唄い紡いで示す

林 業

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歌い現す

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シャワーを浴びて、落ち着いた八雲がリビングへと入ればキャミソール姿のウタがいて、思わずドアを閉める。
別に可愛らしい子だとは思うが欲情はしていない。
むしろ出雲のほうが好みではある。
ただと思う。
相手は女性で、父母、特に祖父からは女性の肌を見るのはいけないことだと言われて育ってきた。
場合によっては娶らなければならない。と。
村の子供の世話をするときだって注意してきたぐらいだ。
さらに、タイチの恋人で、その相手から何故か敵意を持たれているのだからそういうのは注意しようと思っていた矢先。
「八雲。どうした?」
「いずもぉ」
背後から来る出雲にこの先にとドアの向こうを示す。
昼寝でもしようかと入った矢先の出来事を語る。
「あぁ。結婚云々は、まぁ、タイチが婚約者だから気にするな。むしろタイチにその言い伝えはするな。嫉妬して更に睨まれれるぞ」
わかってるから相談しというのに。

出雲のその両腕には人形の手足があり、持とうかと聞けば頼むと渡される。
そこそこ重たい手足だが、一本あたり人の手足より重いぐらいかと考える。
「お前、なぜ人の手足の重さがわかる」
いきなり顔を引きつらせた出雲に、八雲は口にしたかと首を捻る。
「だって俺、兵士だし。同僚とかの手足が切れたりとか、繋げるときとか。敵の腕を切って蹴飛ばしたことも」
「動くのはだめなのにそれは平気なのか」
「トカゲの尻尾じゃないんだから、普通は動かないだろ」
むしろ、動くのは平気なのに何故重さを知っていることに忌避感を覚えるのかがわからない。
お国柄か、職業柄か悩む八雲。
「というか工作室」
「作業室な」
「から、持ち出すのって珍しい。人形の部品なんだろ?あっちで組み立てるって言ってたろ」
「あぁ。これは、妹のだ」
「ん?あぁ。ウタさんの人形」
ドアを開けた出雲に目を逸らす前に記憶してしまうウタの、手足と体。
驚いてもう一度見ようとして母の怒りの顔が浮かび、目を閉じる。
「実妹。もうちょっと何か羽織るようお願いする」
「でも、やりにくいって言ったのお兄様じゃないですか」
「八雲が肌を見れないと嘆く」
「そんなに」
「ではなくてだな」
悲しそうなウタの声に、説得中の出雲。
「あら。不思議な風習ですのね。肌を見られると結婚だなんて」
「母のとこでもそうみたいだけどな。ほら」
何かを羽織る音に恐る恐る目を開ければ、タオルで体を覆うウタに安堵。
前まで見えなかった手足が、木の手足だと気づく。
そして胴体には無数の古傷。
悲しい声だったのはそれを見たと思ったからだろう。
「なんで」
思わずこぼれた声。
だってまだ子供なはずなのに。
幸せにならなければならない子なのに。
「昔父と旅行に行ったときに、弟が野菜を食って腹を壊してな。私が弟の看病に行っていた。その時に野盗に襲われてな。命はあるが手足が犠牲になった」
「あ、この国でもそんなことあるんだな。そいつらまだ生きてるなら潰してくるけど」
出雲はウタを見てからウタが告げる。
「あなたが助けてくれたんですよ?」
何を言っているのかと言わんばかりに言われ、出雲も初めて聞いたとウタを見ている。
「獣神国家での出来事ですの。龍の部隊の小さな男の子が私を助けてくださったんですよ。私、その龍の模様だけはしっかり覚えてますもの。十二、三歳ぐらいのお話ですから四、五年ぐらい前の話ですね」
出雲は我に返ったのか八雲から腕を取り、ウタの手足を外しながら新しいのを付けていく。
「お兄様も一緒に戦ったのでてっきりわかっていらっしゃると思っていましたよ」
「未熟だった頃だろ。あの頃はまだ人形から通した戦闘画像を今ほど見れていなかったからな」
八雲は必死に記憶を思い出そうとしているらしい。
お兄様の未熟は理想が高すぎるとぼやくウタ。

よし直ったと告げてウタは服を着ている。
タイチは何処だと見回せば、お風呂ですよと微笑まれる。


タイチにはお風呂の補助を頼むことがあるそうだ。
例えば手足が濡れて動かしにくくなったときの対策や外からタオルを渡してもらったり。
改良を重ねている手足だが未だに不具合は多いらしい。
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