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第8章
不死鳥 フェニックス ★
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ディアナがビーストモードを発動させ、フェニックスに駆け寄り鋭い突きを放つ。しかし、ディアナは身体ごとフェニックスの身体をすり抜け炎に包まれる。
「ぐあっ……!!」
ディアナがすぐにその場を転がり消火する。
「!!!? 実体がないのか!? そんな……! それじゃあ、どうやってダメージを与えればいいんだ!?」
フレイヤが驚きながら話した。
すぐにディアナが槍の切っ先に闘気を集めて闘気の刃をフェニックスに向けて飛ばす。
「虚閃!!」
闘気の刃はフェニックスに直撃するが、先程同様にフェニックスの身体をすり抜けるだけで全く効果がない。
「ちっ……!」
ディアナが舌打ちをした次の瞬間、フェニックスが羽を広げ、それをディアナの方に向けて振った。
フェニックスの羽から無数の炎の塊が飛ばされ、ディアナは何とか全てを躱す。
フェニックスは間髪入れずに口に炎を溜めてディアナに放とうとしたが、フレイヤが瞬時にビーストモードを発動させ、闘気の刃をフェニックスの顔目掛けて放ち、口に溜めていた炎の塊を爆発させる。
ドガーーーーン!!
「リリィ! フェニックスの身体には闘気の刃は無効だが、奴が闘気を込めて放つ力は、こちらの闘気技で相殺出来る!」
フレイヤがディアナに向かって叫んだ。
「あとは攻撃手段だな!」
ディアナがフェニックスを見つめて叫んだ。
(しかし、私達は2人とも近接戦闘を得意とするタイプだ……。魔法での攻撃が有効だと思うが、私もリリィも魔法は…………)
フレイヤはそこまで考えた時に何かを思い出して、ディアナに向かって叫んだ。
「リリィ、水の分身を作った時のように、特殊スキルで奴を攻撃出来ないか?」
ディアナは槍の切っ先に闘気と氷の塊を作って応えた。
「もうやっている! あと少し時間がかかる! フレイヤ、フェニックスの注意を引き付けてくれ!」
「分かった!」
フレイヤは頷いた後、フェニックスに向かって走り出す。
フェニックスはフレイヤの方を向いて羽を羽ばたかせ、無数の炎の塊を放つ。
フレイヤは闘気を込めた槍で炎の塊を斬り落としたり、ギリギリで躱して対応していく。
すぐにディアナがフレイヤに向かって叫ぶ。
「フレイヤ、そこを退け!」
フレイヤはディアナの叫びを聞いて横に飛び退き、ディアナを見つめた。
ディアナは槍に氷を纏わせた状態で神速を使い、一瞬でフェニックスとの距離を詰める。すぐに氷を纏った槍でフェニックスを突くと、フェニックスが悲鳴を上げる。
「キィィィィーーーー!!」
「やった! 効いてる!!」
フレイヤが喜んで話した瞬間、フェニックスの目つきが変わり、身体を輝かせた。
「!!!? 何のつもりだ……!?」
ディアナが突きながら呟いた時、フレイヤが慌てたように叫ぶ。
「リリィ! 逃げろっ!!」
次の瞬間、フェニックスが中心から爆発し、周囲に高温の熱を放射して砕け散った。
「きゃああ……!!」
ディアナが爆発に巻き込まれて、身体中に火傷を負って吹き飛ばされる。
「リリィ!!」
慌ててフレイヤが駆け寄り、レポーゼの小瓶の中の液体をディアナに振りかけ、消火と回復を同時に行う。
「リリィ、大丈夫かい?」
フレイヤが尋ねると、ディアナが目を開けて応える。
「だ、大丈夫だ……。それより、フェニックスは……?」
ディアナに問われ、フレイヤが先程フェニックスが爆発した場所を見ると、爆発の中心部に炎が集まり、鳥の姿に形成されてゆく。
「くそっ……! また復活する! そういえばフェニックスは不死身だ。先程のように自爆のような荒技を使っても死なないんだ!」
フレイヤが慌てように話した。
ディアナが起き上がり槍を構えて話す。
「しかし、奴の体力は有限だった筈! 死ななくてもダメージを与え続ければ、弱る筈だ! その時、薬草を回収し、この場から撤退すればいい」
「リリィ、それなら、もう一度あの技を使えばダメージを与えられる! しかし、注意するんだ! 恐らくフェニックスは間隔を空ければ何度でもあの自爆技が使える! 今度は巻き込まれないように事前に飛び退くんだ!」
フレイヤがディアナに向かって話した瞬間、フェニックスは羽を広げて天高く舞い上がった。
「なっ!? これでは攻撃が当たらない!」
フレイヤがフェニックスを見上げて話した。
ディアナが脚に闘気を溜めてジャンプする。
「無理だ……! いくらディアナでも届きっこない!」
フレイヤがディアナを見て呟く。
ディアナはフレイヤの予想通りフェニックスに届く前にジャンプの勢いが落ちる。
しかし、次の瞬間、ディアナは槍を振って氷の闘気の刃をフェニックスに向けて飛ばした。虚を疲れたフェニックスは旋回して躱そうとするが、羽に氷の闘気の刃が当たり凍りついて悲鳴を上げる。
「キィィィィーーーー!!」
フェニックスが苦しそうに落下し始めた。
「フレイヤ、今だ!」
ディアナがフレイヤに向かって叫んだ。
フレイヤは凍りついた羽を見て頷いた。
「ファントムモード!!」
フレイヤの周りは湯気の様なものが激しく立ち込め、白髪が銀色に光を纏って輝き出した。
フレイヤは瞬時にフェニックスの落下地点に移動し、闘気を高めて叫んだ。
「閃雷槍!!」
フレイヤはディアナが凍らせた羽目掛けて強力な突きを繰り出し貫いた。
「キィィィィーーーー!!」
フェニックスが地面に倒れる。
「やったか!?」
「やったか!?」
ディアナとフレイヤが地面に着地して同時に話した。
フェニックスが地面に倒れたまま、苦しそうにバタバタ暴れているのを見て、ディアナは神速を使い、畑のように広がる薬草の場所まで移動して摘み取ろうとした。
しかし、それを見たフェニックスがまた身体を輝かせ始めた。
「リリィ! 自爆する!! そこから離れるんだ!!」
フレイヤの叫び声を聞き、ディアナはその場を離れようとしたが、足元を見てそれをやめた。
「!!!? リリィ、なぜ逃げない!? 危険だ!!」
フレイヤが慌てて叫んだ瞬間、フェニックスが身体を爆発させ、爆風がディアナに襲いかかる。
ディアナは闘気を高めて地面に槍を突き刺し、自身の周りを守るように闘気の繭を作り出した。
ゴォオオオーーーー!!
爆風がディアナの闘気の繭に直撃し、闘気の繭に徐々にヒビが入る。
なんとか爆風を防いだディアナだが、完全に衝撃を相殺出来ずにその場に膝をつく。
「ぐっ!!」
「リリィ……!!」
フレイヤがディアナの足元を見るとディアナの周囲だけ薬草が守られるように無傷で残っていた。
(そうか! 熱風で薬草が燃えるのを防ぐ為に……!)
フェニックスは先程同様に、爆発の中心部に炎を集めて自身の姿を戻していく。
「くそっ! リリィは薬草を守る為にあそこを離れられない! だからといって、私ではファントムモードでも奴にダメージを与える事は不可能だ。どうすれば……」
フレイヤが考えている隙にフェニックスは完全に姿を戻して先程同様に天高く舞い上がった。
「さっ……、さっきよりも更に高い位置まで……! あれだけ離れていてはリリィの氷の闘気の刃を飛ばす技も躱されてしまう!
今のうちに薬草を回収して逃げようとしても奴はそれを許してはくれないだろう……!」
フレイヤが話し終えると同時に、フェニックスが羽を広げて炎の塊を広範囲に降らせる。
「フレイヤっ!」
ディアナがキースの方を向いて叫ぶと、フレイヤはキースに向かって慌てるように移動する。
「くそっ!」
フレイヤが倒れているキースの側まで移動して、闘気を込めた槍で炎の塊を相殺させていく。
ディアナは足元の薬草を守るように槍を振り回す。
2人はなんとかフェニックスの攻撃を防ぎきるが、すぐにフェニックスは先程同様に羽を広げて炎の塊を降らせ始めた。
「まずい! リリィ、このままではフェニックスに攻撃を与えられないまま、体力だけを消耗してしまう! 何か良い手はないか……!」
フレイヤが炎の塊を処理しながら叫ぶ。
「…………一つだけある! ……フレイヤ、5分程時間を稼げるか? 5分間だけ父さんとこの薬草、そして私をフェニックスの猛攻から凌いで欲しい!!」
ディアナも炎の塊を処理しながら叫んだ。
「難しい注文だね……」
フレイヤがディアナを見つめて応える。
「出来ないのか!? お前ならやれると思ったのだが」
ディアナが尋ねるとフレイヤ微笑んで応えた。
「私を誰だと思ってる?」
次の瞬間、フレイヤはキースを抱えてディアナの側に移動し、呟いた。
「絶技! 完全絶対反撃領域!!」
パァアーーーーン!!
フレイヤの周りの闘気が弾ける。
「リリィ! 私の槍にだけ闘気を込めてくれ!」
「そうか! 完全絶対反撃領域なら、フェニックスの攻撃くらい全て防げる!」
ディアナが頷いてフレイヤの槍に闘気を込める。
フレイヤはフェニックス攻撃からディアナ、キース、足場の薬草を同時に守り始めた。
「あとは任せたよ、リリィ!」
フレイヤがフェニックスの攻撃を防ぎながら叫んだ。
「ああ! 任せろ!!」
ディアナはそう叫ぶと、すぐに槍に氷の闘気を纏わせ、フェニックスに向けて上空に放った。
「リリィ!?」
フレイヤは完全絶対反撃領域でフェニックスの攻撃を防ぎながら不思議そうにディアナを見つめた。
(ただでさえさっきより上空に逃れているのに、地上から闘気技を放っても当たる筈がない! 簡単に躱されてしまうのはリリィでも分かる筈なのに何故……?)
フェニックスはフレイヤの予想通り、難なくディアナの氷の闘気技を躱す。
ディアナはそれでも何度も同じようにフェニックスに向けて氷の闘気技を放った。
しかしフェニックスはディアナの全ての攻撃を躱し、炎の塊を降らせる。
炎の塊はフレイヤの完全絶対反撃領域で完全に防げるが、フェニックスにもダメージが与えられず、時間だけが経過していく。
ディアナが空中に放った氷の塊は勝手に砕けて空気中に舞って消えたものと、フェニックスの熱に当てられ溶けて消えたものがあった。
ディアナが攻撃を開始して4分が経過した頃、ディアナが攻撃を止め、槍を空に掲げて瞳を閉じて何かを呟き始めた。
(詠唱……? エリーナ様から受け継いだ新たな特殊スキル……!?)
フレイヤがフェニックスの攻撃を防ぎながらディアナを見つめた。
ディアナがフレイヤに約束させた5分が経過した頃、ディアナが瞳を開いて叫んだ。
「驟雨烈槍!!」
次の瞬間、フェニックスの上空に雨雲が出現する。
「まっ……! まさか、天候を操ったというのか!!」
フレイヤが上空を見つめながら驚いて話した。
フェニックスの上空に出現した雨雲から大量の雨が降り、フェニックスは動きが鈍って悲鳴を上げた。
「キィィィィーーーー! キィィィィーーーー!!」
落下するフェニックスを見て、ディアナが構え直して叫んだ。
「絶技……! 白王馬!!」
ディアナが落下するフェニックスに向かってジャンプし、白王馬を放つ。大量の雨で身体中を濡らしたフェニックスにディアナの攻撃が当たり、フェニックスは今までで1番大きな悲鳴を上げた。
「ギィエエエエーーーー!!」
地面に落ちたフェニックスはそのまま動かなくなった。
フェニックスの後に地面に着地したディアナはビーストモードが解け、その場に膝をついた。
「はぁ……! はぁ……! 倒した!!」
「リリィ! やったな!!」
フレイヤが笑顔に変わり、完全絶対反撃領域を解除して駆け寄る。
「大丈夫かい?」
「ああ……、大分やられたが、ギリギリなんとかなったな……」
ディアナが座り込んで応えた。
「それにしても驚いたよ! 私との戦いでは水の分身を作り出す程度しか魔素を使ったスキルはなかった筈なのに、今回は氷を槍に纏わせた闘気技や、放出タイプの技、最後は天候を操る程の特殊スキルを発動させるなんてね!」
フレイヤが目を輝かせて話した。
「お前との戦いを経て私のレベルが急激に上がり、エリーナ様から受け継いだ特殊スキルがかなり増えたからな! しかし……、最後の天候を操るスキルは実はまだ未完成だったんだ」
ディアナがフレイヤを見つめて話した。
「最後のは未完成だった……? どういう事だい?」
フレイヤが不思議そうに尋ねる。
「私はまだ驟雨烈槍を本来扱えないんだ」
ディアナが微笑んで応える。
「し、しかし君は実際、そのスキルを発動させたじゃないか!」
「大量の雨を降らせる驟雨烈槍を発動させるには、まず大気中に氷晶と水蒸気を発生させる必要がある。それには氷の魔素と、炎の魔素を生み出す必要があるが、私には炎の魔素を作り出すスキルの習得がまだだったのだ。だから奴自身を利用したのさ」
ディアナが倒れて動かなくなったフェニックスを見つめて話した。
「そうか! 上空高く舞い上がっていたフェニックスに対して氷の闘気技を放っていたのは、氷の塊を大気中にばら撒き、闘気の遠隔操作でその塊を小さく砕いて氷晶を作る為と、フェニックス自身から発せられる炎の熱で水蒸気を作り出す為か!」
「ああ! 奴が氷や水を浴びれば闘気を纏ってダメージを与えられる事が分かってから、この方法を考えていたのだが、その状況を作り出すのに時間がかかり過ぎるから黙っていたんだ。試した事も無かったから苦し紛れの策というやつだ……。まあ、成功して良かったよ」
「全く……! そんな作戦を考えてたなんてね……。いつもお前には驚かされるよ」
「とりあえず、フェニックスが復活する前に薬草を回収して、父さんを連れて村に帰ろう!」
ディアナがゆっくり立ち上がって話した。
「ああ、そうだね」
2人はすぐに薬草を腰袋に詰めた。
すぐにフレイヤがキースを背負って立ち上がったのを見てディアナが口を開く。
「任せていいか?」
「ああ、勿論。君の方がダメージが大きい。父さんは私に任せてくれ」
2人が山を降りようと歩き出した瞬間、背後に気配を感じ、2人は後ろを振り返る。
そこには傷を完全に癒し終えたフェニックスがディアナとフレイヤを睨んで立っていた。
フェニックスが口を開けて炎を吐こうとした時、ディアナがキースを背負ったフレイヤを横に突き飛ばす。
「リリィ!!」
フレイヤは、フェニックスの炎を無防備で受けたディアナを見て叫んだ。
その場に膝をついて苦しそうにしながらディアナが話す。
「……に、逃げてくれ、フレイヤ。……薬草と父さんを頼む……」
「駄目だ! 君を置いてはいけない!」
フレイヤがキースを地面に置こうとしたのを見てディアナが叫んだ。
「早く、行け! 私が時間を稼ぐ!」
震える身体をなんとか立ち上がらせて、ディアナはフェニックスに突撃する。
「やめろ、リリィ!」
フレイヤが叫ぶがディアナは自分にフェニックスの注意を引きつける為、聞く耳を持たない。
ディアナはフェニックスに近づくと、神速の連用で周囲を飛び回った。
(無茶だ! 特殊スキルを何度も使用し、その直後に絶技を使用した。それにディアナはフェニックスの攻撃を何度も受けてしまった! もう限界の筈だ!)
