3 / 5
Kiyoka's story
第3話 Kiyoka-3
しおりを挟む
長く入院生活を送っていた祖父が危険な状態だと連絡が入った。
朝、ランドセルを背負い清香は1年生を迎えに行こうとしていた。6年生になって、1年生と手を繋いで登校することをずっと楽しみにしていた。4月からやっとこの役目を担うことができ、朝が弱くギリギリに叩き起こされていたのが嘘のように早起きになった。
「清香!ごめん。今日学校休んで。」
別室で電話をしていた母が、慌てて荷物をつめている。
「なんで!」
強く言い返して振り返えると、母の目が充血しているのが分かった。
これ以上、なにかを言ってはいけないことが子どもながらに分かった。
「おじいちゃんのとこ行くよ。」
「なんで?なんで黒い服準備してるの?」
「必要になるかもしれないから。」
その黒い服が、人が亡くなったときに必要なものであることは分かっていた。今なら何となく、少しだけその備えの必要性が分かる。しかし、その時はなぜ祖父は生きているのに泣きながら喪服の準備をしているのか全く分からなかった。
分からないどころか、「酷い」と思っていたくらいだ。
2年生の弟は、ずっとお母さんと居れるのが嬉しいのだろう。ましてやおじいちゃん、おばあちゃん家に遊びに行けると思っているようだった。
祖父母の家までは車で5時間。かなり長時間だ。
いつも途中のサービスエリアを楽しみながら、大好きな音楽を歌いながらの旅とは違い母の様子を気に掛けながらの長旅だったことを覚えている。
父は県外に単身赴任中で、すぐには戻ってこれないどころか連絡が取れないことも多かった。
どれくらい時間が経っただろうか。
車を降りたのは、弟が「トイレ!」と言った1度だけだった。それ以外は呑気に寝息をたてながら夢の世界に行っていた弟を羨ましく思った。
体感は1日。だが、時計を見ると4時間も経っていなかった。
途中、サービスエリアに寄らなければこのくらいの時間なんだなと清香は初めて知った。
到着したのは、いつもの自然溢れる景色が広がる祖父母の家ではなく、なんだかひっそりとした大きなコンクリートの建物だった。
その入り口には、大きく
[森林総合病院]
と書かれていた。
清香はどうしても病院という場所が苦手だった。
だった...ではなく、大人になった今でも苦手だが...
看護師さんに部屋を聞き、受付を済ませる。
部屋に行くと、ベッドから身体を起こした祖父がこちらに視線を向けた。
「お父さん」
と母が駆け寄る。近くには祖母も居た。
「よくきたね。」
上手く言葉が話せない祖父に代わって、祖母がいつもの優しい声で迎えてくれた。
弟と私は、病院の独特な匂いと空間に緊張し無言になる。
母が何を話していたか覚えてないないが、祖父が瞼をゆっくり閉じたり開けたりして相づちを打っていたのを覚えている。
数時間たった頃、弟が病室で過ごすことに飽きてきた。
「ねぇ、おじいちゃんの家行かないの?」
「今日はここに泊まるのよ。」
私はギョッとした。
ただでさえ苦手な病院で寝泊まりするなど、どう考えてもその時の私にとっては耐えることなどできなかった。
「おじいちゃん家で寝る。」
この一言を言い放った自分を、私は未だに許すことができないでいる。
朝、ランドセルを背負い清香は1年生を迎えに行こうとしていた。6年生になって、1年生と手を繋いで登校することをずっと楽しみにしていた。4月からやっとこの役目を担うことができ、朝が弱くギリギリに叩き起こされていたのが嘘のように早起きになった。
「清香!ごめん。今日学校休んで。」
別室で電話をしていた母が、慌てて荷物をつめている。
「なんで!」
強く言い返して振り返えると、母の目が充血しているのが分かった。
これ以上、なにかを言ってはいけないことが子どもながらに分かった。
「おじいちゃんのとこ行くよ。」
「なんで?なんで黒い服準備してるの?」
「必要になるかもしれないから。」
その黒い服が、人が亡くなったときに必要なものであることは分かっていた。今なら何となく、少しだけその備えの必要性が分かる。しかし、その時はなぜ祖父は生きているのに泣きながら喪服の準備をしているのか全く分からなかった。
分からないどころか、「酷い」と思っていたくらいだ。
2年生の弟は、ずっとお母さんと居れるのが嬉しいのだろう。ましてやおじいちゃん、おばあちゃん家に遊びに行けると思っているようだった。
祖父母の家までは車で5時間。かなり長時間だ。
いつも途中のサービスエリアを楽しみながら、大好きな音楽を歌いながらの旅とは違い母の様子を気に掛けながらの長旅だったことを覚えている。
父は県外に単身赴任中で、すぐには戻ってこれないどころか連絡が取れないことも多かった。
どれくらい時間が経っただろうか。
車を降りたのは、弟が「トイレ!」と言った1度だけだった。それ以外は呑気に寝息をたてながら夢の世界に行っていた弟を羨ましく思った。
体感は1日。だが、時計を見ると4時間も経っていなかった。
途中、サービスエリアに寄らなければこのくらいの時間なんだなと清香は初めて知った。
到着したのは、いつもの自然溢れる景色が広がる祖父母の家ではなく、なんだかひっそりとした大きなコンクリートの建物だった。
その入り口には、大きく
[森林総合病院]
と書かれていた。
清香はどうしても病院という場所が苦手だった。
だった...ではなく、大人になった今でも苦手だが...
看護師さんに部屋を聞き、受付を済ませる。
部屋に行くと、ベッドから身体を起こした祖父がこちらに視線を向けた。
「お父さん」
と母が駆け寄る。近くには祖母も居た。
「よくきたね。」
上手く言葉が話せない祖父に代わって、祖母がいつもの優しい声で迎えてくれた。
弟と私は、病院の独特な匂いと空間に緊張し無言になる。
母が何を話していたか覚えてないないが、祖父が瞼をゆっくり閉じたり開けたりして相づちを打っていたのを覚えている。
数時間たった頃、弟が病室で過ごすことに飽きてきた。
「ねぇ、おじいちゃんの家行かないの?」
「今日はここに泊まるのよ。」
私はギョッとした。
ただでさえ苦手な病院で寝泊まりするなど、どう考えてもその時の私にとっては耐えることなどできなかった。
「おじいちゃん家で寝る。」
この一言を言い放った自分を、私は未だに許すことができないでいる。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。




もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる