもしれない。」
「確か契約に用意される魔獣の中には狼もいると聞くよ?そのレベルがいるのにあれっていうことは……無能の可能性も、」
「こら、セイイチ様やサクラ様に聞かれているかもしれないだろう!?無暗矢鱈とそういうことは言わない!」
「す、すみません……」
家に仕えるメイドや執事はいい顔をしなかったのだ。それもそのはずで、彼らには神獣たちが普通の小さな魔獣に見えているのである。今は完全に封印の呪で姿を偽っているため、ある意味喜んでいい結果ではあるのだが、実力社会のこのヤマトで力を持っているトウドウ家では、今のリッカは力ある魔獣と契約できなかった無能になってしまうのだろう。
悲しいとは思わない。ただ、歩くたびにボソボソと陰で言われると気が散るのだ。耳障り、とも言えよう。そのことに敏感なのが神獣たちで、いつもリッカのために怒ってくれている。リッカはその陰口すら、気にしていない鈍感だというのに。
『ままがわるくいわれるの、きにいらない!』
『抑えなさい、白虎。お母様が気にしていないのです。私たちにどうこうできるものではありません。』
「シロくんもすーちゃんもありがとう。でも本当に気にしていないんだ。だから大丈夫。」
『かーさんはそれでいいかもしれないけれど、俺たちが嫌なんだよ!』
『青龍も、抑えるの。僕だって腹立たしいよ。でもお母さんに迷惑がかかっちゃうでしょ?それに、手を出して来たら容赦はしないよ。』
「アオくんもゲンくんもありがとう。でもほら、今日はお出かけするんだから、準備しよ?」
いつも使っていた色絵具が切れてしまったため、今日はお出かけをしようとリッカは神獣たちに提案していたのだ。普段なら家に仕えている者が用意しているのだが、今回にに限って用意されていなかったのだ。けれど、神獣たちもリッカも外は領主の家しか知らない。だから探検の意味も込めて外出を決意したのだ。両親にそれを言うと、父には泣いて喜ばれ、母からは笑って地図を手渡された。
『俺はこのバッグに入ればいーんだよな?』
『違うよ。バッグに入るのは僕。青龍はお母さんの肩に乗っておくんでしょ?』
『あ、そっか。』
『しっかりしてよ、もう……』
青龍と玄武のやり取りを見て、リッカは思わず笑ってしまった。今回、外に出るにあたって一番悩んだのが、神獣たちをどう連れて行くかだったのだが、案外それは簡単に解決されたのだ。
朱雀は一番小さく、手のひらに乗るサイズのため、リッカの頭の上。青龍は周囲の警戒含めて外が見える場所ということで、リッカの首を囲むように、肩の上に。玄武はリッカに防護結界を張りたいと言い出し、落ちないように気を遣うことのない肩掛けバッグの中。バッグは蓋のないもので、首を伸ばせば周りを見渡せる。白虎は一番大きく(それでも通常の成猫より少し大きいくらいしかない。)どこにも乗せられないため、リッカの腕の中だ。
付け加えると、神獣たちはそれぞれ重力の操作もできるため、リッカに負担はかからない。
「楽しみだね。」
『僕の入るバッグに荷物入れてもよかったのに。』
「そんなわけにはいかないよ。そのバッグ、ゲンくん用にいろいろカスタマイズしようね。」
『ありがと、お母さん。』
「いーえー。よし、これで大丈夫。行こっか!」
玄武が入るバッグとは別の、今度はウエストバッグにスケッチブックや筆、お金を入れたポーチなどを入れそれを腰の方に装着した。体の裏になってしまうが、手を突っ込むので、あまり不便はない。ちなみにこのウエストバッグはいつも両手を塞がせているリッカのために、母が手作りしたものだったりする。その割に売っているものとなんら変わりない出来栄えで、見栄えがいいのでリッカは気に入っていた。
最後に玄武が入っている肩掛けバッグを装着し、準備万端である。頭に朱雀、肩に青龍、カバンに玄武、そして腕の中には白虎。リッカのことを知る者から見れば、青褪めてしまうことだろう。
「母様、行ってきますね。」
「あら、よく似合っているわ。セイイチさんには見せたの?」
「お仕事中でしたので、まだ……見せたほうがいいですかね?」
「そうねえ、あれだけ気にしていたんだもの。お顔だけでも見せてきなさい。」
「分かりました!」
表の庭でお茶を嗜んでいた母に見せ、今度は中に入って父のいる書斎を目指す。体の小ささも相まって今のリッカはまるで初めてのお使いをする小さな子供のようだった。そう思ったのか、リッカが書斎に顔を出した途端、過保護丸出しの父に門まで送られてしまった。
地図を見ながら道を歩く。八年もここで生活していたにもかかわらず、街は初めて見るものでいっぱいで、少しわくわくとしていた。
『まま、たのしそうだね。』
「知らないものがいっぱいあるからね。こんなことなら何度か母様について外に出てみるべきだったかな?」
『そしたらかーさんとの時間減ってるからだめ!』
「ふふ、それもそうだね。」
顔の横でぺちぺちとリッカの頬を叩いて抗議する青龍にリッカは笑いながら頷く。真っすぐ歩いていくと、地図にも書いてあった市場が目に入った。
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