フレイヤが冷や汗を流して立ち上がり、ディアナに言われた通り背を向けてその場を去ろうとした時、背後からフェニックスの鳴き声が響く。
「キィエエエーーーー!!」
フレイヤが足を止め振り返ると、フェニックスが身体を輝かせて自爆前の体勢をとっていた。
「リリィ、逃げろ!」
次の瞬間、フェニックスは大爆発を起こし、周囲を吹き飛ばす。
フレイヤは槍に闘気を集めて地面に刺し、闘気の壁を前方に作り出して爆発の衝撃を殺した。
爆発が止み、周囲の爆煙が晴れてくるとフレイヤは周囲を見渡してディアナを探した。
「リリィ! どこだ!? 返事をしてくれ!」
爆煙が完全に晴れると、フェニックスの10mほど先の地面に倒れて動かないディアナの姿があった。
「リリィ!」
フレイヤが駆け寄ろうとすると、フェニックスが翼を広げて炎の塊をフレイヤに放つ。
「くそっ!」
フレイヤは炎の塊を闘気を込めた槍で撃ち落としていく。
その隙にフェニックスはディアナの方を振り返り、近づいていく。
「やめろ! リリィに手を出すな!!」
フレイヤが炎の塊を撃ち落としながら叫ぶがフェニックスは歩みを止めない。
ディアナの側までフェニックスが歩み寄り、口に炎を溜め始めた時、フレイヤとフェニックスは驚愕する。
ディアナの身体中を光の粒が護るように輝き出す。それと同時にディアナが震えながらゆっくり立ち上がり、槍を構え直した。
異常な光景に後退りしたフェニックスは、慌ててディアナに向けて炎の息を放つ。
ディアナはその炎目掛けて突きを放つ。
「リリィ!」
フレイヤが心配して叫んだ時、ディアナの周囲を煌めいていた光が、フェニックスの炎をかき消し、ディアナの槍に宿る。
次の瞬間、ディアナの突きがフェニックスの左目に直撃し、フェニックスは悲鳴を上げた。
「ギィエエエエーーーー!!」
フェニックスはその場に座り込み、驚いた表情で目の前に立つディアナを見つめた。
フェニックスを睨むディアナの周囲を飛ぶ光の粒はより一層輝きを増し、ディアナを守護した。
フェニックスはそれを見て更に驚いた後、ディアナに向かってゆっくり頭を垂れた。
次の瞬間、ディアナの周囲の光の粒が消え、ディアナはその場に倒れた。
「リリィ!」
フレイヤがキースを背負ったままディアナに駆け寄る。
ディアナはフェニックスから受けた攻撃により身体中が重度の火傷状態となっていた。
「まずい! このままじゃ、リリィは……」
フレイヤが慌てて怪我の状態を確認していると、フェニックスがディアナを見ながら近づく。
フレイヤがディアナとフェニックスの間に入って両手を広げて叫んだ。
「やめろ! これ以上、私の可愛い妹に少しでも手を出してみろ! 貴様の息の根を止めてやるぞ!!」
フェニックスが困惑して表情で歩みを止めると、フレイヤの背中から声が響いた。
「……フレイヤ、フェニックスを通してあげなさい」
「父さん!?」
フレイヤは背負っていたキースが目覚めた事に気づいて驚いて話した。
「フレイヤ、フェニックスを通してやるんだ」
キースが優しく呟く。
「しかし父さん奴は……!」
フレイヤが話すとすぐにキースがフェニックスを指差して優しく話した。
「目を見てみなさい……。彼女にもう敵意はない。彼女はリリィを認めたのだ。信じなさい……」
キースに言われた通り、フレイヤが落ち着いてフェニックスを見つめると、先程と違い優しい瞳でディアナを見つめるフェニックスの姿があった。
フレイヤはキースを信じてその場を退くと、フェニックスはゆっくりディアナに近づいて羽を広げる。するとフェニックスの羽から黄色の光がディアナに向けて降り注ぎ、ディアナの全身の火傷を癒していく。
「これは……!?」
フレイヤが驚きながらフェニックスの行動を見守る。
フェニックスの癒しの羽はディアナの火傷だけでなく古い傷口も瞬時に治して見せた。
少ししてディアナが瞳を開けてフレイヤを見つめる。
「フレイヤ……」
「リリィ……、良かった」
フレイヤが涙を溜めて呟いた。
ディアナはゆっくり立ち上がり、自身を癒したフェニックスを見上げて呟いた。
「そうか……、お前はずっと待っていたんだな……」
ディアナが悲しそうな表情で呟いた。
キースがフレイヤの背中から降りてディアナに近づき話しかける。
「リリィ、フェニックスは、やはりこの山を支配する為に居ついた訳ではないんだな?」
ディアナがキースに気づいて口を開く。
「父さん……!
……うん、フェニックスには害意はなく、神聖な空気が流れるこの山で、ずっとある人を待っていただけ……。
だから山の動物やモンスター達は怯えて生息域を変えるような事はせずに普段通りに生活していたの」
「ある人を待っていた……? 戦神程の力を持ったフェニックスが誰を待ってたと言うんだ?」
フレイヤが不思議そうに尋ねる?
「簡単な事だよ、フレイヤ。
フェニックスは自分の主であるエリーナ様をずっとここで待っていただけだったんだ……」
ディアナが少し悲しそうに微笑んで応えた。
「そうか……、だから私のトドメを刺す事に拘らなかったのか……。それでは危険と勝手に判断して戦いを挑んだ私達の方が悪かったようだな……。
……戦神フェニックス……、本当に済まなかった。許してほしい……」
キースはそう言うと頭を下げた。
フレイヤもキースを見て頭を下げる。
「フィーーーーン!」
フェニックスが鳴くと、ディアナが微笑んで口を開く。
「もう、気にしてないってさ」
「言葉が分かるのか!?」
フレイヤが驚いて尋ねる。
「エリーナ姉様の光の粒が表に出てからフェニックスの言葉が分かるようになった。
フェニックスもあの時、感じ取ったんだよ。私の中にエリーナ姉様がいる事を!」
ディアナが涙を溜めて話した。
「キィエエーーーーン……!」
フェニックスが涙を零して鳴く。
ディアナがフェニックスを抱きしめて涙を零しながら呟く。
「お前も悲しかったんだな……。愛する主を失った事が……。
だから、魂だけでも迎えに来てくれる事を願って……、ずっとここで待っていたのか……」
「キィエエーーーーン……!」
フェニックスが涙を流しながら何度も澄んだ空に鳴き声を響かせる。
「もう大丈夫だ……! お前の想いは私の中にいるエリーナ姉様にも届いた……。さあ……、お家に帰るんだ」
ディアナがそう呟くと、フェニックスは、身体を小さくしながら、ディアナの中に吸い込まれるように消えていった。
辺りに静寂が訪れ、暫くしてフレイヤが口を開く。
「終わったな……、リリィ」
涙を拭いて、フレイヤの方を振り向いてディアナが応える。
「ああ……、私達も帰ろう! 帰るべき処へ」
◇ ◇ ◇
ディアナとフレイヤはフェニックスの死闘の後、キースを連れて無事、村に帰還した。
ディアナとフレイヤが回収した薬草と数種類の薬品を調合したダイアナの病気に効く薬は、すぐに効果を発揮し、ダイアナは1日で元気を取り戻していた。
「ダイアナおばさん、すっかり元気になったねレム!」
「うんうん、すっかり元気になったからまた、鍛えて貰えるね!」
嬉しそうにリムレムが話した。
「リムとレムがずっと看病してくれたお陰ね! 本当にありがとう」
ダイアナが微笑んで自分の側にいるリムとレムの頭を撫でた。
「これで、またパンダ狩りが出来るねリム?」
「今度こそ、親パンダもやっつけようねレム」
リムレムがそう言うと、ダイアナが2人の頰をつねって口を開く。
「だからそれをやめなさい! お前達はいい加減、懲りなさい!」
「「うぇ~! やっぱりダイアナおばさん元気じゃない方がいいよ~」」
リムレムが涙目になりながら同時に話したのを見て、ディアナ、フレイヤ、キースが笑う。
「そうだ、リムとレム。母さんを看病してくれたお礼に、私とリリィでお前達の修行を見てやろうか?」
フレイヤが微笑んで尋ねる。
リムレムが顔を見合わせて鼻で笑って口を開く。
「悪者のお兄ちゃん、私達に教えられる程、強いの? 私達、"ゔぁいす"なんだよ? ねー、レム?」
「そうそう、悪者のお兄ちゃんなんてパンダにも勝てないんじゃないの? 別にダイアナおばさんに教えてもらうからいいよね、リム?」
「な、なんだと、こいつら!」
フレイヤがムカっとした表情で話した時、玄関からノックの音が聞こえる。
「あら? この時間帯にお客さんなんて珍しいわね」
ダイアナが玄関まで行き、扉を開けて外の者と少し話をするとリムレムの方を振り返って、口を開いた。
「リム、レム。お前達にお客さんだよ」
リムとレムが外に出ると子供と大人の熊猫族が待っていた。
