龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業

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子供たちと遊ぶアレクサンドラをルーカスは眺める。

ルーカスは昔、アレクサンドラが嫌いだった。
母を取られた気がして。
母は新しい息子なのだと楽しそうで。
父は人から受けた呪いで眠っているというのに。


だから許せなかった。
父の次に尊敬するサンムーン団長が困ったように、照れ臭そうに見つめる姿も。
彼はほとんどが人形のようだったが母とサンムーンだけには懐いており、母の言葉には反応した。
またサンムーンのくれる飴玉を自ら口に運び、その包装紙を未だに大切に持って宝物だと言う。

今思えば当然の反応だった。
竜人族は人を憎む。
そんな視線を向けられた中での生活で、普通と変わらず接してくれる母やサンムーン団長に懐くのは明白だった。


とはいえ、引っ張るだけでコケて、走らせても自分より遅い。
真似て剣を振って、ゴツンといい音を立てて頭をぶつける。
蹲って痛みに涙を堪える。
サンムーンに
才能はないと言われて落ち込む。
今まで見てきた竜人族なら、ありえないことだった。

なんだか放っておけなかった。
もちろん、竜神族が崇拝する多数の精霊を従えているのもあったし、それが羨ましかった。
しかも彼は精霊が会話をしてくれる存在。
竜人族ですら精霊が望まなければ声すら聞こえないのに。

そんな精霊の加護に、少しでもおこぼれがあれば父を救えるかもと浅ましくも思っていた。
自分以外にも使用人の子たちを連れて子守の真似をし始めた。
子守されているようにも思えたが。

ある日、王妃と王が傍目から様子を伺い微笑ましげだった。
またある時はお小遣いを貰ったと教えてもらった。
折角だからとお金を預かり飴玉を買ってきてあげたら大層喜んだ。
とはいえ当時は無表情で今よりも反応はなかったが、それでも喜んで口に運んで、お礼に歌を歌ってくれた。
さらに自分と分けて、一日で食べつくしそうな勢い。
そして相変わらず母に怒られて半ば強制的な約束をさせられていた。
それを今でも守っているのだから驚く。
自分なんて一日守ればいいほうだ。
時々母がアレクサンドラを怒るとき精霊が敵意を持って反応を示すことがある。
だがごめんなさいとアレクサンドラが言うと精霊は特に攻撃することなく大人しくなる。
母にそんな精霊に害されるのは怖くないかと聞いたがアレクサンドラが我儘になって皆から嫌われるほうが恐いと返された。
さすがだと思った。

またある日に、病院に行くと今までお城から出ていなかったアレクサンドラがいた。
そんな歌を歌うアレクサンドラに驚いていれば父が目を覚したのだと気付いた。
どうやらアレクサンドラの歌には精霊の力が宿り、それが父を癒やしたのだと後に知る。
アレクサンドラ自身は何かしたのかは無意識で、母に無許可で出かけたことを怒られてしょんぼりしてた。
もちろん、母も感謝はしているのだがそれ以上に城からいなくなったことで半狂乱だった母にとってはいないことが恐ろしかったらしい。
アレクサンドラを叱った。
あいつの病院嫌いはこれが原因だとはっきり言える。
ただ医者はサンムーン団長の過保護で呼ぶことが多いから今の所問題ないだろう。

ある日、溜まったお小遣いを国民のために使いたいと母に提案。
母と頭を捻った後、寄付をすると王と婚約者になっていたサンムーン団長に伝えた。
珍しく張り切るアレクサンドラに、既に溺愛し始めていた二人が何かしたいと思うのは当然だった。

お陰で大泣き。
始めてあんなに泣いたのを見た気がする。
ただ馬鹿とか、許さないとかの可愛い言葉に対して、精霊が怖かった。
必死に妹と王族の子どもたちも含めて宥めたのは懐かしい記憶。
アレクサンドラのいないところで、王妃様と母が、二人を一緒に怒っていて怖かった。
でも、子供心ながらに自業自得だとも思った。
本当に色々と怖かった。

その後再びお小遣いをためたアレクサンドラはお菓子を買って、今度は自力で、他にも手伝いをしてもらいながらせっせとお菓子を配った。
今度は満面の笑顔を見れたので王とサンムーン団長は大喜びだった。
まぁ、はしゃぐなと母と王妃に後で咎められていたけど。

いつの間にか商工会会長の八百屋のおっちゃん、子供たちからも恐れられる最凶の男すらアレクサンドラにはデレデレ。
端から見てはわからないが、いると聞くと必ず差し入れを持っていっている。
店を開いている竜人族ならアレクサンドラに利用されたいし、お近づきになりたい。
何でも精霊の加護のお零れもあるが、笑顔が幸運を呼ぶと言われているそうだ。
確かに、幸せのお零れが貰えそうな笑顔である。
なので商品開発が商店街(特に肉屋)では行われている。
停滞していた都市が、数百年ぶりに発展したと父から聞いた。
長く生きるから発展が遅れるのだと言う。
そういう意味でもアレクサンドラの存在は大きいらしい。

母は自分たちも大切だが、人一倍アレクサンドラが可愛いらしい。
王族の養子になった今も、息子なのだと言い、時折くれる花を喜んでいる。
同じように花をプレゼントした妹にも大喜びだった。
まぁ、年齢的には頼りないけど兄ができたみたいで俺も実は嬉しい。
あれで二十歳すぎ年上は詐欺だと思う。
妹も自分より懐いていて会いたいと文句を言う。

「ルー、クス。いっしょ。うたお」

昔は嫌いだったけれど今は大切な家族だ。
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