4 / 5
Kiyoka's story
第4話 Kiyoka-4
しおりを挟む
「そんなこと言わないで!」
母が険しい顔、今思えば悲しい顔をしてこちらを見た。
「私が一緒に帰るから大丈夫よ。」
優しい祖母の声がした。
清香達にとっては救いの言葉だ。
「お母さん、大丈夫よ。皆でここに泊まるつもりで、こっちに来たんだから。」
「そんな言わないで、あなたが泊まってくれるなら私は安心して戻れるわ。色々取りに行きたい荷物もあるし。」
病院に泊まらなくても良いことに安堵し、
その時の母、祖母、そして祖父の表情など何も気にしていなかった。
祖母と私たちは3人並んで祖父宅で寝ていた。
祖母は寝れていなかったのかもしれない。
早朝。
祖父は亡くなった。
連絡を受け、ギリギリ駆けつけた私たちの前で。
病院の先生が聴診器を当て、目を確認し...
医療ドラマなどでよく見る光景だ。
時計が示す時間を読み上げた。
色々な手続きをし、祖父は帰宅した。
大人は慌ただしく動く。
涙を流す間もないほど、次々とやるべきことが出てくるらしい。
いつ、どこで知った知らない葬儀屋がたくさんのカタログを開いている。
田舎だからだろうか、何も知らせていないのに近所の人が次々とやってくる。
1日がとても長く、でもあっという間に過ぎた。
夜、1つの部屋に清香たち姉弟は寝ていた。
正確には、清香は横になっていた。
もっと正確に言うと、寝たふりをしていた。
ふすま1つ挟んだ隣の部屋で、大人たちはアルバムを広げながら祖父の思出話をしていた。
「お父さん若いね。」
「俺も似てきたかな。」
駆けつけた叔父さんの声だ。
「頭そっくりね。」
「若いときはフサフサしてたんだけどね。あなた達が物心つく頃にはもう、寂しいことになってたからね。」
「こんな話してたらお父さんに怒られるね。」
「親父、恐かったからな。お袋も苦労したろ。」
「お父さんほとんど家にいなかったしね。」
悪口?と笑い声が聞こえる。
「でも、昨日の夜お父さんすごく急に元気に喋ってて。お母さんを呼んでこい!ってずっと言ってたんだよ。お前じゃない!っていうから、失礼な!って言い返したりしてたけど、母さんどこだ!ってずっと。あんなにつっけんどんな感じだったのに、やっぱりお母さんのこと大好きだったんだね。」
「いや、ただただ子どもに弱ってるとこ見られたくなかったのよ。」
話ながら、祖母がふすまを開けたのですぐに寝ているふりをした。
「孫達にもね。」
頭にあたたかい手の温もりを感じたと同時に、頬に冷たい水が1滴落ちてきた。
朝から涙1つ見せていなかった祖母が、初めて流した涙がその時であることは私しか知らない。
後悔した。
ただのワガママで病院から、祖父のもとから祖母を引き離してしまったことを。
「この間、お爺ちゃんに買ってもらったんだ!私のこと大好きすぎるからさ。」
嬉しそうに報告してきた友人の声でハッとする。
高校の制服とピッタリ!とは言いきれない高級ブランドの財布だった。確かにかわいい。
「ちゃんと早めにお爺ちゃん孝行しなよ~」
と冗談めいて返した。
「もし、私が将来すっごくお金持ちになったら家買ってあげるんだ。」
こんなやり取りをするのはもう何度目かだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大人に近づいていた高校時代は、特に何度も繰り返し思い返していた。そして今は、その高校時代後悔を繰り返していた自分を度々思い返す。
社会人になった今でもこの時の後悔は消えることはない。
これが、「また今度ね。」「次はちゃんとするよ。」で済ませることのできることだったら良かった。
違う世界に旅立ってしまった祖父の命は、この世界に戻ってきてはくれないのだ。
この後悔を口にしたことはないが、もしもが叶ってくれるのならば、あの日のわがままを取り消したい。
そして、祖母にもう一度会って子どもの私ができなかった「ごめんなさい」を伝えたい。
もしもが叶う世界なら。
母が険しい顔、今思えば悲しい顔をしてこちらを見た。
「私が一緒に帰るから大丈夫よ。」
優しい祖母の声がした。
清香達にとっては救いの言葉だ。
「お母さん、大丈夫よ。皆でここに泊まるつもりで、こっちに来たんだから。」
「そんな言わないで、あなたが泊まってくれるなら私は安心して戻れるわ。色々取りに行きたい荷物もあるし。」
病院に泊まらなくても良いことに安堵し、
その時の母、祖母、そして祖父の表情など何も気にしていなかった。
祖母と私たちは3人並んで祖父宅で寝ていた。
祖母は寝れていなかったのかもしれない。
早朝。
祖父は亡くなった。
連絡を受け、ギリギリ駆けつけた私たちの前で。
病院の先生が聴診器を当て、目を確認し...
