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第1章

片翼の女神〜かたよくのめがみ〜

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 周りの騒音で成瀬なるせユウキは目覚めた。

「なぜ牢屋に入れた!? 丁重に扱えと伝えただろ!!」
「すみません! 他の者から魔王様が血相を変えて連れてくるように言っていたと聞いていたので、とんでもない大悪党だと思い牢屋に入れておきました……」
「この馬鹿者!! 傷一つ負わすなとのご命令だ!! 命に逆らえば死罪だと申したのだぞ!」
「エリーナ様、すみません!
本当にすみません、どうか魔王様には報告しないでください……」
「この場で貴様を切り刻んでも良いのだぞ!!」
「ヒィィィ!! どうかご勘弁を!!」

「その辺にしてやれよ、俺は無傷だ。美人の姉ちゃん」
 ベットから半身を起こしたユウキが、先程、眠らされた魔族の女性とガーゴイルとのやり取りを止めに入った。

「貴様……! なぜ、もう目が覚めている……!
私の睡眠魔法スリープを受けたら常人は3日は起きないのに、たった数時間で……」
 魔族の女性が驚いた表情でユウキに話しかける。

 ガーゴイルも驚いたように話す。
「え、エリーナ様。こいつ、やっぱり片翼の女神かたよくのめがみの使者じゃないでしょうか? 普通じゃない。髪も眼も黒いし」

 エリーナと呼ばれた魔族の女性が応える。
「…………何者かは魔王様が知っておられるようだ」

  2人のやり取りに我慢出来なくなったユウキが口を開く。
「あんたらさっきから俺が黒髪、黒い瞳だってことで驚いてるみたいだけど、俺の国じゃほとんどの人が黒髪、黒い瞳だよ!
あと片翼の女神かたよくのめがみってなんだよ?」

 ユウキの言葉を聞き終えた後、2人は更に驚いたようだった。

「貴様、冗談だろ?
この世界の創造主を忘れた訳ではあるまい。
世界に終焉の巫女しゅうえんのみこを使わし、約束の日やくそくのひを設けた片翼の女神かたよくのめがみを」

 ユウキは頭が痛いと言いたげな表情で応えた。
片翼の女神かたよくのめがみとやらがこの世界の創造主って奴なのは分かったが……、
終焉の巫女しゅうえんのみこ
約束の日やくそくのひ
また分からん単語が出てきたな……」

 先程まで驚いていた2人は今度は呆れたような表情に変わる。

「エリーナ様、こいつ、きっと倒れた時に頭を強く打ったんですよ。俺たちは運ぶ時、危害は本当に加えてないからそのハズです。それで記憶喪失なんですよ」
「……とりあえず魔王様の命令だ。出ろ」
 そう言うと、エリーナは牢屋の鍵を外し扉を開けた。

「えっ! 解放してくれんの?」
「そうだ、私についてこい」
 エリーナが応える。



 ユウキはエリーナに後ろにつき、しばらくの間、廊下を歩いた。突き当たりを右に曲がると上に繋がる階段が見え、そこを登りきった。階段の上に上がるとそこには西洋風の大きな広間に出た。

「うっわぁ……! 立派な城だなぁ。大広間ってやつか?」
 ユウキは初めて自分の目で見る異世界の城にワクワクした顔で尋ねた。

「ここは衛兵控え室へと続くただの廊下だ。大広間はここの10倍はある」
 淡々とエリーナが説明を行う。

「マジか……! ここでもすでに俺の家の3倍くらいの広さがあるぞ……」
 少し考えてユウキは続けた。

「なあ、エリーナさん、
俺がここに連れてこられるちょっと前に、俺と同じくらいの人間の女の子をここに連れてこなかったか? 頼むからその子も解放してほしいんだ。さっきのガーゴイルとの会話からして、あんたはある程度上の立場みたいだし、話をちゃんと聞いてくれそうだ」
「人間の女の子? 人間の女の子なんて、ここ一月見ていないぞ。それにお前は牢から出しただけで外に解放するわけではない。これから謁見の間で魔王様に会ってもらう為に連れてきているだけだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……。人間の女の子を見てないだって? そんなことないはずだ! 確かに光に包まれた後、飛ばされてこっちについて意識を失う前まではあいつの手を掴んでたんだ!」 
 慌てるユウキ。

「なにを言っている?
部下には虚偽の報告がないかも調べさせた。間違いない」
 ムッとした顔で振り返るエリーナ。

「それに魔王に会いに行くって? どうしてだたの人間なんかと……」
 戸惑うユウキ。

 暫くしてエリーナが応えた。
「私にも分からん。魔王様は2日前に王座に就いたばかりでな。初めての命令が黒髪で黒い瞳の青年を無傷で保護せよとのことだったのだ。そして先程、捕らえたお前を目が覚めた際に謁見の間に通せとのことだった。その命を直々に私が承ったからこうして貴様を連行しているのだ。
まあ、思ったよりも大分早く目覚めてくれたから助かったがな」
「ど、どういことなんだよ……」
「だから分からんと言っている。謁見の間につけば自ずと答えが出るだろう」

 ユウキは息を呑む。
(魔王か、いったいどんな怪物だよ……)


 謁見の間につき、玉座にはまだ誰もいなかった。エリーナの話だとすぐに付き人とお見えになるということだ。

「間も無くお着きになられる。
腰を下ろした体制で顔を伏せて待機しろ。私は玉座の横で魔王ルナマリア様の到着を待つ。ルナマリア様がお声をかけて許可が出た時に顔を上げるように」
 エリーナが丁寧に説明してくれる。

「ルナマリア!? 魔王って女か!?」
 ユウキが驚いてエリーナに尋ねた。

「静かに! お見えになられた!」
 エリーナが制止したのと同時に奥の扉が開く音が聞こえた。

 奥からユウキ側に歩いてくる2つの足音、1人が玉座に座り、1人がエリーナとは反対側の玉座の横で立ち止まった。

 少しの空白の時間が流れた後、魔王が声をかける。
「面をあげよ!」

 ユウキはゆっくり顔を上げ魔王の姿をみた。ユウキはこの時、異世界にきて一番驚くことになった。

「アッ……!!!! アンナ!!」

 玉座には、ユウキの幼馴染の神代かみしろアンナが黒いドレスを着て座っていた。
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