「リンリン!? なんでここにいるんだ?」
リムが驚いて熊猫族の子供を指差して話した。
「この前は2対1でお前達に泣かされたから、私もお姉ちゃんを連れて来たんだ! 勝負しろ!」
熊猫族の子供リンリンが涙目で叫んだ。
「リンリンが先に私達が"ゔぉいす"を名乗っている事を馬鹿にしてきたんじゃないか!」
レムが慌てて叫ぶ。
「そ、そうだよ! "お前達は臆病者で弱いからいつも2人でいる! だから2人でかかって来い"って馬鹿にしたのはリンリンだろ!」
リムも慌てて叫ぶ。
するとリンリンの側にいた大人の熊猫族が口を開く。
「それが本当だったとしても泣かせるまでやる必要があったのかい? 確かにリンリンにも悪い部分はあったけど、君達は泣いて謝るリンリンを2人で痛めつけた。だから今度は2対2で決着をつけようって事だよ。
勿論、勝負は受けてくれるよね?」
大きくて筋肉質の身体をした大人の熊猫族を見て、リムレムは涙目になって黙ってしまった。
「その勝負は公平じゃないね!」
背後から声がして、リムレムが振り返ると玄関から出てきたディアナの姿があった。
「「お姉ちゃん!!」」
リムレムが涙目で叫ぶ。
ディアナを見た大人の熊猫族がディアナに話しかける。
「貴方、この子らのなんだい?」
「この子らは私の可愛い妹みたいなもんでね。話を聞いてたら、大人の貴方が子供の喧嘩に混ざって勝負しようなんて言うから余りにも卑怯だと思ってね……」
ディアナがニヤリと笑って応えた。
「何が卑怯か!! そう言って勝負から逃げる気かい?」
大人の熊猫族が怒ったように叫ぶ。
「逃げる? いやいや、私は公平な勝負をしようと言っているんだよ。
……本来、子供の喧嘩は子供達で始末をつけるもんだが、大人の貴方が顔を突っ込んだ時点で話が変わってしまっている。
だから……、私と貴方の一騎打ちで勝負をつけようっていうんだよ」
ディアナが笑ったまま話した。
「ははははは……! 熊猫族最強の私に一騎打ちだと!? 良いだろう! お前から言ったのだ! もう勝負の取り消しは出来んぞ!」
大人の熊猫族が笑って応えた。
暫くした後、フレイヤ、キース、ダイアナも外の騒ぎを聞きつけ、様子を見に来た。
「全くあの子は昔から変わらないわね……」
ダイアナがため息を吐いて話した。
「若い頃の君、そっくりだ」
キースが微笑んで話すと、ダイアナが顔を赤くして応えた。
「……もう! 貴方ったら!」
「なんか、あの熊猫族……、見た事あるな……」
フレイヤがディアナと相対している大人の熊猫族を見つめて話した。
「お姉ちゃん……、もういいよ。
あの人めちゃくちゃ強いんだ。今謝れば許してくれるよ」
リムがディアナの後ろから話しかける。
「そうだよ、お姉ちゃん。謝ろうよ……」
レムは涙目で話しかける。
槍を構えたディアナが振り返って微笑んで応える。
「ふふ……、大丈夫だよ。必ず勝つから離れて見てな」
その瞬間、大人の 熊猫族が後ろを向いたディアナに向けて槍を突き出す。
「「危ない、お姉ちゃん!!」」
リムレムが同時に叫ぶ。
大人の熊猫族が放った槍がディアナの脇腹に刺さる。
「リリィ!?」
ダイアナが慌てて叫ぶと、フレイヤがダイアナの前に掌を向けて口を開いた。
「大丈夫、母さん。リリィをちゃんと見てみて!」
「どうだ! 開始の合図はなっていた! 卑怯とは言わせんぞ!」
大人の熊猫族がディアナを見て話すと、ディアナの身体が炎に変わり、その炎が大人の熊猫族を襲う。
「きゃああ!」
「もういいよ、フェニックス」
いつの間にか熊猫族の背後に回り込んでいたディアナの身体に熊猫族を襲っていた炎が吸い込まれる。
「はぁ……。はぁ……。貴様、今、何をした!?」
驚いたように叫ぶ大人の熊猫族。
「炎の分身だよ。フェニックスが私と一緒に戦いたいというものだから少し遊んでやったのさ」
ディアナが微笑んで応えるとリムレムが目を輝かせて叫んだ。
「カッコいいーー!!」
「炎の分身……!? フェニックス……!?
なんだその怪しい技は!? 卑怯だぞ!」
大人の熊猫族が立ち上がってディアナに襲いかかる。
「今さっきのでもまだ実力の差が分からないの? 幼い頃から変わったのはパワーだけかい?」
ディアナが微笑みながら大人の熊猫族の槍を連続で躱していく。
「あの 熊猫族の子も相当強いけど、リリィは格が違うわね……。本当に強くなった」
ダイアナが驚きながら話した。
「く、くそ! こうなったら私の最強の技をくらいな!」
大人の熊猫族が闘気を高めて槍を突こうとした瞬間、ディアナが目の前から一瞬で消えて、大人の熊猫族の喉元に槍の切っ先を突きつけた。
「また遊ぼうね、ランラン」
ディアナが笑顔で話すと、大人の熊猫族ランランはハッとした表情に変わり、尻餅をついて話した。
「き、貴様……、いや、貴方はリリィ!? なぜここに!?」
「ちょっと用事があってね……。大丈夫? 怪我は無かった?」
ディアナがランランの手を引いて立ち上がらせる。
ランランがディアナの槍を見て、ビクッと後ろに飛び退き、怯える様に震える。
「お、お姉ちゃん!? どうしたの?」
リンリンが異常に怯えるランランを見て尋ねる。
ここでフレイヤもハッとした表情に変わり話した。
「そうか! 彼女はランランだったのか!」
「リリィとランランは昔何かあったの?」
ダイアナがフレイヤに尋ねる。
「ふふふ……。昔、この村周辺でパンダ狩りの噂が一時的に流れたでしょう? その犯人がリリィで、その被害者があのランラン。
当時リリィは、各部族で最強の子供と呼ばれていたランランに挑みたくて、熊猫族達が狩りなどで活動している西の森に赴いてパンダ狩りならぬ、熊猫族狩りをやっていたんだよ。
ランランはリリィに挑んだけど、100戦全敗。最後の方はリリィを見るだけで怯えるようになってたなぁ」
フレイヤが苦笑いしながら話した。
キースとダイアナが顔を見合わせてため息を吐いた。
リムレムがフレイヤの話を聞いて、ディアナを見つめ、目を輝かせる。
「「リリィお姉ちゃん、カッコいいーー!!」」
ランランは身体を震えさせて話す。
「わ、私達が悪かったよ……。お願いだから、見逃してくれ……」
「お、お姉ちゃん……?」
リンリンが今まで見た事もないランランの怯えようを見て話した。
ディアナがその様子を見て、優しく話しかける。
「見逃すなんて……。ランラン私達は昔を懐かしんで軽く手合わせしただけでしょう?
もう少しで私が負けるところだったわ」
ディアナが気を使ってくれている事に気づいてランランは警戒をゆっくり解き、口を開いた。
「……ああ、そうだね。恩に着るよ」
ゆっくり引き返すランランに向かってディアナが声をかける。
「ランラン! また遊ぼうね!」
ランランはゆっくり振り返り、苦笑いしながら口を開いた。
「え、遠慮しておく……」
「あり……? 嫌われちゃったかな?」
ディアナが呟くとフレイヤがツッコむ。
「いや、あれだけ痛めつけといて嫌われていないと思ってたのかい……?」
少しして、リムレムがディアナに駆け寄り目を輝かせて話した。
「リリィお姉様がパンダ狩りの始祖様だったの?」
リムが興奮気味に尋ねる。
「リリィお姉様が獣人族最強なの?」
レムが興奮気味に尋ねる。
「そうそう、私がパンダ狩りの始祖だよ~」
ディアナが腰に手を当てて偉そうに話した。
「「ははぁ~、始祖様~!」」
リムレムが跪いてディアナを崇める。
「いつの間にか、パンダ狩り教が設立した……」
フレイヤが呆れた顔で話した。
「リムレム! そしてパンダ狩りの始祖である私にはもう一つの秘密がある! 知りたいか~!」
ディアナがふざけながら話した。
「「教えてくださいませ、始祖様~!」」
リムレムが土下座しながら話した。
「何を隠そう私こそが公式に認められた最後の宿す者である!」
ディアナがニンマリ笑って話した。
「えーー!! パンダ狩りの始祖様でありながら、選ばれた者しかなれない"ゔぁいす"様であられたのですかーー!?」
リムが両手をあげて驚く。
「す、凄い! "ゔぉいす"様! どこまでもついて行きます!」
レムも両手を上げて話した。
ディアナが楽しそうに笑って話す。
「でも、単純な槍術なら私より凄い人が1人だけいるよ!」
ディアナがリムレムに話すと、興奮気味でリムレムが食いつく。
「「リリィお姉様より凄い人って誰?」」
それを聞いたディアナは微笑みながらフレイヤを指差して口を開いた。
「あそこのフレイヤお兄ちゃん!
あの人こそ真の宿す者だった人で、槍術だけなら私より強い人だよ!」
リムレムが興奮気味にフレイヤに駆け寄り、尊敬の眼差しを向ける。
「お前ら、私の事、悪者とか言ってなかったか?」
フレイヤが睨んで話すとリムレムは同時に応えた。
「「フレイヤお兄様……!」」
リムレムの身の代わり様に呆れたようにフレイヤが呟いた。
「全く、調子の良い奴らだ……」
「ぐあっ……!!」
ディアナがすぐにその場を転がり消火する。
「!!!? 実体がないのか!? そんな……! それじゃあ、どうやってダメージを与えればいいんだ!?」
フレイヤが驚きながら話した。
すぐにディアナが槍の切っ先に闘気を集めて闘気の刃をフェニックスに向けて飛ばす。
「虚閃!!」
闘気の刃はフェニックスに直撃するが、先程同様にフェニックスの身体をすり抜けるだけで全く効果がない。
「ちっ……!」
ディアナが舌打ちをした次の瞬間、フェニックスが羽を広げ、それをディアナの方に向けて振った。
フェニックスの羽から無数の炎の塊が飛ばされ、ディアナは何とか全てを躱す。
フェニックスは間髪入れずに口に炎を溜めてディアナに放とうとしたが、フレイヤが瞬時にビーストモードを発動させ、闘気の刃をフェニックスの顔目掛けて放ち、口に溜めていた炎の塊を爆発させる。
ドガーーーーン!!
「リリィ! フェニックスの身体には闘気の刃は無効だが、奴が闘気を込めて放つ力は、こちらの闘気技で相殺出来る!」
フレイヤがディアナに向かって叫んだ。
「あとは攻撃手段だな!」
ディアナがフェニックスを見つめて叫んだ。
(しかし、私達は2人とも近接戦闘を得意とするタイプだ……。魔法での攻撃が有効だと思うが、私もリリィも魔法は…………)
フレイヤはそこまで考えた時に何かを思い出して、ディアナに向かって叫んだ。
「リリィ、水の分身を作った時のように、特殊スキルで奴を攻撃出来ないか?」
ディアナは槍の切っ先に闘気と氷の塊を作って応えた。
「もうやっている! あと少し時間がかかる! フレイヤ、フェニックスの注意を引き付けてくれ!」
「分かった!」
フレイヤは頷いた後、フェニックスに向かって走り出す。
フェニックスはフレイヤの方を向いて羽を羽ばたかせ、無数の炎の塊を放つ。
フレイヤは闘気を込めた槍で炎の塊を斬り落としたり、ギリギリで躱して対応していく。
すぐにディアナがフレイヤに向かって叫ぶ。
「フレイヤ、そこを退け!」
フレイヤはディアナの叫びを聞いて横に飛び退き、ディアナを見つめた。
ディアナは槍に氷を纏わせた状態で神速を使い、一瞬でフェニックスとの距離を詰める。すぐに氷を纏った槍でフェニックスを突くと、フェニックスが悲鳴を上げる。
「キィィィィーーーー!!」
「やった! 効いてる!!」
フレイヤが喜んで話した瞬間、フェニックスの目つきが変わり、身体を輝かせた。
「!!!? 何のつもりだ……!?」
ディアナが突きながら呟いた時、フレイヤが慌てたように叫ぶ。
「リリィ! 逃げろっ!!」
次の瞬間、フェニックスが中心から爆発し、周囲に高温の熱を放射して砕け散った。
「きゃああ……!!」
ディアナが爆発に巻き込まれて、身体中に火傷を負って吹き飛ばされる。
「リリィ!!」
慌ててフレイヤが駆け寄り、レポーゼの小瓶の中の液体をディアナに振りかけ、消火と回復を同時に行う。
「リリィ、大丈夫かい?」
フレイヤが尋ねると、ディアナが目を開けて応える。
「だ、大丈夫だ……。それより、フェニックスは……?」
ディアナに問われ、フレイヤが先程フェニックスが爆発した場所を見ると、爆発の中心部に炎が集まり、鳥の姿に形成されてゆく。
「くそっ……! また復活する! そういえばフェニックスは不死身だ。先程のように自爆のような荒技を使っても死なないんだ!」
フレイヤが慌てように話した。
ディアナが起き上がり槍を構えて話す。
「しかし、奴の体力は有限だった筈! 死ななくてもダメージを与え続ければ、弱る筈だ! その時、薬草を回収し、この場から撤退すればいい」
「リリィ、それなら、もう一度あの技を使えばダメージを与えられる! しかし、注意するんだ! 恐らくフェニックスは間隔を空ければ何度でもあの自爆技が使える! 今度は巻き込まれないように事前に飛び退くんだ!」
フレイヤがディアナに向かって話した瞬間、フェニックスは羽を広げて天高く舞い上がった。
「なっ!? これでは攻撃が当たらない!」
フレイヤがフェニックスを見上げて話した。
ディアナが脚に闘気を溜めてジャンプする。
「無理だ……! いくらディアナでも届きっこない!」
フレイヤがディアナを見て呟く。
ディアナはフレイヤの予想通りフェニックスに届く前にジャンプの勢いが落ちる。
しかし、次の瞬間、ディアナは槍を振って氷の闘気の刃をフェニックスに向けて飛ばした。虚を疲れたフェニックスは旋回して躱そうとするが、羽に氷の闘気の刃が当たり凍りついて悲鳴を上げる。
「キィィィィーーーー!!」
フェニックスが苦しそうに落下し始めた。
「フレイヤ、今だ!」
ディアナがフレイヤに向かって叫んだ。
フレイヤは凍りついた羽を見て頷いた。
「ファントムモード!!」
フレイヤの周りは湯気の様なものが激しく立ち込め、白髪が銀色に光を纏って輝き出した。
フレイヤは瞬時にフェニックスの落下地点に移動し、闘気を高めて叫んだ。
「閃雷槍!!」
フレイヤはディアナが凍らせた羽目掛けて強力な突きを繰り出し貫いた。
「キィィィィーーーー!!」
フェニックスが地面に倒れる。
「やったか!?」
「やったか!?」
ディアナとフレイヤが地面に着地して同時に話した。
フェニックスが地面に倒れたまま、苦しそうにバタバタ暴れているのを見て、ディアナは神速を使い、畑のように広がる薬草の場所まで移動して摘み取ろうとした。
しかし、それを見たフェニックスがまた身体を輝かせ始めた。
「リリィ! 自爆する!! そこから離れるんだ!!」
フレイヤの叫び声を聞き、ディアナはその場を離れようとしたが、足元を見てそれをやめた。
「!!!? リリィ、なぜ逃げない!? 危険だ!!」
フレイヤが慌てて叫んだ瞬間、フェニックスが身体を爆発させ、爆風がディアナに襲いかかる。
ディアナは闘気を高めて地面に槍を突き刺し、自身の周りを守るように闘気の繭を作り出した。
ゴォオオオーーーー!!
爆風がディアナの闘気の繭に直撃し、闘気の繭に徐々にヒビが入る。
なんとか爆風を防いだディアナだが、完全に衝撃を相殺出来ずにその場に膝をつく。
「ぐっ!!」
「リリィ……!!」
フレイヤがディアナの足元を見るとディアナの周囲だけ薬草が守られるように無傷で残っていた。
(そうか! 熱風で薬草が燃えるのを防ぐ為に……!)
フェニックスは先程同様に、爆発の中心部に炎を集めて自身の姿を戻していく。
「くそっ! リリィは薬草を守る為にあそこを離れられない! だからといって、私ではファントムモードでも奴にダメージを与える事は不可能だ。どうすれば……」
フレイヤが考えている隙にフェニックスは完全に姿を戻して先程同様に天高く舞い上がった。
「さっ……、さっきよりも更に高い位置まで……! あれだけ離れていてはリリィの氷の闘気の刃を飛ばす技も躱されてしまう!
今のうちに薬草を回収して逃げようとしても奴はそれを許してはくれないだろう……!」
フレイヤが話し終えると同時に、フェニックスが羽を広げて炎の塊を広範囲に降らせる。
「フレイヤっ!」
ディアナがキースの方を向いて叫ぶと、フレイヤはキースに向かって慌てるように移動する。
「くそっ!」
フレイヤが倒れているキースの側まで移動して、闘気を込めた槍で炎の塊を相殺させていく。
ディアナは足元の薬草を守るように槍を振り回す。
2人はなんとかフェニックスの攻撃を防ぎきるが、すぐにフェニックスは先程同様に羽を広げて炎の塊を降らせ始めた。
「まずい! リリィ、このままではフェニックスに攻撃を与えられないまま、体力だけを消耗してしまう! 何か良い手はないか……!」
フレイヤが炎の塊を処理しながら叫ぶ。
「…………一つだけある! ……フレイヤ、5分程時間を稼げるか? 5分間だけ父さんとこの薬草、そして私をフェニックスの猛攻から凌いで欲しい!!」
ディアナも炎の塊を処理しながら叫んだ。
「難しい注文だね……」
フレイヤがディアナを見つめて応える。
「出来ないのか!? お前ならやれると思ったのだが」
ディアナが尋ねるとフレイヤ微笑んで応えた。
「私を誰だと思ってる?」
次の瞬間、フレイヤはキースを抱えてディアナの側に移動し、呟いた。
「絶技! 完全絶対反撃領域!!」
パァアーーーーン!!