医療ドラマなどでよく見る光景だ。
時計が示す時間を読み上げた。
色々な手続きをし、祖父は帰宅した。
大人は慌ただしく動く。
涙を流す間もないほど、次々とやるべきことが出てくるらしい。
いつ、どこで知った知らない葬儀屋がたくさんのカタログを開いている。
田舎だからだろうか、何も知らせていないのに近所の人が次々とやってくる。
1日がとても長く、でもあっという間に過ぎた。
夜、1つの部屋に清香たち姉弟は寝ていた。
正確には、清香は横になっていた。
もっと正確に言うと、寝たふりをしていた。
ふすま1つ挟んだ隣の部屋で、大人たちはアルバムを広げながら祖父の思出話をしていた。
「お父さん若いね。」
「俺も似てきたかな。」
駆けつけた叔父さんの声だ。
「頭そっくりね。」
「若いときはフサフサしてたんだけどね。あなた達が物心つく頃にはもう、寂しいことになってたからね。」
「こんな話してたらお父さんに怒られるね。」
「親父、恐かったからな。お袋も苦労したろ。」
「お父さんほとんど家にいなかったしね。」
悪口?と笑い声が聞こえる。
「でも、昨日の夜お父さんすごく急に元気に喋ってて。お母さんを呼んでこい!ってずっと言ってたんだよ。お前じゃない!っていうから、失礼な!って言い返したりしてたけど、母さんどこだ!ってずっと。あんなにつっけんどんな感じだったのに、やっぱりお母さんのこと大好きだったんだね。」
「いや、ただただ子どもに弱ってるとこ見られたくなかったのよ。」
話ながら、祖母がふすまを開けたのですぐに寝ているふりをした。
「孫達にもね。」
頭にあたたかい手の温もりを感じたと同時に、頬に冷たい水が1滴落ちてきた。
朝から涙1つ見せていなかった祖母が、初めて流した涙がその時であることは私しか知らない。
後悔した。
ただのワガママで病院から、祖父のもとから祖母を引き離してしまったことを。
「この間、お爺ちゃんに買ってもらったんだ!私のこと大好きすぎるからさ。」
嬉しそうに報告してきた友人の声でハッとする。
高校の制服とピッタリ!とは言いきれない高級ブランドの財布だった。確かにかわいい。
「ちゃんと早めにお爺ちゃん孝行しなよ~」
と冗談めいて返した。
「もし、私が将来すっごくお金持ちになったら家買ってあげるんだ。」
こんなやり取りをするのはもう何度目かだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大人に近づいていた高校時代は、特に何度も繰り返し思い返していた。そして今は、その高校時代後悔を繰り返していた自分を度々思い返す。
社会人になった今でもこの時の後悔は消えることはない。
これが、「また今度ね。」「次はちゃんとするよ。」で済ませることのできることだったら良かった。
違う世界に旅立ってしまった祖父の命は、この世界に戻ってきてはくれないのだ。
この後悔を口にしたことはないが、もしもが叶ってくれるのならば、あの日のわがままを取り消したい。
そして、祖母にもう一度会って子どもの私ができなかった「ごめんなさい」を伝えたい。
もしもが叶う世界なら。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説


【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【ショートショート】恋愛系 涙
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
声劇用だと1分半〜5分ほど、黙読だと1分〜3分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
遅れてきた先生
kitamitio
現代文学
中学校の卒業が義務教育を終えるということにはどんな意味があるのだろう。
大学を卒業したが教員採用試験に合格できないまま、何年もの間臨時採用教師として中学校に勤務する北田道生。「正規」の先生たち以上にいろんな学校のいろんな先生達や、いろんな生徒達に接することで見えてきた「中学校のあるべき姿」に思いを深めていく主人公の生き方を描いています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日常のひとコマ
繰奈 -Crina-
現代文学
楽しかったり、嬉しかったり、哀しかったり、憤ったり。
何気ない日常の中にも心が揺れる瞬間があります。
いつもと同じ繰り返しの中にも、その時々の感情があります。
そういったひとコマを切り取ったお話たち。
いろいろな人のいろいろな時間を少しずつ。
電車で隣り合って座った人を思い浮かべたり、横断歩道ですれ違った人を想像したり、自分と照らし合わせて共感したり、大切な人の想いを汲みとったり。
読んだ時間も、あなたの日常のひとコマ。
あなたの気分に合うお話が見つかりますように。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる