27 / 112
歌い現す
2
しおりを挟む
出雲は眠そうにお茶を飲む。
余程疲れているらしい。
目の前にいる兄妹二人を見てどう切り上げるか考えつつ話しかける。
「えーっと妹さん」
「はい。ウタとお呼びください」
「美人三兄妹だよねー」
「ありがとうございます」
微笑んでくる少女にほっこりするが背後の男がさらに怖い。
八雲の村では、年上の子を兄ちゃん、姉ちゃんと呼び、世話になる。
そして年上の子は自分たちがそうだったように下の子の面倒を見るのが当たり前。
村の人たちは兄弟のように育ってきたのだ。
中にはそれで縁が繋がることもあるのだが、八雲にとって下の子は兄妹程度の感情しかない。
「愚弟。これ、取ってきたやつな。加工頼んでいいか?」
一抱えのある糸の束を取り出す。
アラクネの蜘蛛の糸。
カイは受け取り、質がいいとはしゃぐ。
「半分もらっていい?」
「三割ならいいぞ」
「八雲君の同鎧とか剣に使う油用意してる代金だよ」
防具屋に行ったものの満足できる物がなかった。
なので一度戻ってきてカイにお願いしたら取り寄せてくれると言ってくれた。
「一部を防具の組紐に出来るか?どうやらアラクネの糸でできているらしい」
「組んでるだけ?」
出雲が八雲を見て、八雲は予備の組紐を取り出して渡す。
「んー。確かに組んでるっぽいね。色彩とか、粘り気を取る加工はしてあるけど。わかった。お願いして見るよ」
「じゃあ四割」
「はいはい。加工もしておくからね」
あっさり四割を受け入れている姿に、五割はぼったくりかと納得する。
「加工?」
八雲が出雲を見れば出雲は欠伸。
「ん。まぁ、傀儡師の道具になるためにはいくつかの薬品につけて、技能を付与するんだ。一応私もできるが、他で頼んだほうが手間もだが安い」
「なるほど」
「まぁ、その後に加工した糸を、多少の調整をして自分こだわりの糸にしたりする」
薬品は亜種族から取れたり、植物から取ったりと様々であるがその特徴を引き継ぐことが多いとのこと。
出雲が思い出したように告げる。
「そういえばアラクネの巣では、八雲は人形の糸を切っていたようなんだが」
「ん?あ、あの空中切ったら手応えあったあれかな」
出雲が気づいてなかったのかと呟きながらも手を叩いて広げる。
八雲は手の間にある何かに気づいて触る。
蜘蛛の糸のように何かに当たったと感じる。
「目に見えにくい糸でいくら初心者用の市販の糸だとしても」
「それってなかなか切りにくいんじゃなかったっけ」
試せばいいと出雲が手を向けカイは驚いたように告げて、近くにあった工作用のナイフで斬りつける。
だが出雲の手を通り過ぎることなくカイの持つナイフのほうが弾き飛び、バランスを崩しそうになるので慌てて八雲が支える。
「あ、ありがとう」
「この通りだが。まぁ、獣神国家の王族はなかなか強い加護者だしな。八雲も加護持ちだそうだし。こっちまでその影響が来たのかもな」
「んー。じゃあ、慢心しないように注意する」
八雲は心に留めてから見てくる。
「そういえば加護者って神に愛されてるってことなんだよな」
「大まかに言えば」
出雲は厳密に聞くか?と問うがいらないと断られる。
「なら出雲達は加護持ちじゃないの?」
「この国では加護持ちは滅多に口にしないしそこまで多くないんだ。今となってはわかるやつも少ないが昔それでいざこざがあったらしいしな」
「そっか。珍しいのか」
「っていうか獣神国家の王家が珍しい分類なんだよ。初代からその血族は大体加護持ちになってるんだから」
カイの言葉にそうなんだと頷くが実感はあまりない。
何せ村にも四部隊にも当たり前のように加護持ちがいたからだ。
そんなカイも実は加護持ちであるが、そのことは父と亡き母、そして数少ないわかる人間である出雲しか知らされていない。
