龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業

文字の大きさ
上 下
15 / 20

星からの歌を(おまけ)

しおりを挟む
アレクサンドラは色とりどりの短冊が飾られた木を見る。
いろんな願い事に、今年の願い事を考えながら昔を思い出す。


まだこの国に来た頃。
王も王妃もこちらに関わってこなかった。
世話をしてくれたリザベスとその子供たち、ルークス兄妹とはまだ仲良くしていたと思う。

ある日、ルークスが短冊を持ってきてくれた。
これに願い事を書くと叶う。と。

文字を習っていたこともあって、いい機会だと言われたので、願い事を考えてみた。

一番に出てきたのは
母に会いたい。
その気持ちだった。
それはリザベスの手前、書けなかった。
けれど、その感情だけが芽生え始めて辛かった。
精霊には心配されて、その様子を見た竜人族たちにも心配された。


お祭り当日は曇り模様だった。
曇りでもお祭り自体はするらしいのだが、それでも肩を落とすと聞く。

何もかけない短冊を片手に庭園をうろうろしていた。

「アレクサンドラ様?」
声に振り返れば、サンムーンが不思議そうに、近づいてくる。
おっかなびっくりで差し出してくる手を握る。
「どうかしましたか?」
左右に首を振る。
だが手に持った短冊に気づいたらしく見つめてくる。
「お願いが決まらないのか?」
「っ、あ」
口を開き、しかし勇気が出ない。
握ってくる手が優しいのに気づいて見つめてから告げる。
「お、か、さん、会いたい」
その言葉を絞り出し、瞬間、喉が痛む。
雨でも降ってきたのか、地面が濡れていく。

サンムーンが驚いたように目を見開き、それから目元を拭ってくれる。
それで地面が濡れたのは涙だと気付き、涙が止まるまで何度も拭ってくれる。
そして優しく触れて、そして優しく告げる。

「じゃあ、その願いを書こう」
驚いて見上げて、しかし左右に首を振る。
出来ない。
わかっているのだ。
母は死んでいる。
最後の記憶にある母が死んで引きずられていく姿が頭から離れない。
助けることもしなかった自分に会いに来るはずない。
母は生き残った自分を許さない。
会えるはずが、ない。
「今日は、星祭。空から亡くなった人が見ていると聞いている。今日なら空高くの木に括り付ければ、きっと、見てくれる」
精霊が騒いでいるのに気づく。
自分が泣いていると聞き、そして、泣かせただろうサンムーンを睨んでいる。
駄目だと叫ぶ。
それから空を見ればどんよりとした雲。
どっちにしても見てもらうことは出来ない。
「大丈夫。俺が空高くの大樹まで連れて行ってやる。だから、書いてくれ」
その言葉に短冊を見下ろす。
差し出されたペンを受け取り、流されるまま、いびつながら文字を書く。

「はは、あいたい
       アレク」

書いたと同時に、巨大な竜が目の前に現れる。
白銀の竜。
綺麗だと見惚れていれば乗れと言われて、咄嗟に腕に抱きつく。
そして空高く飛び立つ。


色とりどりの短冊がついた木の、まだついていない先に結えるように言われて言われるがまま付ける。

「きっと会えるさ」

その言葉に、母を想って空を見上げる。
いつの間にか雲が消えて、夜空が輝く星と、地上には彩り鮮やかな星が光り輝いている。

綺麗だと見つめていれば眠気に襲われる。




歌が聞こえてくる。
「アレク」
手を繋いだ先にいる。
母が、いる。
「歌いましょう。辛いときも悲しいときも、歌を奏でましょう。私の愛しい子。私の母から教わった、そしてあなたに繋ぐ歌を忘れないでね。そしたら。私はあなたを見つける事が出来るのよ。何時だって見守っているからね」
歌を歌う母。
母が、笑っている。
大好きな母。
「この歌であなたのお父さんと結婚できたの」
そんな優しい思い出を紡ぐ母。


目を開けて飛び起きて、ベッドの上。
リザベスが起こそうとしていたらしいが、挨拶もそこそこに訓練所に向かう。
白銀の髪に気づいて近寄る。

「アレクサンドラ様」
驚くサンムーンに、告げる。
「母、夢いた。歌、教えてくれた。聞いて」
サンムーンの硬い手を握りしめながら告げる。
「あ、では、訓練が終わったら伺うので」
満面の笑みを浮かべて頷く。


それから毎年短冊に書く願い。
あるときは
「サンムーンに会いたい」
「愛称を呼んでほしい」
「サンムーンとお出かけしたい」
「サンムーンが戸惑うことがないと嬉しい」
そして少しずつ心惹かれていく日々。
「サンムーンと恋人になりたい」
そんなふうに願うようになった。
そして結婚した現在。


旦那様の姿を見かけて近づく。
「アレク」
優しい笑顔に近づく。
「お帰りなさい」
「只今。何を見てたんだ?」
短冊を示す。
「今年の願いは何にしたんだ?」
「ナイショ」
微笑む。
サンムーンは少し残念そうにしながら色鮮やかな短冊と輝く夜空を眺める。
その横顔を見てから今一度空を見る。
自分の短冊もその中にある。
サンムーンは見つけようとしているのだろう。
見つけてくれるかなと母から受け継いだ歌を口ずさむ。



「この先も皆と幸せの思い出を作っていけますように」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

【完結】役立たずの僕は王子に婚約破棄され…にゃ。でも猫好きの王子が溺愛してくれたのにゃ

鏑木 うりこ
BL
僕は王宮で能無しの役立たずと全員から疎まれていた。そしてとうとう大失敗をやらかす。 「カイ!お前とは婚約破棄だ!二度と顔を出すんじゃない!」  ビクビクと小さくなる僕に手を差し伸べてくれたのは隣の隣の国の王子様だった。 「では、私がいただいても?」  僕はどうしたら良いんだろう?え?僕は一体?!  役立たずの僕がとても可愛がられています!  BLですが、R指定がありません! 色々緩いです。 1万字程度の短編です。若干のざまぁ要素がありますが、令嬢ものではございせん。 本編は完結済みです。 小話も完結致しました。  土日のお供になれば嬉しいです(*'▽'*)  小話の方もこれで完結となります。お読みいただき誠にありがとうございました! アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会で小話を書いています。 お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354

好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼 *全12話+後日談1話

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~番外編春人が夢で見た二十年後の王子と護衛騎士~

クロユキ
BL
ベルスタ王国第五王子ウィル・テラ・セルディ・ベルスタ二十年前に亡くなるが、異世界から坂田春人高校二年がウィル王子の身体の中に入りそのままベルスタ王国の王子として生活をする事になる。城内では兄王子に護衛騎士など毎日春人に付きまとう日々…そして今のベルスタ王国の王が代わり、春人ことウィル王子が王様になったお話。 春人の夢の中での話で、ウィル王が兄王子達に護衛騎士に相変わらず振り回されます。 現在更新中の兄弟とはまた別の話になりますが、番外編だけでも読めるお話しになると思います

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

溺愛お義兄様を卒業しようと思ったら、、、

ShoTaro
BL
僕・テオドールは、6歳の時にロックス公爵家に引き取られた。 そこから始まった兄・レオナルドの溺愛。 元々貴族ではなく、ただの庶子であるテオドールは、15歳となり、成人まで残すところ一年。独り立ちする計画を立てていた。 兄からの卒業。 レオナルドはそんなことを許すはずもなく、、 全4話で1日1話更新します。 R-18も多少入りますが、最後の1話のみです。

処理中です...