フレイヤの周りの闘気が弾ける。
「リリィ! 私の槍にだけ闘気を込めてくれ!」
「そうか! 完全絶対反撃領域なら、フェニックスの攻撃くらい全て防げる!」
ディアナが頷いてフレイヤの槍に闘気を込める。
フレイヤはフェニックス攻撃からディアナ、キース、足場の薬草を同時に守り始めた。
「あとは任せたよ、リリィ!」
フレイヤがフェニックスの攻撃を防ぎながら叫んだ。
「ああ! 任せろ!!」
ディアナはそう叫ぶと、すぐに槍に氷の闘気を纏わせ、フェニックスに向けて上空に放った。
「リリィ!?」
フレイヤは完全絶対反撃領域でフェニックスの攻撃を防ぎながら不思議そうにディアナを見つめた。
(ただでさえさっきより上空に逃れているのに、地上から闘気技を放っても当たる筈がない! 簡単に躱されてしまうのはリリィでも分かる筈なのに何故……?)
フェニックスはフレイヤの予想通り、難なくディアナの氷の闘気技を躱す。
ディアナはそれでも何度も同じようにフェニックスに向けて氷の闘気技を放った。
しかしフェニックスはディアナの全ての攻撃を躱し、炎の塊を降らせる。
炎の塊はフレイヤの完全絶対反撃領域で完全に防げるが、フェニックスにもダメージが与えられず、時間だけが経過していく。
ディアナが空中に放った氷の塊は勝手に砕けて空気中に舞って消えたものと、フェニックスの熱に当てられ溶けて消えたものがあった。
ディアナが攻撃を開始して4分が経過した頃、ディアナが攻撃を止め、槍を空に掲げて瞳を閉じて何かを呟き始めた。
(詠唱……? エリーナ様から受け継いだ新たな特殊スキル……!?)
フレイヤがフェニックスの攻撃を防ぎながらディアナを見つめた。
ディアナがフレイヤに約束させた5分が経過した頃、ディアナが瞳を開いて叫んだ。
「驟雨烈槍!!」
次の瞬間、フェニックスの上空に雨雲が出現する。
「まっ……! まさか、天候を操ったというのか!!」
フレイヤが上空を見つめながら驚いて話した。
フェニックスの上空に出現した雨雲から大量の雨が降り、フェニックスは動きが鈍って悲鳴を上げた。
「キィィィィーーーー! キィィィィーーーー!!」
落下するフェニックスを見て、ディアナが構え直して叫んだ。
「絶技……! 白王馬!!」
ディアナが落下するフェニックスに向かってジャンプし、白王馬を放つ。大量の雨で身体中を濡らしたフェニックスにディアナの攻撃が当たり、フェニックスは今までで1番大きな悲鳴を上げた。
「ギィエエエエーーーー!!」
地面に落ちたフェニックスはそのまま動かなくなった。
フェニックスの後に地面に着地したディアナはビーストモードが解け、その場に膝をついた。
「はぁ……! はぁ……! 倒した!!」
「リリィ! やったな!!」
フレイヤが笑顔に変わり、完全絶対反撃領域を解除して駆け寄る。
「大丈夫かい?」
「ああ……、大分やられたが、ギリギリなんとかなったな……」
ディアナが座り込んで応えた。
「それにしても驚いたよ! 私との戦いでは水の分身を作り出す程度しか魔素を使ったスキルはなかった筈なのに、今回は氷を槍に纏わせた闘気技や、放出タイプの技、最後は天候を操る程の特殊スキルを発動させるなんてね!」
フレイヤが目を輝かせて話した。
「お前との戦いを経て私のレベルが急激に上がり、エリーナ様から受け継いだ特殊スキルがかなり増えたからな! しかし……、最後の天候を操るスキルは実はまだ未完成だったんだ」
ディアナがフレイヤを見つめて話した。
「最後のは未完成だった……? どういう事だい?」
フレイヤが不思議そうに尋ねる。
「私はまだ驟雨烈槍を本来扱えないんだ」
ディアナが微笑んで応える。
「し、しかし君は実際、そのスキルを発動させたじゃないか!」
「大量の雨を降らせる驟雨烈槍を発動させるには、まず大気中に氷晶と水蒸気を発生させる必要がある。それには氷の魔素と、炎の魔素を生み出す必要があるが、私には炎の魔素を作り出すスキルの習得がまだだったのだ。だから奴自身を利用したのさ」
ディアナが倒れて動かなくなったフェニックスを見つめて話した。
「そうか! 上空高く舞い上がっていたフェニックスに対して氷の闘気技を放っていたのは、氷の塊を大気中にばら撒き、闘気の遠隔操作でその塊を小さく砕いて氷晶を作る為と、フェニックス自身から発せられる炎の熱で水蒸気を作り出す為か!」
「ああ! 奴が氷や水を浴びれば闘気を纏ってダメージを与えられる事が分かってから、この方法を考えていたのだが、その状況を作り出すのに時間がかかり過ぎるから黙っていたんだ。試した事も無かったから苦し紛れの策というやつだ……。まあ、成功して良かったよ」
「全く……! そんな作戦を考えてたなんてね……。いつもお前には驚かされるよ」
「とりあえず、フェニックスが復活する前に薬草を回収して、父さんを連れて村に帰ろう!」
ディアナがゆっくり立ち上がって話した。
「ああ、そうだね」
2人はすぐに薬草を腰袋に詰めた。
すぐにフレイヤがキースを背負って立ち上がったのを見てディアナが口を開く。
「任せていいか?」
「ああ、勿論。君の方がダメージが大きい。父さんは私に任せてくれ」
2人が山を降りようと歩き出した瞬間、背後に気配を感じ、2人は後ろを振り返る。
そこには傷を完全に癒し終えたフェニックスがディアナとフレイヤを睨んで立っていた。
フェニックスが口を開けて炎を吐こうとした時、ディアナがキースを背負ったフレイヤを横に突き飛ばす。
「リリィ!!」
フレイヤは、フェニックスの炎を無防備で受けたディアナを見て叫んだ。
その場に膝をついて苦しそうにしながらディアナが話す。
「……に、逃げてくれ、フレイヤ。……薬草と父さんを頼む……」
「駄目だ! 君を置いてはいけない!」
フレイヤがキースを地面に置こうとしたのを見てディアナが叫んだ。
「早く、行け! 私が時間を稼ぐ!」
震える身体をなんとか立ち上がらせて、ディアナはフェニックスに突撃する。
「やめろ、リリィ!」
フレイヤが叫ぶがディアナは自分にフェニックスの注意を引きつける為、聞く耳を持たない。
ディアナはフェニックスに近づくと、神速の連用で周囲を飛び回った。
(無茶だ! 特殊スキルを何度も使用し、その直後に絶技を使用した。それにディアナはフェニックスの攻撃を何度も受けてしまった! もう限界の筈だ!)