出雲は直感と感覚で持っていると理解出来るだけで、加護持ちではなく、ほぼ実力である。
逆にカイの持つ加護はどんな病気でも怪我でも治りやすい、二度目はかかりにくい。
その中に死に直結するような物は含まれていないので軽度の加護だが、持っていない者からするとそれでも中々に凄いもの。扱いである。
出雲はカイを見てから、ウタを見る。
「今回義妹はどうしてこっちに?」
「あら。何時もの休暇ですよ」
「じゃあ、家に泊まっていくのか」
「えぇ。まぁ、まさか本当にお兄様にいい人ができるとは思わなかったです」
「ウタ。僕は奥さんに一筋だよ」
「カイ兄様のことではありませんわよ」
笑顔でカイの言葉を流すウタにカイはしくしくと顔を覆う。
「いい人?」
いるのと出雲を見るが出雲には無視される。
「とはいえ、今日は帰るか。今日来るのか?」
「今日はお義姉様にご夕食をご馳走になる予定でした」
「兄貴もどう?」
「私はいい」
即答してから八雲を見る。
「お前はどうする?」
「ん?出雲が食べないなら屋台のを買って帰ろう?一緒に選びたいなぁ。なんて」
笑顔を向ければ、そうするかと頷く。
「えぇ。残念だな」
「お前のそういうところだ。愚弟。それに一度家に帰って虫よけのお香を焚かないとな」
のんびりとお茶を飲むウタを見た出雲。
虫苦手なんだと八雲は理解する。
挨拶を交わしてから傀儡館を出てしばらく。
「あのさ。出雲」
「ん?」
「俺、じっさまいわく龍の加護、らしいんだけど、その、関係あるかな。糸切れたって。もしそうならいろいろと面倒なんじゃ」
しばらく悩んだ出雲は一言。
「加護は複雑だからな。詳しくはわからんが、戦闘系であってもなくとも私は八雲には隣にいて欲しい。それと加護持ち用に対策はねっておくことにする」
「そっか」
笑顔を返せば出雲が、出雲が屋台にあるものなら何でも買うぞと財布を向けてくる。
余程疲れているらしい。
目の前にいる兄妹二人を見てどう切り上げるか考えつつ話しかける。
「えーっと妹さん」
「はい。ウタとお呼びください」
「美人三兄妹だよねー」
「ありがとうございます」
微笑んでくる少女にほっこりするが背後の男がさらに怖い。
八雲の村では、年上の子を兄ちゃん、姉ちゃんと呼び、世話になる。
そして年上の子は自分たちがそうだったように下の子の面倒を見るのが当たり前。
村の人たちは兄弟のように育ってきたのだ。
中にはそれで縁が繋がることもあるのだが、八雲にとって下の子は兄妹程度の感情しかない。
「愚弟。これ、取ってきたやつな。加工頼んでいいか?」
一抱えのある糸の束を取り出す。
アラクネの蜘蛛の糸。
カイは受け取り、質がいいとはしゃぐ。
「半分もらっていい?」
「三割ならいいぞ」
「八雲君の同鎧とか剣に使う油用意してる代金だよ」
防具屋に行ったものの満足できる物がなかった。
なので一度戻ってきてカイにお願いしたら取り寄せてくれると言ってくれた。
「一部を防具の組紐に出来るか?どうやらアラクネの糸でできているらしい」
「組んでるだけ?」
出雲が八雲を見て、八雲は予備の組紐を取り出して渡す。
「んー。確かに組んでるっぽいね。色彩とか、粘り気を取る加工はしてあるけど。わかった。お願いして見るよ」
「じゃあ四割」
「はいはい。加工もしておくからね」
あっさり四割を受け入れている姿に、五割はぼったくりかと納得する。
「加工?」
八雲が出雲を見れば出雲は欠伸。
「ん。まぁ、傀儡師の道具になるためにはいくつかの薬品につけて、技能を付与するんだ。一応私もできるが、他で頼んだほうが手間もだが安い」
「なるほど」
「まぁ、その後に加工した糸を、多少の調整をして自分こだわりの糸にしたりする」
薬品は亜種族から取れたり、植物から取ったりと様々であるがその特徴を引き継ぐことが多いとのこと。
