もしもが叶う世界なら...

Koala(心愛良)

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Kiyoka's story

第2話 Kiyoka-2

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「え、じゃぁもし...」
という内容の薄いラジオをダラダラと聞かされながら、バスは終点に着いた。

「早~い!もう着いちゃった。」
と、残念がっているが清香にとってはいつもの3倍くらいの時間に感じる長旅でどっと疲れた。
すぐに降りたいところだが、あいにく荷物が多いため最後に降車したい。
こんな状況でも、降車口を塞き止めないようにとバカップルを気遣う自分を誉めてあげたいものだ。


人は〔もしも〕の話を妄想したり、話したりするのが好きだ。清香の友人達も「もしも芸能人の●●と出会ったら、付き合ったら、結婚したら...」とヘタしたら生涯を終えるまでの妄想で何時間も盛り上がっている。
それに当たり障りなく付き合うのだが、嬉しそうににやけたり、デレッと照れたり友人の百面相に付き合うのは悪い気はしない。(平和だな~)と思いながらいつも眺めている。
バスを降りてもなお、もしも話を続けながら前を歩くバカップルも、程よい距離感ができたからかだんだん微笑ましく思えてきた。


耳にする〔もしも〕の話は、いつも大抵この先の願望を語っているものばかりだ。
〔もしも〕の続きには、この先こんなことが起きたら、こんなことができたら、こんな風になれたらがたくさん詰まっている。
今日だって、先生から進路の話が出た時は進学、就職、目標、夢、まだ決まっていない人でさえ先を考えていた。

多分。私を除いては..

私が〔もしも〕なんて先のことを考えても無駄だと、最初に思ったのはいつだっただろうか。
正確にいえば、〔もしも〕を考えたくないと思ったのはいつだっただろうか。

あるとき、まだ十数年の人生なのに〔もしも〕の先に思い浮かぶことが過去のことしかないことに気づいた。
もしもあの時こうしていれば、もしもあんなことを言わなければ、もしも気付いていたら...
希望や願望ではなく、夢のような妄想でもなく、後悔のみ。

【もしも、あの時私が帰りたいって言わなかったら...】

小学生だった私は、やり直しのきかないワガママを言ってしまった。子どもだったからとか、そんなこと気にしてもしょうがないとか、誰かに話してしまったら私を慰めるために色々言ってくれるだろう。

そうなると、許されるために話したみたいになるのが嫌で、許されたくなくて誰にもこの後悔を話したことはない。


似たような後悔を、テレビで人気タレントが話していた時、共演者は「重く考えすぎだ!ネガティブだね。」と笑っていた。同じく笑って「ですよね~」とそのタレントは返していたが、なんとなく顔では笑って心で泣いているように見えた。
きっと、テレビ用ではなく本当の後悔だったんだろう。
清香キヨカは、母が料理をしながら耳で聴いていたであろう番組からさりげなくチャンネルを変えた。


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