フレイヤが冷や汗を流して立ち上がり、ディアナに言われた通り背を向けてその場を去ろうとした時、背後からフェニックスの鳴き声が響く。
「キィエエエーーーー!!」
フレイヤが足を止め振り返ると、フェニックスが身体を輝かせて自爆前の体勢をとっていた。
「リリィ、逃げろ!」
次の瞬間、フェニックスは大爆発を起こし、周囲を吹き飛ばす。
フレイヤは槍に闘気を集めて地面に刺し、闘気の壁を前方に作り出して爆発の衝撃を殺した。
爆発が止み、周囲の爆煙が晴れてくるとフレイヤは周囲を見渡してディアナを探した。
「リリィ! どこだ!? 返事をしてくれ!」
爆煙が完全に晴れると、フェニックスの10mほど先の地面に倒れて動かないディアナの姿があった。
「リリィ!」
フレイヤが駆け寄ろうとすると、フェニックスが翼を広げて炎の塊をフレイヤに放つ。
「くそっ!」
フレイヤは炎の塊を闘気を込めた槍で撃ち落としていく。
その隙にフェニックスはディアナの方を振り返り、近づいていく。
「やめろ! リリィに手を出すな!!」
フレイヤが炎の塊を撃ち落としながら叫ぶがフェニックスは歩みを止めない。
ディアナの側までフェニックスが歩み寄り、口に炎を溜め始めた時、フレイヤとフェニックスは驚愕する。
ディアナの身体中を光の粒が護るように輝き出す。それと同時にディアナが震えながらゆっくり立ち上がり、槍を構え直した。
異常な光景に後退りしたフェニックスは、慌ててディアナに向けて炎の息を放つ。
ディアナはその炎目掛けて突きを放つ。
「リリィ!」
フレイヤが心配して叫んだ時、ディアナの周囲を煌めいていた光が、フェニックスの炎をかき消し、ディアナの槍に宿る。
次の瞬間、ディアナの突きがフェニックスの左目に直撃し、フェニックスは悲鳴を上げた。
「ギィエエエエーーーー!!」
フェニックスはその場に座り込み、驚いた表情で目の前に立つディアナを見つめた。
フェニックスを睨むディアナの周囲を飛ぶ光の粒はより一層輝きを増し、ディアナを守護した。
フェニックスはそれを見て更に驚いた後、ディアナに向かってゆっくり頭を垂れた。
次の瞬間、ディアナの周囲の光の粒が消え、ディアナはその場に倒れた。
「リリィ!」
フレイヤがキースを背負ったままディアナに駆け寄る。
ディアナはフェニックスから受けた攻撃により身体中が重度の火傷状態となっていた。
「まずい! このままじゃ、リリィは……」
フレイヤが慌てて怪我の状態を確認していると、フェニックスがディアナを見ながら近づく。
フレイヤがディアナとフェニックスの間に入って両手を広げて叫んだ。
「やめろ! これ以上、私の可愛い妹に少しでも手を出してみろ! 貴様の息の根を止めてやるぞ!!」
フェニックスが困惑して表情で歩みを止めると、フレイヤの背中から声が響いた。
「……フレイヤ、フェニックスを通してあげなさい」
「父さん!?」
フレイヤは背負っていたキースが目覚めた事に気づいて驚いて話した。
「フレイヤ、フェニックスを通してやるんだ」
キースが優しく呟く。
「しかし父さん奴は……!」
フレイヤが話すとすぐにキースがフェニックスを指差して優しく話した。
「目を見てみなさい……。彼女にもう敵意はない。彼女はリリィを認めたのだ。信じなさい……」
キースに言われた通り、フレイヤが落ち着いてフェニックスを見つめると、先程と違い優しい瞳でディアナを見つめるフェニックスの姿があった。
フレイヤはキースを信じてその場を退くと、フェニックスはゆっくりディアナに近づいて羽を広げる。するとフェニックスの羽から黄色の光がディアナに向けて降り注ぎ、ディアナの全身の火傷を癒していく。
「これは……!?」
フレイヤが驚きながらフェニックスの行動を見守る。
フェニックスの癒しの羽はディアナの火傷だけでなく古い傷口も瞬時に治して見せた。
少ししてディアナが瞳を開けてフレイヤを見つめる。
「フレイヤ……」
「リリィ……、良かった」
フレイヤが涙を溜めて呟いた。
ディアナはゆっくり立ち上がり、自身を癒したフェニックスを見上げて呟いた。
「そうか……、お前はずっと待っていたんだな……」
ディアナが悲しそうな表情で呟いた。
キースがフレイヤの背中から降りてディアナに近づき話しかける。
「リリィ、フェニックスは、やはりこの山を支配する為に居ついた訳ではないんだな?」
ディアナがキースに気づいて口を開く。
「父さん……!
……うん、フェニックスには害意はなく、神聖な空気が流れるこの山で、ずっとある人を待っていただけ……。
だから山の動物やモンスター達は怯えて生息域を変えるような事はせずに普段通りに生活していたの」
「ある人を待っていた……? 戦神程の力を持ったフェニックスが誰を待ってたと言うんだ?」
フレイヤが不思議そうに尋ねる?
「簡単な事だよ、フレイヤ。
フェニックスは自分の主であるエリーナ様をずっとここで待っていただけだったんだ……」
ディアナが少し悲しそうに微笑んで応えた。
「そうか……、だから私のトドメを刺す事に拘らなかったのか……。それでは危険と勝手に判断して戦いを挑んだ私達の方が悪かったようだな……。
……戦神フェニックス……、本当に済まなかった。許してほしい……」
キースはそう言うと頭を下げた。
フレイヤもキースを見て頭を下げる。
「フィーーーーン!」
フェニックスが鳴くと、ディアナが微笑んで口を開く。
「もう、気にしてないってさ」
「言葉が分かるのか!?」
フレイヤが驚いて尋ねる。
「エリーナ姉様の光の粒が表に出てからフェニックスの言葉が分かるようになった。
フェニックスもあの時、感じ取ったんだよ。私の中にエリーナ姉様がいる事を!」
ディアナが涙を溜めて話した。
「キィエエーーーーン……!」
フェニックスが涙を零して鳴く。
ディアナがフェニックスを抱きしめて涙を零しながら呟く。
「お前も悲しかったんだな……。愛する主を失った事が……。
だから、魂だけでも迎えに来てくれる事を願って……、ずっとここで待っていたのか……」
「キィエエーーーーン……!」
フェニックスが涙を流しながら何度も澄んだ空に鳴き声を響かせる。
「もう大丈夫だ……! お前の想いは私の中にいるエリーナ姉様にも届いた……。さあ……、お家に帰るんだ」
ディアナがそう呟くと、フェニックスは、身体を小さくしながら、ディアナの中に吸い込まれるように消えていった。
辺りに静寂が訪れ、暫くしてフレイヤが口を開く。
「終わったな……、リリィ」
涙を拭いて、フレイヤの方を振り向いてディアナが応える。
「ああ……、私達も帰ろう! 帰るべき処へ」
◇ ◇ ◇
ディアナとフレイヤはフェニックスの死闘の後、キースを連れて無事、村に帰還した。
ディアナとフレイヤが回収した薬草と数種類の薬品を調合したダイアナの病気に効く薬は、すぐに効果を発揮し、ダイアナは1日で元気を取り戻していた。
「ダイアナおばさん、すっかり元気になったねレム!」
「うんうん、すっかり元気になったからまた、鍛えて貰えるね!」
嬉しそうにリムレムが話した。
「リムとレムがずっと看病してくれたお陰ね! 本当にありがとう」
ダイアナが微笑んで自分の側にいるリムとレムの頭を撫でた。
「これで、またパンダ狩りが出来るねリム?」
「今度こそ、親パンダもやっつけようねレム」
リムレムがそう言うと、ダイアナが2人の頰をつねって口を開く。
「だからそれをやめなさい! お前達はいい加減、懲りなさい!」
「「うぇ~! やっぱりダイアナおばさん元気じゃない方がいいよ~」」
リムレムが涙目になりながら同時に話したのを見て、ディアナ、フレイヤ、キースが笑う。
「そうだ、リムとレム。母さんを看病してくれたお礼に、私とリリィでお前達の修行を見てやろうか?」
フレイヤが微笑んで尋ねる。
リムレムが顔を見合わせて鼻で笑って口を開く。
「悪者のお兄ちゃん、私達に教えられる程、強いの? 私達、"ゔぁいす"なんだよ? ねー、レム?」
「そうそう、悪者のお兄ちゃんなんてパンダにも勝てないんじゃないの? 別にダイアナおばさんに教えてもらうからいいよね、リム?」
「な、なんだと、こいつら!」
フレイヤがムカっとした表情で話した時、玄関からノックの音が聞こえる。
「あら? この時間帯にお客さんなんて珍しいわね」
ダイアナが玄関まで行き、扉を開けて外の者と少し話をするとリムレムの方を振り返って、口を開いた。
「リム、レム。お前達にお客さんだよ」
リムとレムが外に出ると子供と大人の熊猫族が待っていた。
「リンリン!? なんでここにいるんだ?」
リムが驚いて熊猫族の子供を指差して話した。
「この前は2対1でお前達に泣かされたから、私もお姉ちゃんを連れて来たんだ! 勝負しろ!」
熊猫族の子供リンリンが涙目で叫んだ。
「リンリンが先に私達が"ゔぉいす"を名乗っている事を馬鹿にしてきたんじゃないか!」
レムが慌てて叫ぶ。
「そ、そうだよ! "お前達は臆病者で弱いからいつも2人でいる! だから2人でかかって来い"って馬鹿にしたのはリンリンだろ!」
リムも慌てて叫ぶ。
するとリンリンの側にいた大人の熊猫族が口を開く。
「それが本当だったとしても泣かせるまでやる必要があったのかい? 確かにリンリンにも悪い部分はあったけど、君達は泣いて謝るリンリンを2人で痛めつけた。だから今度は2対2で決着をつけようって事だよ。
勿論、勝負は受けてくれるよね?」
大きくて筋肉質の身体をした大人の熊猫族を見て、リムレムは涙目になって黙ってしまった。
「その勝負は公平じゃないね!」
背後から声がして、リムレムが振り返ると玄関から出てきたディアナの姿があった。
「「お姉ちゃん!!」」
リムレムが涙目で叫ぶ。
ディアナを見た大人の熊猫族がディアナに話しかける。
「貴方、この子らのなんだい?」
「この子らは私の可愛い妹みたいなもんでね。話を聞いてたら、大人の貴方が子供の喧嘩に混ざって勝負しようなんて言うから余りにも卑怯だと思ってね……」
ディアナがニヤリと笑って応えた。
「何が卑怯か!! そう言って勝負から逃げる気かい?」
大人の熊猫族が怒ったように叫ぶ。
「逃げる? いやいや、私は公平な勝負をしようと言っているんだよ。
……本来、子供の喧嘩は子供達で始末をつけるもんだが、大人の貴方が顔を突っ込んだ時点で話が変わってしまっている。
だから……、私と貴方の一騎打ちで勝負をつけようっていうんだよ」
ディアナが笑ったまま話した。
「ははははは……! 熊猫族最強の私に一騎打ちだと!? 良いだろう! お前から言ったのだ! もう勝負の取り消しは出来んぞ!」
大人の熊猫族が笑って応えた。
暫くした後、フレイヤ、キース、ダイアナも外の騒ぎを聞きつけ、様子を見に来た。
「全くあの子は昔から変わらないわね……」
ダイアナがため息を吐いて話した。
「若い頃の君、そっくりだ」
キースが微笑んで話すと、ダイアナが顔を赤くして応えた。
「……もう! 貴方ったら!」
「なんか、あの熊猫族……、見た事あるな……」
フレイヤがディアナと相対している大人の熊猫族を見つめて話した。
「お姉ちゃん……、もういいよ。
あの人めちゃくちゃ強いんだ。今謝れば許してくれるよ」
リムがディアナの後ろから話しかける。
「そうだよ、お姉ちゃん。謝ろうよ……」
レムは涙目で話しかける。
槍を構えたディアナが振り返って微笑んで応える。
「ふふ……、大丈夫だよ。必ず勝つから離れて見てな」
その瞬間、大人の 熊猫族が後ろを向いたディアナに向けて槍を突き出す。
「「危ない、お姉ちゃん!!」」
リムレムが同時に叫ぶ。
大人の熊猫族が放った槍がディアナの脇腹に刺さる。
「リリィ!?」
ダイアナが慌てて叫ぶと、フレイヤがダイアナの前に掌を向けて口を開いた。
「大丈夫、母さん。リリィをちゃんと見てみて!」
「どうだ! 開始の合図はなっていた! 卑怯とは言わせんぞ!」
大人の熊猫族がディアナを見て話すと、ディアナの身体が炎に変わり、その炎が大人の熊猫族を襲う。
「きゃああ!」
「もういいよ、フェニックス」
いつの間にか熊猫族の背後に回り込んでいたディアナの身体に熊猫族を襲っていた炎が吸い込まれる。
「はぁ……。はぁ……。貴様、今、何をした!?」
驚いたように叫ぶ大人の熊猫族。
「炎の分身だよ。フェニックスが私と一緒に戦いたいというものだから少し遊んでやったのさ」
ディアナが微笑んで応えるとリムレムが目を輝かせて叫んだ。
「カッコいいーー!!」
「炎の分身……!? フェニックス……!?
なんだその怪しい技は!? 卑怯だぞ!」
大人の熊猫族が立ち上がってディアナに襲いかかる。
「今さっきのでもまだ実力の差が分からないの? 幼い頃から変わったのはパワーだけかい?」
ディアナが微笑みながら大人の熊猫族の槍を連続で躱していく。
「あの 熊猫族の子も相当強いけど、リリィは格が違うわね……。本当に強くなった」
ダイアナが驚きながら話した。
「く、くそ! こうなったら私の最強の技をくらいな!」
大人の熊猫族が闘気を高めて槍を突こうとした瞬間、ディアナが目の前から一瞬で消えて、大人の熊猫族の喉元に槍の切っ先を突きつけた。
「また遊ぼうね、ランラン」
ディアナが笑顔で話すと、大人の熊猫族ランランはハッとした表情に変わり、尻餅をついて話した。
「き、貴様……、いや、貴方はリリィ!? なぜここに!?」
「ちょっと用事があってね……。大丈夫? 怪我は無かった?」
ディアナがランランの手を引いて立ち上がらせる。
ランランがディアナの槍を見て、ビクッと後ろに飛び退き、怯える様に震える。
「お、お姉ちゃん!? どうしたの?」
リンリンが異常に怯えるランランを見て尋ねる。
ここでフレイヤもハッとした表情に変わり話した。
「そうか! 彼女はランランだったのか!」
「リリィとランランは昔何かあったの?」
ダイアナがフレイヤに尋ねる。
「ふふふ……。昔、この村周辺でパンダ狩りの噂が一時的に流れたでしょう? その犯人がリリィで、その被害者があのランラン。
当時リリィは、各部族で最強の子供と呼ばれていたランランに挑みたくて、熊猫族達が狩りなどで活動している西の森に赴いてパンダ狩りならぬ、熊猫族狩りをやっていたんだよ。
ランランはリリィに挑んだけど、100戦全敗。最後の方はリリィを見るだけで怯えるようになってたなぁ」
フレイヤが苦笑いしながら話した。
キースとダイアナが顔を見合わせてため息を吐いた。
リムレムがフレイヤの話を聞いて、ディアナを見つめ、目を輝かせる。
「「リリィお姉ちゃん、カッコいいーー!!」」
ランランは身体を震えさせて話す。
「わ、私達が悪かったよ……。お願いだから、見逃してくれ……」
「お、お姉ちゃん……?」
リンリンが今まで見た事もないランランの怯えようを見て話した。
ディアナがその様子を見て、優しく話しかける。
「見逃すなんて……。ランラン私達は昔を懐かしんで軽く手合わせしただけでしょう?
もう少しで私が負けるところだったわ」
ディアナが気を使ってくれている事に気づいてランランは警戒をゆっくり解き、口を開いた。
「……ああ、そうだね。恩に着るよ」
ゆっくり引き返すランランに向かってディアナが声をかける。
「ランラン! また遊ぼうね!」
ランランはゆっくり振り返り、苦笑いしながら口を開いた。
「え、遠慮しておく……」
「あり……? 嫌われちゃったかな?」
ディアナが呟くとフレイヤがツッコむ。
「いや、あれだけ痛めつけといて嫌われていないと思ってたのかい……?」
少しして、リムレムがディアナに駆け寄り目を輝かせて話した。
「リリィお姉様がパンダ狩りの始祖様だったの?」
リムが興奮気味に尋ねる。
「リリィお姉様が獣人族最強なの?」
レムが興奮気味に尋ねる。
「そうそう、私がパンダ狩りの始祖だよ~」
ディアナが腰に手を当てて偉そうに話した。
「「ははぁ~、始祖様~!」」
リムレムが跪いてディアナを崇める。
「いつの間にか、パンダ狩り教が設立した……」
フレイヤが呆れた顔で話した。
「リムレム! そしてパンダ狩りの始祖である私にはもう一つの秘密がある! 知りたいか~!」
ディアナがふざけながら話した。
「「教えてくださいませ、始祖様~!」」
リムレムが土下座しながら話した。
「何を隠そう私こそが公式に認められた最後の宿す者である!」
ディアナがニンマリ笑って話した。
「えーー!! パンダ狩りの始祖様でありながら、選ばれた者しかなれない"ゔぁいす"様であられたのですかーー!?」
リムが両手をあげて驚く。
「す、凄い! "ゔぉいす"様! どこまでもついて行きます!」
レムも両手を上げて話した。
ディアナが楽しそうに笑って話す。
「でも、単純な槍術なら私より凄い人が1人だけいるよ!」
ディアナがリムレムに話すと、興奮気味でリムレムが食いつく。
「「リリィお姉様より凄い人って誰?」」
それを聞いたディアナは微笑みながらフレイヤを指差して口を開いた。
「あそこのフレイヤお兄ちゃん!
あの人こそ真の宿す者だった人で、槍術だけなら私より強い人だよ!」
リムレムが興奮気味にフレイヤに駆け寄り、尊敬の眼差しを向ける。
「お前ら、私の事、悪者とか言ってなかったか?」
フレイヤが睨んで話すとリムレムは同時に応えた。
「「フレイヤお兄様……!」」
リムレムの身の代わり様に呆れたようにフレイヤが呟いた。
「全く、調子の良い奴らだ……」
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