出雲が思い出したように告げる。
「そういえばアラクネの巣では、八雲は人形の糸を切っていたようなんだが」
「ん?あ、あの空中切ったら手応えあったあれかな」
出雲が気づいてなかったのかと呟きながらも手を叩いて広げる。
八雲は手の間にある何かに気づいて触る。
蜘蛛の糸のように何かに当たったと感じる。
「目に見えにくい糸でいくら初心者用の市販の糸だとしても」
「それってなかなか切りにくいんじゃなかったっけ」
試せばいいと出雲が手を向けカイは驚いたように告げて、近くにあった工作用のナイフで斬りつける。
だが出雲の手を通り過ぎることなくカイの持つナイフのほうが弾き飛び、バランスを崩しそうになるので慌てて八雲が支える。
「あ、ありがとう」
「この通りだが。まぁ、獣神国家の王族はなかなか強い加護者だしな。八雲も加護持ちだそうだし。こっちまでその影響が来たのかもな」
「んー。じゃあ、慢心しないように注意する」
八雲は心に留めてから見てくる。
「そういえば加護者って神に愛されてるってことなんだよな」
「大まかに言えば」
出雲は厳密に聞くか?と問うがいらないと断られる。
「なら出雲達は加護持ちじゃないの?」
「この国では加護持ちは滅多に口にしないしそこまで多くないんだ。今となってはわかるやつも少ないが昔それでいざこざがあったらしいしな」
「そっか。珍しいのか」
「っていうか獣神国家の王家が珍しい分類なんだよ。初代からその血族は大体加護持ちになってるんだから」
カイの言葉にそうなんだと頷くが実感はあまりない。
何せ村にも四部隊にも当たり前のように加護持ちがいたからだ。
そんなカイも実は加護持ちであるが、そのことは父と亡き母、そして数少ないわかる人間である出雲しか知らされていない。
出雲は直感と感覚で持っていると理解出来るだけで、加護持ちではなく、ほぼ実力である。
逆にカイの持つ加護はどんな病気でも怪我でも治りやすい、二度目はかかりにくい。
その中に死に直結するような物は含まれていないので軽度の加護だが、持っていない者からするとそれでも中々に凄いもの。扱いである。
出雲はカイを見てから、ウタを見る。
「今回義妹はどうしてこっちに?」
「あら。何時もの休暇ですよ」
「じゃあ、家に泊まっていくのか」
「えぇ。まぁ、まさか本当にお兄様にいい人ができるとは思わなかったです」
「ウタ。僕は奥さんに一筋だよ」
「カイ兄様のことではありませんわよ」
笑顔でカイの言葉を流すウタにカイはしくしくと顔を覆う。
「いい人?」
いるのと出雲を見るが出雲には無視される。
「とはいえ、今日は帰るか。今日来るのか?」
「今日はお義姉様にご夕食をご馳走になる予定でした」
「兄貴もどう?」
「私はいい」
即答してから八雲を見る。
「お前はどうする?」
「ん?出雲が食べないなら屋台のを買って帰ろう?一緒に選びたいなぁ。なんて」
笑顔を向ければ、そうするかと頷く。
「えぇ。残念だな」
「お前のそういうところだ。愚弟。それに一度家に帰って虫よけのお香を焚かないとな」
のんびりとお茶を飲むウタを見た出雲。
虫苦手なんだと八雲は理解する。
挨拶を交わしてから傀儡館を出てしばらく。
「あのさ。出雲」
「ん?」
「俺、じっさまいわく龍の加護、らしいんだけど、その、関係あるかな。糸切れたって。もしそうならいろいろと面倒なんじゃ」
しばらく悩んだ出雲は一言。
「加護は複雑だからな。詳しくはわからんが、戦闘系であってもなくとも私は八雲には隣にいて欲しい。それと加護持ち用に対策はねっておくことにする」
「そっか」
笑顔を返せば出雲が、出雲が屋台にあるものなら何でも買うぞと財布を向けてくる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる