龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業

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護衛について(おまけ)

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ルークスは成人してすぐ、騎士団の一員となった。
元々王子の練習相手として、度々顔を出していたし、どうやら竜人の国の騎士の学校でも優秀な成績を収めたらしい。
元々父親が騎士団の一員だったこともあり、下っ端でありつつ、騎士団長の見習いとして働くことになった。

なので今は義弟と一緒に剣の腕を磨くルークスたちを見学する。
剣の実力はないが、先日事情があって数年ほど寝込んでいたので、体力作りに走ったばかり。
火照った体を冷まして随分立つがまだ汗が流れる。

その横で汗一つかかず、アレクサンドラを二週遅れにした二人は遠慮なく剣の腕をぶつけ合っている。
「学校か」
いいなぁと思う。
お友達が欲しい。
だが種族的には無理な授業も多いから。とルークスに言われた。
それに養父様が家庭教師を雇ってくれている。
ただ一度集団授業を受けてみたいという気持ちもある。

背後に立つサンムーンに気づいて見上げれば、水を差し出してくる。
何杯目だろうそれをお礼を言いながら受け取って飲む。
水だけでお腹が一杯になりそうだが、倒れられたら困ると心配性な旦那様にお礼をもう一度言う。

竜人族は回復力が高い。
呪いなどの耐性は低いらしいが、純粋な暴力については平然としている。
例えば骨折していても一日で治るし、腕が引きちぎられていても適当に縫い合わせておくだけで大抵はくっついている。

崖から落ちただけで死ぬ人間がいることが、不思議でしょうがないとサンムーンが言っていた。
目の前に居ますといえば、だから生きているのが不思議だと言われた。

ルークスはそのうち王族の護衛になるだろうと言われた。
実力も申し分なく、優秀なのもそうだが年齢が近いのが大きいらしい。
確かに王族の義弟と遠慮なく打ち合えるのだから流石だと言える。
ただ義弟と何らかの賭け事をしながら勝敗を競うのはどうかと思う。

サンムーンに聞けば、本人たちのやる気に繋がるからと余程のものでない限りは止めないらしい。



訓練を終えて、養父母様たちに呼ばれていたので顔を出す。
「養父様、養母様。アレクサンドラ、ただ今参りました」
「アレクサンドラ。来たか」
珍しく本名を呼ばれて何かあったのかと首を捻る。
既にサンムーンと、ルークスと義弟がいる。
二人とも若干ボロボロなのでサンムーンの訓練を受けたか、お互いの手合わせに熱が入りすぎたか。
後で手当をしなければと心に決める。

「護衛にルークスを付けようと思う」

しばらく養父様を見てから、ルークスを見て養父様へ視線を戻す。
「え?」
「今まで護衛をつけずともお前を害することはほとんどなかった。勇者のときぐらいだろう」
勇者の一件で数年だけ周囲に護衛と称した竜人族がいて、街など行くとき動きにくくて嫌だったのを思い出す。
後、あまり知り合いでもない竜人族たちだったのですごく緊張した。
しかも毎日のように護衛が変わって名前を覚えるのも難しく、慣れる暇もなかった。
それもわかってか数年で無くなった。
「今までは影から護衛をしたり、団長の使用人たちが表立って警戒してくれていた。だが今後人族の出入りも多くなり外に出ることも多いだろう。そうなると王族が護衛の一人もつけないのはどうかと言われてな」
そこでとルークスを見る。
「そうなってくるとなんだかんだで慣れてる彼をつけるのがいいかと思ってな」
「えっと」
「お、私は、騎士団の一員として与えられた職務を全うするだけです」
「基本は騎士団にいて、町中を歩くときや国外に行くときには連れて行くようにな。団長も一緒だろうが」
ぎりぎりと歯ぎしりの音になんだろうと見れば正体は義弟。
「お前が兄上の護衛なんて認めないからな」
「王子の護衛するよりマシだ」
はっと鼻で笑うルークス。
昔ならツンツンしていたのに、そのたびに寂しいと反応していたからか、今じゃあ素直になっている。
サンムーンから拳骨を喰らい頭を抱えるルークスにざまぁと笑った義弟にも拳骨が落ちる。
「アレク。気楽にな。対外的な問題だから。普段は友人として一緒にいると思えばいい」
「そっか」
「それにこの次男バカよりアレクサンドラ可愛い子供の防御を固めるのを優先したいのよね」
養母様の言葉に確かに弱いもんなぁと納得してから落ち込む。
ルークスを見れば、よろしくと片手を振りながら王子の睨みをいなす。
とりあえず今後の行動をルークスにも伝えなければいけないことを頭に刻む。
話も終わり、じゃあ手当をと二人を見るが体の傷は見当たらない。
回復力高いなぁと遠くを見つめる。
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